恋の終わりもその先も~ずっと好きだった幼なじみに失恋したので、

愛早さくら

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07・前世小説

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 さて、リシュの趣味・・は単純に言うなら読書である。
 それは一種の活字中毒とも言えるほど。
 時間が許す限り、なにかしらの文字を追っている。
 それは資料だとか論文から始まり、全くの空想上の創作物や歴史についての書物、はたまた紀行文や官能小説まで。
 ジャンルを問わず知識を貪っているのだが、その中でもひときわ好んで手を伸ばすものがあった。
 それがつまり、マディが当てこすったいわゆる「前世小説」だ。
 この世界で100人から1000人に一人ぐらいの割合で、いわゆる前世の、特に異世界の記憶を所持している者が存在した。
 国によって覚醒者や再生者などと呼ばれる彼らの記憶の鮮明さや量はまちまちで、更に前世を思い出すタイミングなども一定ではない。
 むしろいつ、誰がそのような記憶を思い出すこととなるのか、それは誰にも全くわからず、また誰に起こってもおかしくはなく、一種の、避けられない病気のようなものと捕らえられている。
 特に生まれた時から記憶がある者ならともかく、ある日突然前世を思い出す者の中ではこれまでこの世界で生きてきた記憶の方がこそ、曖昧になってしまったり、それどころか記憶全てくしてしまうような者もいて、現状、それを避ける方法は全く確立されていないのである。
 もっとも、記憶を失くすと言っても、多くの場合は時間の経過と共に馴染む・・・のか、徐々に思い出していくことが多いのだけれど、本人が思い出したくないと思っている場合は、記憶が戻るようなことはなく。あるいは本人の意思にかかわらず、近くにより魔力を多く持つ者がいた場合、その者の意向が影響を与えることすらあった。
 いずれにせよ、前世を思い出すことそのものは、誰にも避けられないものであることは間違いない。
 そしてそういった異世界での前世に関する資料や、あるいは前世の記憶に基づいた私小説や創作物、または資料などから着想や連想を得て書かれた物語など。前世の、特に異世界にかかわる書物全般を、『前世小説』などと呼ぶことがあった。
 マディが指して、リシュが好んでいるのはこれである。
 リシュに前世の記憶はない。ないが、おそらくはだからこそ、この世界とは違うことわり、この世界にはない技術や常識、習慣などが興味深くてならず。そういった書物を、好んで読みたくなるのだろうとリシュは自分で判断していた。
 もちろん、それはマディも知っていて、だがマディは特に読書が趣味だとかいうわけではないので、リシュが時折口にする、前世小説由来の言葉などに、呆れたような表情を隠さないのである。
 特に嫌悪を抱いているだとかいうわけではないようなのだけれども。
 また、よくわからないことを言っているなぁといった具合だ。
 理解したとも思っていないから、そのような反応となるのだろう。
 嘆かわしい話だな、とリシュは思っている。

「魔石や魔力に頼らない動力だとか、通信手段。特にインターネットだとか言うのがあれば、便利そうだと思うんだけどね」

 他の電子機器や機械など似たような機能を持つ物はあれど、全く同じものは存在していない。
 それは異世界にはない魔石や魔力、魔法やら魔術やらがあるからかもしれなかったし、やはり異世界にはいないらしい魔獣だとか幻獣だとか、それらが影響しているのだろうと思う。
 実現しない夢の世界。
 だからこそリシュは、そういったものに憧れてやまないのだった。

「もっとも、セフレって単語については、その限りではないけど」

 いったい何の会話を引きずっているのか。
 ところで君は俺の発言を、折に触れ『前世小説』かぶれだとか当てこするけれど、などと帰り道。執務室から本部施設の出口へと向かう道すがら、ぺらぺらと話し始めたリシュに、マディは心底うんざりとした顔を隠さなかった。
 けれどそんなマディにリシュは全く構わず、好き勝手に話し続ける。
 いったいどこに話が帰着するのかと思えば、数時間前のやり取りで出た単語についてだったらしい。
 何言ってるんだ、こいつ、と言わんばかりの、ある意味いつも通りなマディの表情を見てリシュは笑う。
 それでも否定の言葉だとか、そういうのは出て来ないんだなぁ、なんて思いながら。
 セフレってつまり、今の俺たちの関係性をぴったり言い表した単語だと思うけど。
 ぽつり、落とした内心は、当然ながらマディには届かないままだった。
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