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第1章・泣き止まない我が妃へ(ルナス視点)
10・受理できない嘆願と、泣くばかりの彼について⑧
しおりを挟む控えめに言って夢のような夜だった。
ああ、いや、わかっている、最低である。
泣いている彼に無体を強いた。
情けを、いくら侍女からそう言われたからと言って、それでも俺がやや強引に彼に行為を強いた事実は変わらない。
あんなもの、実際には慰めになどなるはずがなかったことだろう、その証拠のように彼は泣き止まず。
朝、目が覚めてからも、彼はほとほとと涙をこぼした。
朝日の中で見る彼の涙は格別に美しく、俺はまた興奮してしまったのだけれども、流石にそのまま再度、彼を求めたりなどはせず、だけど抱きしめてあやすように目尻にくちづけを落とした。
しかし何より驚いたのは、その時すでに彼が俺の子供を身ごもってくれていたことだった。
もっとも、成し始めて数時間、不安定であることは確かで、それでもわからないはずがない。
気付いて目を見開いて戸惑う俺の前で、彼はやはり泣くばかり。
明確な言葉も何もなく、だけどそっと包み込んだ体は強張ることなく、俺に身を預けてくれていて。泣いて、泣いて、泣くばかりだけれど。でもきっと俺を拒んではいないのだろうと、俺はこっそり嬉しく思った。
それから毎夜、俺は足しげく彼の元へと通っている。
なんだったら俺の寝室はすでにあの塔の最上階、彼のそれと同じ部屋だ。
でも。
「泣き止まないんだよなぁ……」
俺はまたしても机に項垂れた。
彼を迎え入れて。すでにひと月ほどが経っている。
彼の宿してくれた子供も、そろそろ安定してきた頃合いだ。
勿論、安定してきたからと言って、彼の元へと訪れる頻度を落とすつもりなんてない。
でも。
「ま、彼の人の態度はともかく、拒まれてはないんですから、それで良しとすべきでしょうよ」
サネラの言葉はにべもない。
「いや、でもさぁ、出来ればやっぱり、笑った顔が見たいっていうか……」
泣き顔ばかりではなく。出来れば彼には笑ってほしかった。
笑顔が、見てみたかった。
「だからそれはあんたの頑張り次第でしょうが。さっきから言ってますがねぇ、彼の立場からすれば、そんなの過ぎた望みってやつですよ」
そんな風に言われると、返す言葉が見当たらない。
なにせ彼のことは、いまだにあの塔に閉じ込めたまま。彼に自由一つ与えられず、それでどうして笑顔など、引き出せるというのだろう。
「なんかいい案ないかぁ、サネラぁ……」
「そうは言っても……あんたが夜に塔へ通うのはともかく、あからさまに贈り物など送ってはおそらくそもそも彼を塔に留め置いている意味がなくなりますしね。それに調べた限り、彼は物欲にも乏しいそうですよ」
「あー、贈り物もダメってことかぁー……」
俺の執務机に山と積まれた書類を整理する手を休めないまま、だけどサネラも一応は考えようとはしてくれている。
サネラとしても、泣いている彼を見るばかりなのは心苦しいのだろう。
とは言え、何も言い案などは浮かばないらしい。
そもそも、今の状況では彼に過剰な予算も避けず、日々、おそらくは退屈しているだろう彼の暇つぶしになりそうなものを差し入れることすらおぼつかない。
一応、ある程度の書物や室内で可能な手芸用品などは予め塔に用意しておいたのだけれど。
現に今、俺のいない日中は彼はそれらで時間を潰しているのだと聞く。
他に何か。彼の為に出来ること。……――何も思い浮かばなかった。
「とりあえず」
ため息とともにサネラが口を開く。
「あんたの精一杯で優しくして差し上げる以外にはないんじゃないですか」
泣く子の宥め方など、知らないのはサネラも同じ。だからなのだろう、サネラもまた、どこか途方に暮れたような様子なのに、俺も、仕方がないかと溜め息を吐いた。
「あー、そうするしか、ないよなぁー……」
「ええ、そうですね」
結局、何の解決策も見いだせず、今の俺にはやはりなす術など何もないままなのだった。
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