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第1章・泣き止まない我が妃へ(ルナス視点)
12・君に捧げる花の色②
しおりを挟む塔の内壁や家具は、一応気が滅入らないようにと明るめの色で揃えてあり、逆に言うと少々色味が乏しい。
だからひとまずと、持ち込む一輪の花は、鮮やかな色の物を選んだ。
花言葉などはわからないから、そこまでは気にしないことにする。
ただ色は彼のイメージに近い寒色系にした。
なお、たとえ花一輪であっても、いずれにせよ大っぴらには選べないので、俺の執務室に飾られているものの中から一輪を抜き取ることになった。
それぐらいならば、流石に誰かに見咎められることもないだろうという判断だ。
否、例えばごくごく時折であるならば、ご機嫌伺だとかなんだとか理由をつけることが可能だろうか。でも流石に今すぐになど出来るはずはないし、俺は今すぐにでも彼に何かを送りたかった。
俺の執務室には常に、侍女や侍従、護衛が控えている。護衛は流石に噂好きだという者は少ないが、侍女や侍従は別で、そして彼ら彼女らでさえ、厳密に評するなら信頼しきることはできなかった。
いつどこに誰の目があるのか、全くわからないのである。
執務室の中から花を一輪。
たったそれだけでさえ、自由には出来ない自分の立場が悩ましい。
俺が息を吐いて何も気にせず発言できるのは、それこそサネラの前でぐらいのもの。
だからこそ彼の前では飾る必要がなく、口調も荒くなれば、心情もいくらだって吐露できた。俺が何か贈り物をしたいというのも、考えた末、それは花一輪だとも伝えてあったので、協力してくれたのはサネラで、俺が選んだ花を、彼の方が抜き取ってくれる。
その上で周囲に悟られないようにと俺に手渡した。
俺は受け取った花にこっそり保存魔法と認識阻害をかけ、そっと潰さないようにだけ気をつけて胸元に忍ばせた。
俺は魔法や魔術が苦手というわけではないけれど、得意というほどではなく、特にかけることが出来る認識阻害なんて、この小さな花、一輪程度。だからこそこっそり行動したり、花束を用意したりなどが出来ないのだった。
同じく結界を張るのも得意ではないので、それはつまり彼のことを守り切れない理由に通じた。
あの塔にはもともと塔と場所そのものに、魔力を流せば容易に結界が施せるような仕掛けが仕込まれており、だからこそ選んだ場所なのだ。そうでもなければ、まるで犯罪を犯した者を閉じ込めるかのようにも思える塔の上など選ばない。
どきどきと、妙に高鳴る胸を持て余しながら彼の元へと向かう。
彼を迎え入れてからひと月と少し。こんな風に、なんだか落ち着かない気持ちで塔へと通うのは、すっかり俺の日常と化していた。
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