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第1章
1-31・過日。されど君は②(ルスフォル視点)
しおりを挟むティーシャ。
そう、少年の名を聞いたのも、随分と後になってからだ。
何故そんなことを思い出すのか。それはその少年とそっくりな青年が、今、俺の横で寝ているからに他ならなかった。
「ティーシャ、か……」
さら。艶やかな銀の髪をひと房すくう。
ぐったりと目を瞑る彼の顔には疲労の色が濃い。
当たり前だろう。そう思う。
だって彼はこの国の王妃。当然、日中は忙しく、その上、少しでも時間が出来れば、足しげく王太子の元へも通っていると聞く。
体を休める暇なんてきっとない。
にもかかわらず夜は夜でこうして、俺が随分と長く彼を苛んでしまうばかりなのだ。
窓の外では遠く空が白んできている。きっと明け方が近いからなのだろう。
俺も当然少しばかり寝不足なのだが、それでもそんなもの彼の比ではないだろうと思った。
なにせ俺と彼ではかかっている負担が全然違う。
それにどう見ても彼とでは体力にも差がありそうだ。
細く華奢で、纏う色彩も相俟って、儚げなばかりの美貌を誇る彼。
美しさはかつての少年と同じ。否、それ以上だ。
彼はまるであの少年が、少しばかり成長した姿にしか見えなかった。
おまけにティーシャ、呼び名まで同じなのだという。
彼を俺が見たのはあの10年前の一度きり。
俺が目覚めたあの瞬間だけ。
この彼は、今26歳だと言っていたはず。あの少年の年はわからない。でも、中学生ぐらいだったということは13か14かそれぐらいだったのではないかと思う。
少しだけ歳が合わず、そもそも呼び名こそ同じだけれど、名前その物も違えば立場も、また髪色も目の色も違っている。
別人。
なのに。
「なんでこんなに似てるんだろう……」
こんな奇跡のような美貌を誇る存在が、彼以外にいるとは思えない。もっとも、彼の血縁には何人か似た顔がいるらしいと聞いているのだけれども、少なくとも俺が知っているのはこの彼とあの少年だけで。
ならもしかしたらあの少年も彼の血縁なのかもしれなかった。
「血に、惹かれてるのかな……」
大帝国の王族なのだという。
だが、そう考えてみても違和感があった。
想像する。彼と同じ顔をした別の存在。全く心惹かれる気がしない。俺の心の琴線を揺らすのは、あの少年と彼だけだ。
少し、彼を思うだけで、どうしてか下半身が熱く滾る。
わけのわからないこんな自分の反応が、いっそ恐ろしいほどだった。
この10年、俺の下肢は一度として反応したことがなかった。
少し前に亡くなった、あの美しく聡明で、穏やかだった、俺の妻だった女性にさえ、全く何も反応せず、彼女には申し訳ないばかりだったのに。
どうしてだろう、彼に対しては初めから、恐ろしいほどの興奮を覚えて。一度でも彼に触れ始めてしまうと、離せず、止まれず。そうして日中、彼と離れている間も触れたくて堪らず、ついに毎夜、彼の元へと通ってしまっている。
おまけに、そうして触れたらまた、先程までのよう、長く苛んで離せない。
自分でも自分が怖くて堪らない。どうしてだかわからない。なのに。
『陛下。どうぞ、お気になさらず。どうか私にお情けを』
そう、柔らかく彼に導かれると、俺は容易く彼へと堕ちた。我も忘れて彼に触れ、思うがままに彼の腹の中へ、熱く滾った俺自身を突き入れ、揺さぶって。
毎晩、行為は気持ちよくて堪らない。反面、彼がおそらく少し足りとも、快楽を感じていないのだろうことはわかっていた。
きっと痛みばかり与えている。
腹の中を好き勝手に長時間掻き回される。それはどれほどの衝撃と負担であることだろうか。
毎晩毎晩血の匂いが無くならなくて、彼への罪悪感で気が狂いそうだった。なのに止まれない。
俺は自分で自分が制御できない。
彼のことを思うなら、こんなこと繰り返していいはずがない、わかっている。なのにどうすればこれを辞められるのかが、全く何もわからなかった。
おかげで俺は彼と少しでも一緒にいるのが怖くて、でも。
「毎晩。俺は、君を」
ひと目でも、見なければ、どうしてか。不安で不安で堪らなくなる。
彼が、俺の目の前から、またいなくなってしまうんじゃないかって。怖くて、不安で堪らなくて。
それは彼を苦しめるかもしれない恐怖に勝ってしまう。
なんて浅ましいんだろう。
俺が、我慢すれば。俺が、堪えれば。ひと目見る、ぐらいなら。
そんな風に欲求に負け、彼の元へと通っていた。
だって会いたくて触れていたくて。それも本当。でも、それはきっと彼には負担なばかりで、これは俺の一方的な欲望で。
毎晩毎晩我慢しようと思うのに、全く一度も出来ていないのだから、いったい何を言ったって、きっと同じなのだろう。
だって彼が誘うから。そんなことが言い訳だなんてこともわかっている。わかっているのだ。
でも。
「どうすればいいのか、わからないんだ……」
こうして疲れ果てて寝ている彼を前にしていても、俺はあれほど彼を貪ったのにもかかわらず、まだ興奮を覚えている。下肢の熱を自覚せずにはいられないほど。
わけがわからないし、怖い。
自分の体が自分の物じゃないみたいだ。容易く、俺の制御を離れてしまう俺の反応。
「俺は、君を……」
苦しめたいわけでは、決してないのに。
そっと。手に掬い取った、艶やかな毛先へと落としたくちづけは、まるで密やかな祈りのようだった。
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