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しおりを挟む結局、俺と男が落ち着いて、改めてお互いについて名乗り出来たのは、数時間経ち、あの赤ん坊の授乳を一度差し挟んで、しかしすぐに再開して更に数時間。俺からすると三回目の、赤ん坊の授乳の時だった。
ちなみに途中で1度あった授乳の際には俺は半ば以上朦朧としており、辛うじて自分が何をしているのかがわかる程度、碌に赤ん坊も抱いていられず、男に支えられるがままに任せる始末。
済んだと見るやまたしてもやや強引に赤ん坊は腕の中から取り上げられ、俺はまた男に寝台へと押し倒され、揺さぶられ。眩むような快感の奔流に、今度こそ遠ざかった意識が戻ってきたのは赤ん坊の泣き声が聞こえてきたから。
うっすらとかろうじて目を開けたなら、俺はまた男が支えるがまま、赤ん坊を胸元に引き寄せさせられていたようで。眉をひそめ、流石にと自分で自分に治癒魔術を施した上で、ようやく口を開くことが出来たのである。
僅かばかりのどに痛みも感じて、そちらも治してから口を開いた。
多分そのままだときっと、声は掠れきってしまっていたことだろう。
それぐらいには耐えることなく、喘ぎ続けていた自覚がある。
溜め息を吐いた俺に、男が意識を向けたのがわかった。
「……ところで、貴方の名は?」
それにこの子はいったい。
本当ならもっと早くにしなければならなかった、言うならば自己紹介。それが今更になるだなんて。
ちらと、後ろから俺ごと赤ん坊を支えてくれている男を見上げるようにして視線をやると、男は驚いたように目を見開いていた。
いったい何を驚くことがあったのか。理解できない。
俺がこんなことを聞くとは思ってもみなかったと言わんばかりの顔だが、しかし俺は男の名前さえ知らないのだ。気になったっておかしくはないだろう。
なにせ男は俺の躊躇やそう言ったことをすべて無視して俺を押し倒してきたのだから。
しかし、男から返ってきた言葉は、
「え……名乗っていませんでしたっけ?」
そんなもので。
俺は流石に苛ついた。
どうやら男は全く何もかもを失念してしまっていたらしい。あるいはとっくに名乗ったつもりにでもなっていたのか。
「聞いた覚えはないが。そもそも俺の名も知らないんじゃないのか?」
改めて身じろいで。腕の中の赤ん坊を抱え直す。
口が離れたのだろう、むずがるのを、少しばかり補助してやって、ようやく少しだけ振り返ることが出来た。
男はまた目を見開いている。
そうしていると、ひどく惚けた顔に見えるな、そう思った。
とは言え、それでもやはり物凄く俺の好みだし、かっこいいことに間違いはないのだけれども。油断したら見惚れそうだ。
気を緩めるなと自分を戒めた。
「あ……そういえば、知りません、ね……あー……すみません、私としたことが……なんてことを……」
狼狽えている。
本当に全く失念していたらしい。
俺は深く、もう一度深く溜め息を吐いた。
頭が痛い。
否、別に何かを悔やんでいたり、後悔したりまではしていないけれども、しかし。
もしやこれから自分は苦労するのではないだろうか。そうは思ったからだった。
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