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しおりを挟むだから、言ってしまえば性交自体は、いずれは必要となるのはわかっていた。
わかってはいたのだが、しかし、である。
男は俺が思っている以上に行動が早かった。
そもそも、俺が赤ん坊に授乳している間に馬車は動き出していて、程なくして止まった時にも俺はまだ授乳中。多分、男の家自体先程男に声をかけられた所からそれほど離れていなかったということなのだろう。
貴族の家が多く軒を連ねる区画からほど近い場所ではあったので、何もおかしなことはない。
どうやら王宮にもそれなりに近いようであるし、そもそも男自身の見るからに多い魔力のこともある。
社交をほとんど免除されている俺は男の顔など知らなかったが、きっと高位貴族の家の者のはずだ。
それでいて男は当主、あるいは後継と見なされている者ではないのかもしれない、そうも思った。
もっともこの時点で名乗り合ってもいなかったのでわかりはしないのだが。
男は黙って俺が授乳を終えるのを待ったかと思うと、俺が何かを言う隙もないほどに素早く、俺をやはり赤子ごと抱えるように馬車から降ろすと、しかしすぐに迎えに出てきていた使用人らしき女性に俺の腕から取り上げた赤子を託すと、しかし俺のことは放さず、男の家らしき屋敷の中、否、男の私室だと思われる場所へと俺を連れ込んだのである。
そしてそのまま押し倒されて今に至る。
「あっ、あっ、あっ、ぁあっ!」
気持ちがいい。
別に嫌なわけでもない。
そもそも男に乱暴にされたわけでもなかった。ただしひたすらに性急ではあったけれども。
何より俺の戸惑いを、男は一切斟酌しなかった。
と、言うよりは、男自身それどころではない様子だったと捕らえればいいのだろうか。
男は、状況を全く自身で飲みこみきれていない俺を抵抗する隙も無いほど手際よく寝台へと押し倒し、服を寛げ始め、そして。
「え、ちょ、まっ……んんっ!」
待ってほしい。
訴えたかった言葉は、男の口の中へと吸い込まれていった。
強引なくちづけ。
だけど。
くちゅくちゅと口の中を、自分以外の誰かに舐めまわされるなんて初めての経験だった。
だけどひどく気持ちいい。
そう感じてしまったのは、そもそもが俺自身、男のことを、見惚れるほどかっこいいと、そんな風好意を抱いていたからなのだろう。
嫌悪など一切ない。
おそらく唾液と共に流し込まれた男の魔力が初めて感じる心地よさを俺にもたらし、俺は多分半ばそれに酔ってしまったのである。
気が付けば俺は身に纏っていた衣服を全て剥ぎ取られ、生れたままの姿を男の目の前に晒し、剰えあられもないところを、男にいじくられていたのだった。
つまりは股間とその先、男を受け入れる部分を、である。
俺はくちづけさえ初めてだった。
当然そんな経験なんてない。
けれども多少魔術の心得さえあれば、そう、致命的に傷つくなどということは流石にないことも幸いした。
普段はぴったりと閉じられている腹の中を探られる抵抗感と違和感。
そんなものがあるはずなのに、くちづけと男から流し込まれた魔力によって、酩酊していた俺には、ぼんやりと、半ばよくわからないままだった。
男自身が魔術を駆使したのか、あるいは何か滑りをよくするようなものを使用していたのかもしれない。
それさえよくわからないまま、俺は、
「ぁっ、ぁっ、ぁあっ! やぁっ……ぁんっ!」
そんなみっともない声で喘ぎ、男を受け入れていたのである。
男の手つきは丁寧だった、と、思う。多分。
だが、性急ではあったし、強引だったのも間違いなかった。
なにせ初めて感じる快感に眩んで、意識が半ば浮遊しているような気分を味わっている間に、信じられないような衝撃が体を貫いたかと思うと、俺は腹の奥深くへと、男を迎え入れてしまっていたのだから。
やっぱり、揺さぶられながらそんなことを思い返しても、何がどうしてこうなったのかわけがわからなかった。
子供の親になる。
そう頷いた時点で、こんな行為に近々及ぶ必要が出てくること自体は理解していたし、別に男との行為そのものに嫌悪もない。
なにせ今も気持ちいい。
ああ、本当に。ともすればすぐにも頭が惚けていきそうだ。
赤子に吸われ、減ってしまったのを補うのにあまりあるほど注がれた男の魔力。
それが今、俺の全身を満たしていて。
ああ。
人と人との交わりは、これほどまでに心地よく感じるものなのか。
そんなことを初めて知りながら、俺は揺さぶられるがまま喘ぐのみ。
そう、だからこの行為自体は別によくて、ただ問題は、そう……――。
「ぁっ、ぁああっ! ぁっ……ぅぁあっ……」
切なく喘いで、男に縋りついて。なのに口に出せる男の名さえ、いまだ知らない。
そんな、まるでついていけてない、性急さだけなのだった。
いや、だから急すぎる。
つまりそれに尽きるという話。
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