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しおりを挟む貴族……それも高位貴族だろうということぐらいは、見ただけで分かったはずだ。
だが流石に王族だとまでは思わなかったらしい。
わからないでもない話。
そういえば俺は街を歩く時には、目立たない程度に魔力を抑えていたのだった。
だから男……ジセスに声をかけられた時には確かに王族だとはわからなかったことだろう。
だが、この家に連れ込まれ、寝台に押し倒された辺りで慌てた俺は余裕がなくなって、魔力を抑えていた魔術が操作できなくなっていたと思われる。
にもかかわらず先入観なのかなんなのか、男は違和感を抱いたりもしなかったのだそう。
「ああ、すみません、本当に……私はなんて失礼なことを……そう、ですよね、その魔力量は……王族の方だろう多さだ」
改めて思い返してみると、自分がなぜ気付かなかったのかわからない。
狼狽える男に俺は笑った。
「いや、気にしないでくれ。王族とは言っても、そう、大層な立場にいるわけではないんだ。一応、一つ前の皇帝陛下が俺の一番上の兄でね。当代陛下は甥にあたる。とは言え、陛下の方が14は年上だし、そもそも、俺が生まれた時には両親はすでに現役を退いていた。一応王子で、皇弟ということにはなるんだが、育った場所も王宮というわけでもない。一番上の兄とは32歳も離れている上、兄弟も多い。俺は四男で、上には3人の兄と2人の姉、下にも妹が2人と弟が1人いる。真ん中に近い俺なんて、両親からの関心も薄いぐらいで、何をしていたって咎められやしないんだよ」
だから別にこの子の親になることだって、特に反対されたりはしないだろうし、何も気にすることはない。
肩を竦めた俺に、しかしジセスは弱った顔のまま。ややあって躊躇いがちに、だけどはっきりと頷いた。
「そう……おっしゃって、頂けるなら……よいの、ですが……」
何よりはじめに申し出た、子供の親になって欲しいという言葉を撤回するつもりはないらしい。
未だ腕に抱えたままだった子供を見下ろすと、子供はすっかりもう俺の魔力に染まり切っていた。
もう、元の魔力など一見するだけではわからないほどに。
そんな状態に思う所がないわけではないが、元より望んだのはジセスであり、おそらくは子供自身。親になるというのはこういうことだ。
もう三度、授乳した。
それはこれからも続いていく。
「ああ、でも流石に一度、家に連絡だけはさせてくれ。いや、この子を連れて顔を見せた方が早いか?」
先程ジセスにも言った通り、反対されることはないだろう。
親を亡くした子供の新しい親となる。
流石に名前も知らなうちにというのはどうかと思うが、頷いたのは俺自身。
ちらとジセスに視線を投げると、やはりジセスは物凄く俺好みの容姿でかっこいいし、先程の行為を思い返しても嫌悪感はない。
腕の中の赤ん坊はかわいいし、多分俺と一緒にジセスもまた、この子の親となるつもりであるはずだ。
つまり俺はジセスと婚姻を結ぶことになるのだろう。
俺の意見も何もかも無視して押し倒してきたのは、そういうことなのだろうとしか思えなかった。
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