結婚10年目で今更旦那に惚れたので国出したら何故か他国の王太子に求婚された件。~星の夢2~

愛早さくら

文字の大きさ
31 / 206
2・旅程と提案

2-14・国境付近にて

しおりを挟む

 ミーナをがっかりさせながらも、国境付近まではほとんど何事もなく進むことが出来た。
 その代わりのように、出しっぱなしの幻影は相変わらず幾度か襲われていたし、検問も厳しいまま。
 挙句の果てに、もう一つの囮である商会の者たちが何者かに襲われ、怪我を負ったらしい。幸いにして大したことにはならず、同行していた魔術士による治癒で事なきを得たのだとか。
 いずれにせよ此処まで来ると、狙われていることだけは確実だった。
 ティアリィ達に、心当たりなどなく、理由もわからないまま。
 だが、それとは別に今度こそティアリィ達が襲われたのは、くだんの囮として別行動をしていた者たちとの合流を目前に控えた林の中で、どうやら過剰な検問や、今まで幻影を襲ってきていた何者かの作意の外の、ただの強盗の仕業であるらしかった。
 何分、襲い掛かってきた者たちに統率などは何もなく、腕前も大したことがあるようには見えない。しかしそれでも人数が多かったので、場所の確保のためにも、否、いない方が動きようがあると言われ、ティアリィ達は今まで行動を共にしてきていた商団とは、一端、別れて動くこととなった。

「正直あんたらは邪魔なんだ。先に行ってくれた方が助かる」

 そんな言われ方をしたら、従わないわけにはいかない。少し先、林を抜けるとすぐの場所は、ちょうど、別行動の者達とも合流する予定の大きな街道と交差する地点になっている。
 其処で落ち合おうと短く言葉を交わし合い、促されるまま、盗賊たちを商団の者たちがひきつけてくれている間に先へと走り抜ける。
 追ってきている者もいるにはいるが、大部分をひきつけるのに成功しているらしく、数えるほどの人数だった。
 とは言え、気がかりなことに違いはなく、ティアリィはピオラに自然厳しくなった口調で確かめる。

「結界は?」
「すでに彼らにはかけております。国境ぐらいまでなら持たせられるはず」

 対象は勿論、自分たちではなく、後ろに残してきた彼らの方。
 違わず意図をくみ取ったピオラに頷いて、ティアリィは更に申し付けた。馬車の中、残りの護衛3人は外で周囲への牽制を請け負ってくれている。

「こっちの防御はいい。あっちに集中してくれ」
「わかりました。こちらはお母様が? 魔力は大丈夫なんですの?」
「ああ。さっき幻影も解いたからもう心配ないよ」

 これまで常時出しっぱなしにしていた、囮としていた幻影魔法を解いた。
 ここしばらく懸念されていた魔力消費の問題は、これで解消されたはず。

「よかった」

 ピオラがどこか安堵を滲ませた声で呟いて頷いた。

「うーん、待ってた展開ではあるんだけど……此処でじっとしてるってのもつまんないわね」

 これまで二人のやり取りを黙って聞いていたミーナが、おもむろにそんなことを言い出す。

「ね、母様。私ちょっと外で撃退して来るわ。いいでしょ?」

 眉根を寄せたティアリィを振り仰ぎ、そんなおねだりまでしてきた。ティアリィはしばし考えて、そっとミーナに触れ、彼女自身に防御魔法をかけながら渋々と言わんばかりに小さく頷く。

「……ほどほどにな」

 ミーナの魔術の腕なら問題ないだろう。何分、ティアリィとミスティの実子だけあって、魔力の多さも、それを行使する腕前もアーディに次ぐ。結界だけはピオラに勝ちを譲っていたが、それ以外に心配する要素などなかった。まだ8歳にもなっていないのだけど。幼さゆえの無鉄砲さも、ミーナならおそらく勝機に変えられた。

「やった! ありがと! 母様!」

 一瞬ぎゅっとティアリィに抱き着き、次には弾丸のように外へと飛び出していく。すぐに幾人かのうめき声が聞こえてきて、どうやら首尾よく、追ってきていた者たちを撃退できたらしいことを知った。
 いったいどんな魔法を行使したのか。この調子だと、瞬殺だったことだろう。

「ねー、母様ー、のした・・・やつらってどうすればいいの?」
「放っておいていい。どうせすぐこの国を出る」

 外から訊ねられ端的に返した。

「はぁーい」

 なんて返事と一緒に、ミーナが馬車の中に滑り込んでくる。

「手応えなさ過ぎたんだけど。これじゃ全然つまんない! んもー。後ろに残ればよかったかなぁ…」
「ミーナ」

 子供らしい我儘さで、そんなことまで言うミーナのことを名を呼ぶことで窘めた。
 ミーナは不貞腐れたようにやや乱暴に椅子に座る。
 しばらくして大通りに出たのだろう、ガタガタと派手な音を鳴らしていた馬車はその歩みをゆっくりにしたものへと変えた。
 ほとんど止まっているかのような速度で進んでいると、ガラガラと先程別れた商団の馬車が追いついてくる。どうやら無事、事なきを得られたらしい。

「数の割に大したことないやつらでしたね。いやぁ、勝手を言って申し訳ない」
「いえ。大事なかったようで何よりです」

 申し訳なさそうに話しかけられ、外に出ていたティアリィは首を横に振って構わないと告げた。
 商団の人間もにしゃりと勝気な笑みを見せる。

「これぐらい。何かなんてあるわけがございませんよ。ご安心ください」

 頼もしい言葉に頷いている間に、どうやらもう一つの集団の方も合流できたらしかった。
 そこから国境までは、今度こそ何も起こらなかった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

処理中です...