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第1章
1-7・求められるがままに
しおりを挟むペクディオはまだ陽が高い時間だったのだが、構わずリティアをそのまま寝室へと誘った。
リティアもまた、何ら疑問を抱いた様子もなく素直に従う。
それはいつも通りのことであるからだった。
ペクディオはリティアの元を訪れると、必ず寝室へと彼女を連れ込むのである。
はじめにリティアをこの離宮へと連れてきた時からそう。
永く使用していなかったゆえに、どこか埃っぽく寂れていた離宮の寝室にだけ、リティアを腕に抱えたまま、魔法を行使し洗浄した。
身を横たえても問題がない程度に整えたその場所で、ペクディオはリティアに覆いかぶさったのである。
そこには何の説明も、愛を乞う言葉さえなかった。
あったのは衝動。一刻も早く、この少女を食らいつくし、自分のものにしてしまわなければという焦燥だけだったのだ。
初めて出会った人間に、何もわからないまま連れて来られ、やはり何もわからないままその身に触れられて、しかしリティアは健気に受け入れた。
まるでそうするのが当たり前かのように、柔らかに笑んで、逞しい体を受け止めて。
その後も今まで一度としてリティアがペクディオに抗ったことなどない。
はじめはともかく、何も知らないリティアの瑞々しい肢体を貪り尽くして、彼女が意識を失くしてしばらく、ようやく満ち足りたペクディオは、その時になってやっと少しだけ落ち着いて、彼女が目を覚ますのを待って、自身に出来る全てで彼女へと愛を捧げた。
「愛している。君は私の番だ。どうか共に生きて欲しい」
と、そう、真摯に。
リティアは微笑んだ。柔らかく、清らかに。全てを包み込む慈しみの笑みで。そしてはっきりと頷いたのである。
「貴方が、望むのなら」
それから彼女は一度として、この離宮を出たことがない。
日々、適当な何かで時間をつぶしては、ペクディオを待ち続けている。穏やかに笑んで。それが当たり前のことなのだと言わんばかりの様子で。
彼女は別に人形のように意思がないだとかそういうわけではなかった。
ペクディオのすることに何も抗わないけれども、それはペクディオが、彼女を求めること以外で、彼女へと決して無体を働かないからだ。
そもそも、リティアは離宮の外へと出たいなどといったことがないので、もしそう願ったならばどうなるかわからないけれど、おそらくそれ以外でペクディオが彼女に何かを強いることはないのではないかと思われた。
ペクディオは彼女の行動を何も制限しない。
リティアは自分が思うがままに好きに日々を過ごしている。
気まぐれに、気が向いたなら編み物をして、料理をして、本を読んだ。
そうして過ぎていく日々に、リティアは疑問を持っていないのだった。
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