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第1章
*1-8・魂を震わせる
しおりを挟む明るい陽射しの下で見るリティアの肢体は瑞々しく生気にあふれ、それでいて何処かひどくなまめかしかった。
「陛下」
ペクディオにより服をはぎ取られ、何も身に纏うことのない嫋やかな手がするりと男らしく精悍な頬のラインを辿る。
ペクディオの肌は、リティアのそれよりも少しだけかさついていて、リティアの指に僅かなざらつきを伝えた。リティアが知る唯一の、自分以外の人間の肌だった。
リティアがふふと笑う。
リティアはそうやってペクディオに触れるのが好きなのだ。自分と違うのがはっきりわかって、その違いが愛おしい。くすぐったくなるようなぬくもりが胸に灯った。
自分の頬を滑るリティアの手を捕まえ、そのまま柔い手のひらにペクディオがちゅっと唇を寄せる。
「ぁっ……」
そっと突き出した舌を這わされると、リティアはびくっと体を震わせ、知らず潤みだした目で、切なくペクディオを見つめてしまった。
ペクディオはわざとリティアにはっきりと見えるように掴んだ手のひらを舐めた。
触れられたところからぬるい体温が伝わってくる。
ぴちゅ、微かな水音がリティアのなけなしの羞恥を煽った。
興奮ゆえか、息が浅くなり、いつの間にかたまった唾を、絶えることなくごくと飲む。
そんなリティアの喉の動きを、ペクディオの目が追っていた。
ペクディオの薄い唇がゆっくりと弧を描いていく。鮮やかな草木と同じ緑色の目が、ペクディオ自身の昂揚を反映してか金の光を帯び始めた。
瞳孔を彩る金環は、竜王族の証だ。普段は目立たないそれがは、興奮したり、魔力を行使するなどした場合のみ金色に瞬き、存在感を強くする。
リティアに触れて、ペクディオは興奮している。
リティアもまた、ペクディオに触れられて興奮していた。
それらの事実だけで、ぞくぞくと背筋を這い上がる何かがあって、自然リティアの目は細まり、両の口端が緩く持ち上がっていって。
「陛下」
微かな声で吐息のように呼び掛けると、ペクディオは緩く首を横に振った。
「名を。リティア」
自分の名を、呼んで欲しい。希う声でねだられ、再度ゆっくりとリティアの唇が動く。真っ赤に熟れ、艶めいたそれは、確かにペクディオが望むまま、彼の名を形作った。
「ペクディオ」
リティアの声帯によって吐き出された名は空気を震わし、ペクディオの耳入り込んだ途端、ペクディオの核のようなものを支配しだす。
それはねだらねば呼ばれない名前だった。ペクディオがこうして差し出して、はじめてリティアが拾い上げる何か。
「ああ」
吐息のよう、喉を震わせ、ペクディオはリティアの声が己を支配する感覚に酔った。
「ああ、リティア」
リティア。
そこにあったのは、番に存在を繋がれる喜びだ。
それは肉体を交わらせるのとはまた別のしかし、違えようのない快感に他ならなかった。
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