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第2章
2-6・憔悴
しおりを挟む「まだ見つからないのかっ!」
王宮では、今日も怒声が響き渡る。
ペクディオのものだった。怒鳴り付けられた兵士は、深く深く頭を垂れた。
「申し訳ございません、何分、彼の方の情報がなさ過ぎて、」
「言い訳はいい! お前は何かっ、彼女の情報が少ないのは私の所為だとでもいいたのか!?」
「決してそのようなことはっ!」
平伏する兵士に、ペクディオは更に罵声を浴びせる。
「ああっ、くそっ!」
興奮ゆえに立ち上がっていたのだが、結局苛立たしげにドスンと乱暴に椅子へと腰かけた。
頭を抱えて唸る。
この激情をどうすればいいのか。ペクディオははっきり言って持て余していた。
リティアが、突然離宮から姿を消して、今日でちょうど一週間経つ。
リティアがいなくなってから、僅か数時間後。離宮を訪れたペクディオは愕然とした。
キレイに整えていたはずの庭は、まるで突発的な強風にでも見舞われたかのように荒れ、かつ、リティアの姿がどこにもなかったのである。
その時の衝撃を、いったいどう言い表せばいいのだろう。
当然、ペクディオはリティアを探した。
離宮の中はもとより、周辺もくまなく探して、探して、探して。
リティアと出会った、あの精霊の島にまで足を伸ばしまでした。
だが、リティアはいなかった。
何処にも。影も形も気配すら、欠片も掴むことが出来なくて。
わかったのは、めちゃくちゃになった庭に反して、離宮の中に荒れた様子がなかったことから、庭まで出たのはリティア自らなのだろうということ、リティアを連れ去った存在は、離宮まで竜を駆って訪れたはずだという二点のみ。
恥を忍んで、ほんの少し疑わしく思っていた精霊にまで接触を持ったというのに、逆に彼らからは、リティアを返せと詰め寄られる始末。どうも今回のことに、精霊は関係していないようだと判断し、そこでようやく城に戻ったのは、リティアがいなくなってから実に三日は経ってからのことで、城では、今度はペクディアの方こそが行方不明になったと大騒ぎになっていた。
戻るなり、口々に騒ぎ立てる臣下達を一喝して、彼らの言い分などほとんど無視し、兵たちに最優先でリティアを探すよう命じた。そこから四日。
リティアはまだ見つかっておらず、ペクディオは憔悴する一方だった。
「リティアっ……!」
当然のことながら、執務も何も手につかず、城の機能は、この一週間、ほとんど止まったまま。しかし、ペクディオは今、そんなことにかまけていられる余裕など何処のも持っていないのだった。
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