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第2章
2-7・竜王族の番
しおりを挟むはじめから同じ部屋にいた文官の一人が、ずいと一歩前に出る。
ペクディオの側近のような存在で、普段はとても頼りにしている男だった。だが。
「恐れながら陛下。兵たちも必死で捜索致しております。しかし現状、何の手掛かりもつかめていないのです。勿論、引き続き捜索は続けましょう。陛下には今しばらくお待ち頂きたく。それに陛下にはせねばならないことが他にもたくさんあるのですから、」
「リティアを探す以外に、今の私にすべきことなどないっ!」
文官は、滞り続けている執務についてを、促そうと考えていたのだと思われる。にもかかわらず、ペクディオから返ったのは怒声だった。
文官はひどく苦い顔をする。
「陛下っ、どうなさったと言うのです?! 貴方はこの国の王なのですよ?! たった一人の人間の捜索のために、この一週間全く何の執務も行っていないだなんてっ!」
ついには文官も声を荒げ、ペクディオに詰め寄った。
兵などは、いつも冷静な文官の珍しい姿に震え上がって慄いている。
だが、当然ペクディオはそんな文官の姿にも何ら臆することはなく。
「くどいぞ。リティア以上のものなど、何もないと言っているっ!」
返したのはまたも怒声だ。
ペクディオと文官はしばし睨み合った。ややあってペクディオが、何とか僅かばかり興奮を抑える。
「……私は知っているのだぞ。表向き何かを言う者がいなくなったとしても、残ったお前たちでさえ誰もがリティアの存在を軽んじていたことを」
絞り出した声は、しかしやはり、抑えきれない怒りに満ちていた。
ペクディオの鋭い眼光に、文官が一瞬、臆する。ペクディオは更に言葉を続けた。
「お前たちは全く何も理解していないのだ。竜王族にとっての番という存在のことを。私にとってのリティアを。彼女は私の全てだ。彼女が少しでも損なわれたならば……――私はきっと生きてはいられないことだろう」
ペクディオの言葉に、文官は更に顔をしかめる。
理解できない。
ペクディオの言うとおり、まったく理解できなかった。
「っ……! どうしてそこまでっ……! では陛下は、国よりも彼のお方ただ一人の方が大事だとでもおっしゃるのですかっ?!」
「何を言っている」
「陛下……」
文官の叫びに、ペクディオは一瞬不思議そうな顔をして、その顔を見た文官はほっと安堵の息を吐きかけた。だが。
「当然だろう。番以外を選ぶ竜王族など存在しない。国となど、比べられるものか」
続く言葉は文官を、更にこの場に残っていた兵までもを、絶望させるに充分なものなのだった。
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