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12・嵐の中心のような少女。①

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 さて、では次は殿下がなぜあんな状態となっているのかの話がしたい。
 13歳になる年の春、私は予ねてからの想定通りに、王立学園へと入学した。
 殿下が入学してきたのはその2年後。私が中等部3年になった時のことで、高等部に上がってもそれは同じ。
 殿下が高等部へと進学した時には、私は最高学年へと上がっていて、それまでのように学生として過ごすのは、残りあと1年となっていた。
 その後は王宮で政務に就き、殿下の卒業と成人を待って、婚姻に結ぶこととなるのだろう。
 特に大きな問題もなく、過ぎるほど順調と言ってもよく。
 そう、それまでは本当に何も起こらなかったのだ。
 勿論、細々とした事件はあった。が、逆に言うとそれだけ。
 殿下は相変わらず泣き虫で、私はそれを諫めたり叱ったりしながら私なりに支え続けて。
 学園には生徒自治会なる組織が存在し、学生たちを取りまとめるなどと言う必要がままあった。
 慣例として、その時々の一番身分の高い物が抜擢される。
 これは将来、領地の経営など携わる可能性が高い者達に対しての、いわば練習のような意味合いがあり、一部大きな商家の跡取りなども場合によっては一員に加わった。
 あくまでも疑似体験であり練習。選別、及び判断をするのは教師で、勿論成績は加味されるが、それが全てというわけでもない。
 生徒自身の身分や立場、将来的な予想がより重要視される組織だったのだ。
 当然のように私や殿下もその生徒自治会に加わっていて、特に私は学年が上だというのもあり、今年も会長を務めていた。
 卒業後は殿下に引き継がれる予定で、殿下ではどうしても心もとなくなる部分は、身分などに物怖じしない、優秀な補佐役も選定してある。
 全ては予定通り。
 あと1年、私は学生としての時間を充実させればいい。
 そのはず、だったのだ……――あの少女が、高等部へと編入してくるまでは。

「セミュアナ・キュディアム。この度ようやくキュディアム子爵家へと、正式に迎え入れられることとなりましたの。どうぞお見知りおき下さいませ」

 礼儀を少しばかり外した仕草で頭を下げ、本来、彼女では入れるはずのない生徒自治会の事務室で少女はにっこりと笑って挨拶をする。
 まるでさも自分がここにいるのは当然だとでも言わんばかりの堂々とした態度に、流石に唖然とせざるを得ない、それでも表面上は必死で取り繕う私達の前で、殿下だけがあわあわと慌てて、いつものように泣きそうになりながら、私へと助けを求めるような、縋る眼差しで見つめて来るばかりなのだった。
 ――……この少女を連れてきたのは、殿下であったのにもかかわらず。
 少女の形をした、嵐の襲来である。
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