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13・嵐の中心のような少女。②
しおりを挟むセミュアナと名乗った少女は、非常に可愛らしい容姿をしていた。
ふんわりとした癖のあるセミロングの髪は濃いピンク……というよりは、ややピンクがかった艶やかな赤髪で、焦げ茶色の瞳は透き通って輝いている。
くっきりとした二重の、ぱっちり大きな目には髪と同じ色味の、けれどそれよりずっと濃い、瞬きの度にバサバサと音がしそうな程、びっしり生え揃った長い睫毛。
丸みを帯びた頬を健康的なバラ色に染めて、やや尖った色づいた唇は少しだけ厚めに見えた。
決して高くはない鼻も相俟って、幼さを感じさせる顔立ちは、きっと、人によっては庇護欲をそそられることだろう。けれど。
何より、苛烈さを秘めた眼差しが、そんな容姿全てを裏切っている。そもそもからして。
(殿下の方が可愛いわね)
にっこりと微笑んでいるはずなのに、どうしてか笑っているようには感じられない彼女の側、とは言え絶妙に距離を取りたがっているのがわかる位置で、縋りつくような視線を私へと注ぐ我が婚約者殿は、今日も今日とてまるで雨に濡れた子犬のようにプルプルと震えていた。
潤んだ目尻にはたっぷりの涙を添えて。
ああ、全く殿下と来たら!
何をどうすればいいのやらと、一瞬迷いそうになったが、一番初めにすることなど決まっている。それはすなわち、
「殿下。まずはこちらへ」
殿下の救出である。
私が声をかけた途端、ぱぁっと顔を輝かせて、
「う、うん、わかったよ、リーシャ!」
やや弾んだ声で返事をし、いそいそと私の隣へと移動してくる。
なんと言えばいいのか……なんだか、飼い主に呼ばれた犬みたいだな、と一瞬思ってしまったが、いつものことであるし、まぁいいかと気にしないことにした。
そんな殿下に少女の眉がピクリと動いたことがわかる。
(……――ポーカーフェイスが、なっていないわ)
貴族らしくない。どこか、吐き捨てるような気持ちで、私は顔にも声にも出さず、心の中でだけ。ひっそりとそう呟いた。
キュディアム子爵家へと、正式に迎え入れられたと言っていたのだったか。
国内の貴族の情報を頭の中で思い出していく。
彼女の名乗った家名には、確かに覚えがあった。
ただし、良くも悪くも特色のない家だったはずだ。
広いとも狭いとも言い難い、子爵家に見合ったほどよい広さの領地は、特にこれと言った特産品があるわけでもなく、かと言って困窮しているというわけでもなく。
当主となる子爵本人の人柄はどうだっただろうか。
おそらくは彼女の父親に当たる人物であるはず。
すぐに、やや意志の弱そうな、頼りない印象の男性の姿が思い浮かんだ。
改めて見てみると、どことなく彼女に似た顔立ちだったようにも思う。
丸みを帯びた輪郭だとか、高くはない鼻だとか。
けれど、同時に思い出した彼の伴侶たる人物には、逆に彼女の他の部分と、似た要素はひとかけらも存在していなかったように記憶していた。
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