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15・嵐の中心のような少女。④
しおりを挟むおそらくは庶子か何かなのだろう。
だから何だということもない。ままあることだからだ。
キュディアム子爵家が彼女を迎え入れたというのなら、それが全てだ。
例えば殿下をはじめとした王宮が、ましてや、ただ、公爵家の子女に過ぎない私が何か言うようなことではなかった。
けれども、それはそれとしてこの生徒自治会の事務室へと押しかけてきたことに関しては看過できるはずがない。
生徒自治会の事務室は、そこで取り扱う業務の関係上、部外者の立ち入りは禁止されている。
それはいわば当然のことで、生徒自治会の会長を務める私は勿論、所属員である殿下や他の数人の生徒たち以外の姿は此処にはなかった。
その生徒たちにしても皆、彼ら自身に与えられた事務机に向かい、何らかの書類に目を通したり、指示を書き込んだりしている。
ここはあくまでも事務室であり、特に新学期を迎えてそれほども経っていない今は、必然的にそれなりの業務が発生していた。
特に迎え入れた新入生に関する対処などについてだ。
殿下自身も、先日新たに所属員となったばかりで、この事務室へ来るのも今日で三回目。
処理の仕方をお教えしなければとお待ちしていたのだけれど。
もっとも、中等部でもやはり生徒自治会に所属していたので、簡単な引継ぎ程度の後は、お任せしようと思っていた案件もあった。
とは言え、この状況で、予定通りに進められるはずもない。
目の前にいる少女は笑顔だ。
やや、顔を引きつらせてはいるけれども。
私は溜め息を吐いて、改めて殿下に向き直った。
「それで、殿下。この方は?」
どうして一緒だったのか。
私は努めていつも通りを心掛けて殿下に訊ねる。
殿下は弱り切った様子で眉根を寄せ。
「えっと、その、なんか、付いてきちゃって……」
要は振り払いきれなかった、と言った所なのだろう。
ままあることではある。が、しかし、だからこそ。
「……ラーセは?」
いくら学内とは言え、まさか殿下を一人で行動させているわけもない。
ラーセとはつまり、護衛を兼ねた殿下の学友の名で、精悍な見た目に反して、少々だらしないところのある男だが、かと言って自らの責務を放棄するようなものでもなく。
殿下の側を容易に離れるとは思えなかった。……――殿下本人の指示でもなければ。
「あっ……それは……」
案の定と言えば良いのか、殿下の視線が泳ぐ。
いったいどんな事情があったのやら。大方殿下ご自身の油断があったのだろう。
私は溜め息を吐いた。
「わかりました、今はもういいです。後ほどお伺いします」
そう言った諸々は後から聞き出すとして、今は。
「それで、キュディアム子爵家の……セミュアナ様とおっしゃいましたかしら? 貴女は何故ここに?」
この少女の対処が先だろうと、何か言いたげに、けれどあくまで笑顔を保ち続けている少女へと改めて向き直り声をかけた。
そんな私の問いかけを、待っていたと言わんばかりに少女が笑みを深くする。ただし。
「それは勿論、優秀な私への勧誘をしやすくして差し上げる為ですわ」
彼女の口から飛び出したのは、そんな、わけのわからない言葉だったのだけれど。
私は今すぐ頭を抱え込みたい気持ちにならざるを得なかった。
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