婚約者の王太子がへなちょこ泣き虫だったけど、私がささえるので問題はないです!

愛早さくら

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15・嵐の中心のような少女。④

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 私は努めて冷静に浮かべた微笑みが引きつらないように心がける。

(優秀、ね……)

 内心で呟いた言葉は勿論、声には出さず。ひとまず、と鷹揚に頷いた。

「なるほど、それはつまり、私達を気遣って下さったということなのかしら?」

 そんな気遣いは正直全く必要ではないのだけれど。
 傍らで殿下が驚いた顔を隠さずにいる所を見るに、勿論、殿下も彼女の意図は把握できていなかったのだろう。
 しかしそれも今は重要ではなく。
 私の確認に、少女は非常に得意げな顔をして口を開いた。

「ええ、そうですわ。いつまで経っても声をかけて来ないから、私の方から赴いて差し上げましたの。何をぐずぐずしているのか全く分かりませんけれども、どうせどなたかからの妨害・・・・・・・・・がおありになったのでしょうね?」

 言いながら、まるで何らかの罪を暴き立ててでもいるかのように、意味ありげな眼差しをこちらへと向けてくる。
 これはつまり、私が妨害していたとでも言いたいのだろうかと、すぐにもわかる棘のある視線だった。

「ひっ」

 私の近くにいた所為で、余波を喰らったかのような形となった殿下が、小さく悲鳴を上げて青ざめている。
 今にも泣きだしてしまいそうで、これはもう一刻も早くこの少女をどうにかしてしまわなければと私は少しだけ、焦り始めた。
 他の所属員たちは、どうやら関わるつもりがないらしい。
 気にしている気配は感じるが、それだけ。
 少女に対しても、ちらと初めに一度視線を向けたっきり、手元の書類を見るばかりで、顔を上げることすらしなくなっている。
 つまりいずれにせよ私以外に、少女の対処をする人間は、この場にはいないようだった。
 出そうになった溜め息を飲み込んで、少女へと一歩踏み出す。
 私の動きに合わせてというべきか、今度は違えようもなく睨みつけてくる少女に構わず、横を通り過ぎ扉へと歩み寄った。
 そのまま開け放って振り返る。

「お話はよくわかりました。お気遣いも受け取りましょう。ですが、それはそれとして、現状セミュアナ様が生徒自治会の所属員でないことは確かなこと。でしたら、このままこちらでお待ち頂くわけにはまいりません。もし・・本当に勧誘が必要であれば・・・・・・・・・・・・、改めてこちらからご連絡致します。本日はどうぞこのままお引き取りを」
「なっ……! わざわざ私がっ……!」

 私の要約するなら早く出て行けとの言葉に、意味を違えず受け取ったのだろう少女が、激昂したように声を荒げようとした瞬間、丁度折よく、殿下から離れていた怠惰者ラーセが戻ってきたようで。当然、少し前から気付いていた私は、咎めるように彼を見た。
 片眉を上げた彼は肩を竦め。

「あ~、取り込み中、か?」

 なんて、間抜けな声で問いかけてくる。
 私は首を横に振った。

「いいえ。そこまでではございませんわ。ただ、こちらのお嬢さんに退室を促していただけですの」

 にこりと微笑んだ私にラーセは、なんだかまずいものを飲み込んだように顔を顰め、そこで初めて少女を見ると、疲れたように溜め息を吐いた。

「へいへい。了解しましたよっと。……ってことでお嬢さん。どこのどなたか存じませんけど、ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ。ですから、さぁ早くこちらへ」

 などと言いながら少女に近づいたかと思うと、やや強引に少女を部屋から引きずり出し始める。

「ちょっと、なんなのっ?! いきなり! 痛い、やめてっ……ちょっ……!」

 ずりずりと、抵抗する少女に構わず部屋から追い出してしまった手際は、なるほど護衛だけあって手馴れていて。一瞬、感心しそうになったが、いや、そもそも、彼が殿下のそばを離れなければ、なんて、すぐに首を横に振った。
 しばらくして、事務室内には元の通りの静寂が戻ってくる。
 そんな様子を確かめて、私は改めて殿下へと注意を向け直した。

「……――さて、殿下。詳しいお話をお伺い致しましょう」

 にこと微笑んで告げたにもかかわらず、殿下はびくっと肩を震わせて。

「は、はい……」

 と、明確な涙声で小さく頷きを返したのだった。
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