婚約者の王太子がへなちょこ泣き虫だったけど、私がささえるので問題はないです!

愛早さくら

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16・嵐の中心のような少女。⑤

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「つまり、いきなり声をかけられたと?」
「そう。すぐそこの廊下の角でね。この部屋も見えてた。だから、ラーセには教室に、取りに戻ってもらっていたんだ。すぐだし、大丈夫だと思って……」

 まごまごと涙の滲む声で、なんとかそう告げ切った殿下は、ぐすと鼻をすすりながら、そもそも一人で行動していた理由も交えてそう教えてくれる。
 私が予想していた通り、油断があったのだと。
 学校は確かに、安全なはずの場所だ。
 特に今は殿下が通っているのもあって、警備も、常よりずっと、厳重になっている。
 部外者はまず入り込めず、学生と教師、あるいは学園を職場としている関係者や一部業者などしか学園内にはおらず、加えて今、殿下が告げた程度の短時間であれば、今までに何度も殿下が1人になることぐらいあって、それが問題となることもなかった。
 加えて、もし護衛が少しぐらい離れたところで、すぐ近くに警備担当の者がいて、殿下が今言った通りであれば、確かに、目くじらを立てて咎めたてるようなことでもない。
 ただ、だからと言って推奨される行動でも、また、なく。そもそもの話、

「取りに戻る、とは、何を?」

 忘れ物でもしたのだろうかと、怪訝に思い眉をひそめた私に殿下は躊躇いながら頷いた。

「その……ペンを忘れて」
「ペンを?」

 わざわざ取りに戻るような大切なペンだったとでも言うのだろうか。

「そのようなもの、別に明日でも、」
「ダメだよ!」

 告げかけた私の言葉は、いつにないきつい口調の殿下によって遮られた。

「あのペンは君から貰ったものだ! あれがないと、僕、僕……」

 かと思えば次の瞬間にはまた、涙を流し始めている。

「ああ、はいはい。わかりました、わかりましたから」

 私は溜め息と共に、それ以上の言及を辞めておく。心当たりもあった。
 私から贈ったペン。
 それは確か、学園への入学祝にと、私が選んだもので、確かに殿下はそのペンを非常に大切にしてくれていた。
 まさか教室に忘れたからと言って、護衛にわざわざ取りに行かせるほどのものだったとは思わなかったけれど、そんな風にまで言われてしまうと、なんだか照れ臭くも思えてくる。
 何より、話しを先に進めてしまいたくもあり、私は改めて殿下を促した。
 声をかけられて、それでどうしたのかと。
 するとその途端、殿下はまたくしゃりと顔を歪め、ほろほろと改めて泣き出してしまったのだった。

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