婚約者の王太子がへなちょこ泣き虫だったけど、私がささえるので問題はないです!

愛早さくら

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17・嵐の中心のような少女。⑥

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 殿下がこうして泣いてしまうのは、言ってしまえばいつものことで、事務室内にいる者は今更、誰も反応したりしない。

「こ、怖かったんだよぉ、リーシャぁ……! 何を言っているのかわからないし、急に僕の腕を掴んでくるし。それで、止める間もなく部屋に入って行っちゃって……」

 なまじ、すぐ近くであったのも災いしたのだろう。
 少し離れたところで、それでも殿下に注意を払っていただろう警備の者たちが、止めることすら間に合わなかったのかもしれないと思われた。
 殿下が迂闊にも彼女が近づくのを許し、腕まで掴まれていたのも彼らの行動の妨げになったはずだ。
 そうでもなければそもそも、あのような状況にはなり得なかったのではないだろうか。

「それで、あのように突然……」

 ノックすらなく押し入ってきた少女を思い出す。
 少女に腕を取られ、半ば引きずられるような様子だった殿下は、ただ、戸惑っているばかりだった。
 碌に抵抗も出来なかったのだろう。
 なにせ相手は女性で、ただでさえ肉体の作り的に男性であり、一応鍛えてもいる殿下とでは筋肉量や単純な膂力などが変わってきてしまう。かつ先ほど見た限りでは魔力なども下級貴族、あるいは少しばかり人より多くそれらを持っている平民程度。
 力の差は歴然で、下手に振り払ったりしたらどうなるかと、触れることさえ躊躇しただろうことは想像に難くなかった。
 殿下にはそういった部分があるのだ。
 きっと問題などないのに、自身の持つ『力』に怯えている。
 それもおそらくは優しさ故なのだろう。けれど、こういった場合には発揮しないでいて欲しいとも思ってしまう。
 もっとも、その為に私やラーセなどが殿下の側にいるのだけれど。

「事情は理解しましたし、仕方のない部分もあったのでしょう。が、殿下はもう少し自覚なさって下さいませ。いくら学内とは言え、今回のようなことは今後もあるかもしれません。少なくともラーセはより徹底してお傍からお離しになられませんように」

 元々護衛とはそういうものだ。
 いくらこの部屋のすぐ近くだったからと言って、1人になるなど、軽率だと言わざるを得なかった。

「ぅ、うぅ~……っ、ご、ごめんよぉ、リーシャぁ……」

 私の口調が明確に厳しさを増したことは殿下にもわかったのだろう、更にぐずぐずと泣き始めた殿下に、私は溜め息を吐きつつも、それ以上の言葉を飲み込んだ。
 反省しているだろうというのはわかったし、少なくともこれでしばらくは言いつけを守ってくれるだろうということも、これまでの経験上、わかっていたからだった。
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