婚約者の王太子がへなちょこ泣き虫だったけど、私がささえるので問題はないです!

愛早さくら

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11・婚約、そして始まりの日。⑪

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 幸いにして、と言えば良いのか、殿下は私がぞんざいな態度を見せるようになったとして、まったく気にしていないようだった。
 むしろ嬉しそうにさえ見えるほど。
 きっと殿下自身が言っていたように、私の気持ちが聞きたい、という言葉が全てだったのだろう。
 私はそこから過度に気負うことを辞めた。
 殿下の対応に戸惑っても、心のままに振舞うことにした。
 鬱陶しいと思う時はそう言うし、泣きすぎだと思ったら諫める。
 勿論、必要以上に厳しい態度を取ってしまうこともあって、そんな時はすぐに謝った。
 けれど殿下は、

「いいよいいよ、僕、リーシャの気持ち、全部好き」

 なんてにこにこ笑って、許すだとか許さないだとかですらなくて。
 殿下はそれからも何も変わらず泣き虫で、体術だとか剣術だとかは苦手なままだったし、頼りないばかりだった。
 けど、優秀なことは間違いなかったし、何より、私に対する明け透けな好意は、こちらがたじろいでしまう程で。
 好き、と。
 いつの間にか、殿下は衒いなくおっしゃられるようになっていたのだ。
 それは私を、面映ゆくも、悪くはない気持ちにさせてくれる言葉だった。
 だからこそ私は、これからもずっとずっと殿下を支えていこうと思ったし、殿下が頼りない分、私がしっかりしなければ、なんて思う所もあって……――今日まで、来たのだけれど。でも。

「そうは言っても、ね……」

 小さく呟きながら私は溜め息を吐く。
 視界の先では、殿下がわんわんと泣いている。――……いつも通りに。

「うわぁーん、りぃしゃぁ! もうわけわかんない、こわいよぉっ!」

 うわーん、なんて。殿下はいったい、いくつだっただろうか。
 確か、今16歳、来年には17になるのだったはずだ。
 そしてその更に次の歳には18になり、学園を卒業したら成人を迎える。
 つまり、まだ大人とは言い難い少年と青年の中間ぐらいの歳頃で、けれどまさか小さな子供ではない。
 こんな風に、誰はばかることもなく泣き縋る情けない姿を周囲にひけらかすような年齢では、間違っても、ないはずなのである。
 私は溜め息を吐く。
 ああ、構わない、構わないとも。
 殿下が頼りなく見えるのはもはや今更だ。
 泣き虫なのは昔から。
 その分、私がしっかりすればいい。
 きっと、こんな殿下を支えられるのは私だけに違いない。けれど。
 けれども、だ。

「怖いだなんて……そうはおっしゃられましても……彼女は可憐な女生徒ですわ。何より、彼女をお傍に置くことに決められたのは殿下ではないですか。いかに強引な態度に押し切られたのだとしても、断り切れなかったのは殿下でしょう? ご自身のご判断の結果は、ご自身でお取りになられませんと。勿論、もっと重要な場面でしたら、私がいくらでもお支え致しますけれども」

 言ってしまえば彼女はただの女生徒で、彼女が殿下の側にいる弊害は、今の所あまり感じられず、私には、私が出ていくまでもないことのように思われた。
 そもそもの話。

「殿下の交友関係にまで、私、口を挟むつもりはございませんわよ」

 そう、殿下と、そのご友人との関係の話なのだから。
 にべもない私の言葉に、殿下が情けなくまた泣き始める。

「そんなぁ~……!」

 何とかしてよぉ、なんて言いながら。
 これはここしばらくの、日常と化している光景だった。
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