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しおりを挟む「フローリア様…お加減はいかがですか?」
「いつもありがとう、大丈夫ですよ」
毎朝・毎晩、決まった時間の検温と点滴に薬の摂取…慣れたものだ
物心ついた時には既にこんな身体だった
「くれぐれもご無理をなさいませんように」
幼い頃からお世話になっている、皺の多い侍医は柔らかく微笑み部屋を後にした
フローリア・エウレディア侯爵令嬢
数回しか出たことのない社交界でついたあだ名は『薄明令嬢』
確かに病弱と呼ばれる身体だが、薄明は言い過ぎなのでは…
両親も侍医も使用人ですら、屋敷の者は皆腫れ物を扱うように、フローリアに対して全てにおいて慎重だった
ただ1人を除いて
「ご無理ですって。家から出してもらえないくせにどう無理すんのよ」
腕を組みながら扉にもたれ掛かり、こちらをじとりと睨む…自分とよく似た顔
「グレイス…」
フローリアの双子の妹
色白というよりは青白く不気味さすら感じ、一度触れれば崩れ落ちてしまいそうな程弱々しい見た目のフローリアと違い、
健康的な肌艶に活発な光を灯した瞳
同じ顔なはずなのにこんなにも違いがあるなんて…と毎度顔を合わせる度に己の弱さに落胆するフローリア
「身体が弱いからって皆あんたに気を遣って馬鹿みたい…あぁそうだ、お客様よ」
「お客様?」
私に?約束などあっただろうか…あぁ、今日か
「ありがとう、グレイス」
「…呼びになんか来たくなかったわよ」
ぷいとそっぽを向き部屋を後にするグレイス
昔は、こんな関係じゃなかったのにな…
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フローリアの病気が分かったのは6歳の頃
酷い高熱が3週間も続き、生死を彷徨っていた
侍医だけでは手の施しようがなく神殿に依頼をした両親
神官曰く、風邪をこじらせたことで免疫力が低下し肺炎を起こしやすくなってしまったらしい
…表沙汰では
後に、治療を施す為と称し部屋から両親や使用人を追い出した神官
こちらに向き直り苦しそうな表情で頭を下げ、侯爵家の侍医と話し始めた
「……これは、あまり表沙汰にしない方が宜しいかと思います…」
「…そんな……」
呆然と立ち尽くし俯きながら顔を覆う侍医
「…」
朦朧とする意識の中、絶望したように掠れ声を出す侍医の言葉がはっきりと耳に響いた
「……こんなに幼いお嬢様が…不治の病だなんて…」
神力で身体の痛みを和らげ微力ながらも病気の進行を遅めてくれた神官が去り、
部屋にはフローリアと侍医のみとなった
「…先生、おねがいがあります」
「!はい、なんでしょう…?」
天井を仰ぎながら目を閉じ、ゆっくりと話す
「どうか、両親とグレイス含め…ほかの人々にはひみつにしてもらえませんか?わたしと…先生の」
「お嬢様…」
「心配、かけたくないのです…おねがいします」
「……っ…お望みと、あらば…」
最大限の力を尽くしますと、小さなフローリアの手を握り瞳を濡らす侍医
その時、部屋の扉が鳴った
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