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 「何かありましたらすぐお呼びくださいね、グレイス様」


こちらに丁寧なお辞儀をし、部屋を後にする使用人


私はというと、姿見の前で立ち尽くしていた


 「…どういう事……」

全身を映す大きな姿見の中には、のようで私ではない…の姿があった


同じ顔なはずなのに、肌ツヤは活き活きとして
血色も良く、生気に満ちてる
そして、活発な光を灯した瞳

 「私…グレイスになったの…?」


頭痛に見舞われながら昨夜の記憶がフラッシュバックする


部屋にやってきたグレイスから薬を受け取り、それを飲んだ
意識も朦朧として、声も出せなくなっていって、
最後に見たグレイスは「あんたになれる」と……


 「まさか…」

腰掛けに無造作に置かれていた羽織を手に取り、へ走って行く





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

苦しくない…どんなに走っても全然
今までの比にならないほど全身がとても軽い

そんな喜びも束の間、自分の部屋の中から何かが割れる音が響いた

 「っ…グレイス……?」

扉を4回叩く


ゆっくりと開いた扉の先には、寝台に横たわる姿


 「おや、グレイスお嬢様」
 「先生…」
彼女の傍らにいる侍医は、グラスの破片を拾い集めていた
 「どうしたの、ですか?」
 「いえいえ、心配ありませんよ。フローリア様のお加減が優れないだけですので…」
優しい侍医が、嘘をついているのがすぐに分かった

 「先生、少しだけグ…フローリアと2人きりにさせていただけませんか?」
 「え?しかし…」
 「お願いします…今朝の分の薬は、もう終わってるのですよね?」
チラと寝台の横に目をやる
見知った小瓶たちが空となり侍医の手荷物は帰り支度に入っていた

 「…分かりました、フローリア様…今朝はこれで失礼致します」

すれ違いざまに侍医へ軽く会釈をする
不思議そうな、驚いたような顔でこちらを見ていたが今は関係ない


静寂に包まれた部屋

最初に口火を切ったのはだった

 「あん、た……ゴホッ、ゴホッ」

 「…だめじゃない、グラスを割ったりしたら」

 「…ッゴホ…ねえ、これ…ただ器官が弱いだけじゃ……ないわよね!?ゴホッゴホッ!」
 「…」
 「なん、なのよ…!身体すごい、痛いし…ッゴホ、はぁ…」
 「だから、言ったのに……」
 「は?」
虚ろな目でこちらを見上げる
 


 「…だめだって、言ったでしょう?」

 「なん!コホッ、ゴホッゴホ…なんなのよ…リアム様を取られたくなくて、言ってたんでしょ…」

 「そうじゃないわ…。グレイス、あのね…」



ずっと、両親にも妹にも黙っていたを話し始めるフローリア




6歳の頃には既に、不治の病だと診断されていたこと
全身が悶え足掻きたくなるほどの痛みに襲われ続けていたこと
……余命が、残り1週間ほどだということも






 「…は…は、ははは…!ッコホッゴホッゴホッ!はぁ……バッカみたい…」
 「グレイス…」
 「あんた……こんな、こんなに痛くて苦しい身体で……ずっと…にこにこにこにこしてたっていうの…ッ?」
 「…」
 「なんなのよ……リアム様と一緒になりたかっただけなのに……」
ポロポロと天井を仰ぎながら涙を零すグレイス
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