ハルのアオイ空

ボンディー

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ハルのアオイ記憶 前編

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 俺は斎藤智陽さいとう ともはる、高校二年生、ただ今絶賛困っている。何にかって?それは

「ただいま☺️」

 と言って全く知らない女子がインターフォンの前にいる事だ!
 え?誰?全く見覚えないんだけど、誰か知り合いが整形でもしたの?
 十分な思考時間を確保したあと、彼女も不思議な顔をし出してから俺は口を開いた。

「えっと...誰?」

 違うんだ!決して俺はコミュ障な訳でも女性恐怖症でも無い!純粋に思考が追いついていなかったんだ!だって冷静に考えてってなんだよ俺は高一でここに引っ越してから夜勤の母さんと二人暮らしだよだよ⁉︎
 あ、因みに父さんは海外に仕事に行ってるだけだから、死んでいるわけじゃ無いよ。
 いや待て!さては前にここに住んでた人の知り合いだな?

「あれ?ここ斎藤君の家だったよね?」

 違ったぁ⁉︎ご近所に斎藤なんて名前の人居ない~!そしてこいつ日本語通じないのか⁉︎俺の必死に絞り出した質問ガン無視するじゃん!

「あら葵あおいちゃん久しぶり~今開けるから上がって~」

 俺の後ろから来た母さんが返事をしていた。
 嘘!俺動揺しすぎてボタン押さずに喋ってたの⁉︎ただひとりごと言ってただけかよ‼︎そりゃ返事しないはずだよ!

 そうして俺が1人でショックを受けていると、母さんは既に例の女子を家にあげていた。

「いやぁ~葵ちゃんもすっかりお姉さんねぇ」

「そうですか?ありがとうございます!お母さんも前あった時と変わらず美しいですね!」

 そんな会話が玄関からする。母さんの知り合いか?俺の知らない再従姉妹の可能性もあるな。
 少なくとも俺の記憶にこんな可愛い子は居ない...居ないよな?

 そんな事を考えていると段々と声が近づいつ来た。

 隠れた方がいい?いや別に悪いことしてないし良いか、でも母さんの知り合いなら邪魔になるか?

 そう思って椅子を立って自分の部屋に行こうとした瞬間、リビングの扉が開いた。

「あっ!智陽くん~!」

 リビングに入るや否や彼女、葵さんは俺にハグをして来た。

 え?俺の知り合い?いやいや見たことないってこんな可愛い子!しかも何⁉︎出会い頭にハグするような関係なのこの子!

「あ、え、あの、いや」

 突然すぎて日本語が出ない。そこに母さんが反応する。

「智陽ったら、葵ちゃんの事覚えていないの?」

「えっ⁉︎覚えてないの⁉︎」

 そんな2人して俺が悪いみたいな顔してこっちを見るんじゃないっ!え?俺が悪いの?さっぱり記憶に無いよ...ん?...葵ちゃん?

「葵、ちゃん...?」

「思い出した⁉︎」

 嫌ぁ違うんです!まだ思い出せてません!あとちょっと、あとちょっとで思い出せそうだから待って‼︎

「まぁ、葵ちゃんが引っ越してから10年以上経ったししょうがないかぁ」

「確かに私も事前に写真渡されて無かったら解からなかったかもしれませんね」

 っ!そうだ幼稚園卒業と同時にニューヨークに引っ越した葵ちゃんか!

「いや流石にそれはずるくない?」

 すかさず"解ってました"オーラを出すも母さんにはジト目を貰った。

 いやアンタもせめて来ること事前に知らせてくれよ!お陰で再会の感動が困惑で半減したじゃないか!

 しかし葵ちゃんには通じたようで、

「いやぁ智陽くんのお父さんとニューヨークでたまたま会ってねぇ」

 どうやら今回のは父さんの策略らしい。

「私もビックリしちゃったわぁパパからいきなり可愛い女の子の写真送られて来たんだもの」

 そこからは俺の父さんと葵ちゃんがニューヨークで会った経緯を聞いた。どうやら仕事関係で知り合ったらしい、俺には横文字が多過ぎてわからなかったよ。
 ってか葵ちゃん俺と同級生だよね?もう仕事してるの?お小遣い稼ぎとか言ってるけど明らかに額が明らかおかしいよ?

 俺の耳にシャッターが降りてからしばらくして、晩御飯を食べる時間になりやっと頭が稼働する。

「そうだ葵ちゃん!うちで晩御飯食べて行かない?」

「良いんですか⁉︎じゃあお言葉に甘えて」

 俺は何故かあれから殆ど喋れていなかったが、何も喋らなくても話は進んでいくから楽だった。偶に視線を感じるが、直ぐに外れるし気にはならなかった。

 その後、いつもより賑やかな食卓で晩御飯を食べた。今度はさっきより視線を感じたが、特に話題を振られるわけでもなく、食べ終わった。

「今日は突然でしたけどありがとうございました」

「今日はうちに止まっていけば良いのにぃ」

「いえいえ、一人暮らしだから引っ越しの片付けもまだ有りますし、色々な手続きも残っていますので」

「あらそう、じゃあまたいつでも来て良いからね」

「はい今後もお世話になります」

 そう言って葵ちゃんが頭を下げる。え?今後?こっちに住むの?仕事は大丈夫なの?いや、俺が心配するまでもないか。

 俺がまた思考の渦に囚われていると、母さんがいきなり背中を押して来た。

「どうせなら葵ちゃんを家まで送って来なさい!今日まともに2人でお話ししなかったんだし!」

「いえいえ⁉︎今日はもう遅いですし...」

「だからこそよぉこの子もお花畑のカカシくらいにはなるでしょ」

「...え?っえ⁉︎」

 と言う事で強制的に家を追い出された。

 暗い夜道を電灯が道を薄く照らす。季節は春、そろそろ新学期が始まる頃。夜はまだ肌寒い空気が残っている。

「えっと...久しぶり、だね?」

「うん、久しぶりって言っても前会ったのは幼稚園だったしもう殆ど覚えてn」

「私は覚えてたよ⁉︎」

 すごい食い気味に言うじゃん。ってか覚えてたのは父さんに会って俺の写真見たからだろ?

 臆病な俺はそれを声に出せなかった。嫌われたくは無いし。代わりの言葉を捻り出す。

「そうなんだ...」

「私はあの約束をしてから10年間、智陽くんの事ずっと覚えてたよ?」

 ちょっと待って、何そのベタな展開⁉︎俺知らないんだけど!一体幼稚園児の頃の俺はなんの約束をしたの⁉︎

「その...ごめん、俺、覚えてないんだ...」

 嫌われたくは無かった。でもここで曖昧な返事をするのも良く無いと思った。

「...そ、っか...」

 それからは静かだった。2人の歩く音だけが俺達の間にあった。

 おかしい、俺は別にコミュ障なわけでは無い、むしろ会話は続く方なのに彼女相手だと言葉が出ない。

 彼女の家には10分もかからずに着いた。
 1人で住むには少し大きそうに感じたが、そう言えば金持ちなんだと思い出す。
 すると彼女は門の前で話を振って来た。

「...智陽くんは、私のこと...嫌い?」

 質問の意図が全くわからなかったが、素直に答える。

「別に、嫌いじゃ無いよ」

「でも今日私と会ってからずっと暗い顔してるよ?...」

「それは...まだ頭の中で理解出来てないから、ちょっと困ってるだけで...その約束の事とか思い出せたら、変わると思うから待っててほしい...なって」

「それって、いつ?」

 彼女が一歩近づく。

「ともくんは、いつ私の目を見て話してくれるの?」

 彼女の息が顔にかかる。身長差はなく、俺の目の前に綺麗で整った顔が近づく。

「もっと、ともくんと前みたいに楽しくお話ししたいよ?...」

 彼女はそのまま俺の肩に手を置き、顔を近づける。もう俺には彼女の綺麗な日本人特有の真っ黒な黒目しか見えていない。

「これでちょっとは思い出せるかな...」

 彼女がそう小さく呟いた後、俺の唇を奪った。

 「っんぐ⁉︎」

 突然の事で体が反射的に後ろに引こうとしたが、彼女は離してくれなかった。

 次第に抵抗をする気も起きなくなると、謎の懐かしさを憶えた。



 暫くたって、お互いの顔を離すと葵ちゃんは顔を真っ赤にして俯いた。

「また、あしたね...」

「...うん」

 その短い会話が何を示すのかを考える余裕もなく、その日は葵ちゃんの家の前で解散した。

 俺は帰路に着く、先ほどの余韻に浸りながら。
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