Angel☆Doll

隣の大橋さん

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悪魔な天使☆天使な悪魔

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はじめての不良スタイルでくぐる私立桜木学園の高等部の校門。
案の定皆俺を一目みると『ヒイ!』と悲鳴をあげて青くなる。

もういい、もういいわ!
俺は不良だ!
怖がられて当然なんだ!

教室のドアをガラっと開けてみる、すでに教室なかにいた生徒たちが青くなって俺を見た。


『が、学様(がくさま)』

皆口々に俺をみて『学様』と呼ぶ。顔が怖いからそう呼ぶのもあるんだけど、それだけじゃない、この私立桜木学園の理事長は俺の父親、桜木龍児、父親といっても本当の父親ではない。
俺はかつて孤児院にいたところを養父桜木龍児に拾われた。
だから学園のトップの息子ともあってか学様と呼ばる。本当はフレンドリーに『がっくん』とか『ガクガク』とかなんかニックネームつけて呼んでもらう夢を16年間夢見てきたが


もういい!そう、俺、学様!学様だ!

俺は窓側の一番奥の自分の席にドカっと座ってみた。すると椅子が倒れて俺も一緒に倒れた。いっそう注目を浴びてしまって恥ずかしかった、なにも無かったように椅子を直して大人しく座った。

いやいや、桜木学、お前は不良なんだ。誰もが怖れる唯一無二の男、桜木学なんだ。
そう、俺は不良。俺は不良。俺は不良。

俺は自分に不良だと暗示をかけた。その暗示をかけてる時の姿がまるで地獄から悪魔を召喚する魔王に端からは見えていたらしく、後に『地獄からやって来た魔王』という異名を俺につけられたのであった。


そんな回りがそう思ってるとはついしらず、俺は自分が不良であると必死に暗示をかける。すると、ふわりと目の前に甘い花のようないい香りがしてふと、顔をあげてみた。

『さっき椅子で転んだときに、こっち飛んで来ましたよ?』

思わず、俺はその声の主を見るなり思わず赤面してしまった。
なぜなら、生まれて見たことの無い完璧な美少年がそこにいたのだ。
一見、声を発なければ少女に間違えてしまいそうなビスクドールのような陶器のような白い肌に桜色の唇。光の当たり具合で白銀に見えるグレーの前下がりのボブヘアーに海のような澄んだ蒼い瞳。
生唾を飲み込むほどのあまりの美少年で、そこら辺のモデルやタレントなんかはるかに越えた完璧過ぎる美少年がそこに立って、自分が転んだときに落としたチョコボールの懸賞で当たったシャープペンを俺に正面から差し出してきた。

そこにいた誰しもが、天使がいたらこういう姿なのだろうと思うほどのそんな美少年。

『あ、ありがとう……』

俺はそれを受け取った正面から人と向き合って話すことなんて無かったから思わず俺はたじろいでしまった。
それにあんな綺麗なやつ、男ってわかってるのに一瞬ドキドキしてしまった自分がいる。たじろいで当然だ。

背丈は椅子に座ってる俺の座高と立ってる身長でようやく同じくらい、身長も体重も2回りぐらい俺より小さい。
男子制服と声変わりをした声で男と判断はできるが、こんな娘みたいな男ってやっぱりいるんだな……俺は内心そう思った。


『よいしょっ』

するとその美少年が俺の隣の席に座った思わずギョッとしてしまう。
俺は小中校とずっと桜木学園の生徒だから、見たこと無い顔なものだから高校からの入学生なのかな?横目でちらっとそいつを見た。するとそいつはジーっと俺の机を見ていた。
思わず『な、何ですか?』と、不良気取ってたくせに敬語で聞いてしまった。

『桜木……学』

その天使のようなやつが俺の名前をボソッと呼んだ。一体何を見て言ってるのかと思ったら机の脇にかけてる通学カバンの脇に書いてある俺の名前を見て呼んでいた。


『へー……貴方が桜木学だったんだ。真面目で大人しくて引きこもりで目立つことが嫌いって龍児さんから聞いていたのと少し違うけど…』

流し目で足の先から髪の毛先まで舐められるように見られてなんか気まずい、こんなに見れることなんて無かったから変な汗がかいてきた。

『お隣同士だったら挨拶に赴く手間がなくなって好都合、改めてはじめまして学、僕の名前は桜木優那、今日から君の弟だよ。』


桜木優那と名乗った隣の席の天使のような美少年はニッコリ微笑んで俺にそう言った。

俺はあまりの唐突な急展開に脳が思考停止しポカンとしてしまった。それは俺だけじゃなくクラスにいて聞いていた全員がポカンとした。



『お、弟~!!』

それは偶然、俺とクラスメイトが心をひとつにして同時にハモった瞬間だった。


俺は不良、でも授業はいつも通りきちんと受けた。だって留年嫌だし。
やけに隣でキラキラしてる俺の弟と名乗る人物を横目でチラチラと見ながら。

昼休みになり桜木優那もとい、優那…さんに直接詳しく聞きたかったけどそんなメンタル持ち合わせていないし『一緒にお昼を食べよう』等と優那という人物は鼻の下をのばしデレデレとする男子たちにあっという間に囲まれてしまってあんな人が多いところ近づくに怖くて近づけない。
俺は優那本人ではなく、かわりにその足で理事長室に向かった。
理事長室の前までくると俺はノックして入ろうと思ったがハッと気づく、そうだ。俺、不良だった。
こういう時って、ガラッと強引に開けて『邪魔するぜ!』みたいな感じで入るんだよな、不良って。

テレビドラマの不良高校生が職員室に殴り込みしにいったシーンを俺は思い出していた。
これから不良高校生として過ごすんだ。いきなり職員室に殴り込みって勇気無いし、ここはいっちょ父親相手に不良の練習でもしてみようか……

俺は咳払い深呼吸してから自分自身に良し、といい聞かせて理事長室の扉に手をかけた。


『邪魔する……ぶはっっっ!』

俺はテレビドラマの不良のようにガラッと勢いよく強引にドアを開けるところまではよかった。しかし、問題は開けた瞬間だ。
『邪魔するぜ』の『ぜ』を発音しようとしたときに顔面にゴルフボールが見事にクリンヒットして俺は後ろに倒れた。


『む?なんだ学じゃないか。なんだその髪と格好は!校則違反じゃないか!』

『いててて……』

俺は真っ赤になった鼻をさすりながら立ち上がる。


『これにはその、深い事情……ぎゃーーーーーー!』

俺は立ち上がるなり理事長である父親を確認すれば思わず悲鳴をあげる。
なぜって……
目の前にいる桜木龍児、桜木学園総理事長。わずか37歳で総理事長となったイケメンのエリート理事長……らしい。

確かに見たくれは悪くない、スラリとした身長、ムラの無い筋肉
黒縁のメガネに黒髪のオールバック
熟女が好みそうなインテリな雰囲気のある父親なのだが、俺がつい叫んでしまった理由はその格好である。

ムラのない筋肉に滴る汗、キュッと引き締まった尻、靡く白い布。

俺の父親はなぜかフンドシ姿でゴルフの素振りの練習をしていたのだった。


なんで、フンドシ?


『学、私の目を見なさい。そんな髪にして、制服もきちんと着こなさないで。私はお前をそんな風に育てた覚えはない!』

まっすぐ凛として俺を見据える龍児。しかしフンドシ姿で尻を光らせながら言われても。

『フンドシ一丁で叱られてもなんの説得力も無いんですけど~お父様?!』

俺は思わず負けて後退してしまった。

『紅茶を不覚にもこぼしてしまったんだ。乾かしている間だけだ仕方ないだろう?』

指差す方向見ればハンガーにかけられて干されているカジュアルスーツが窓にかけられていた。

『そういうなら仕方ない、ネクタイだけでもしておこう。』

父さんはネクタイだけ締めようとしたものだから俺は止めた。
だって、フンドシ一丁に素肌にネクタイって、どんだけ変態なんだよって話だよね?
俺が直感で思ったこの感性、絶対間違ってないと思う。


『まあいい、さあ本題だ学、座りなさい。なぜそんな頭にしたんだ?これは理事長としてではなく父親として…』

理事長室の来客用のソファーに座るように促され俺は言われた通り座った。


『その……父さん、ひとまず……俺の格好に関してあとで話すよ……まず俺の質問から聞いてくれないかな?』

父さんは来客用のソファーと低いガラスの足の短いテーブル挟んで俺の向かい側の椅子に足を組んで座った。
フンドシ姿だから、当人は堂々としているけど、見ている俺が足を組み直すたびにハラハラして、でもなんでこんなことで俺がアワアワしなくちゃいけないんだろうと自問自答したらもういいや、と、なにも言わないことにした。


『同じクラスの桜木優那ってやつなんだけど……会って早々俺の弟って言われて……』

一体どうなってるんですか?父上、とフンドシ姿の父親に俺は聞いたのであった。

『桜木優那……ああ!すまない、彼を引き取ることが決まったのがここ2、3日で急遽なもんで。お互い時間のすれ違いできちんと学に話すことが出来なかったな。』

『2、3日?』

『学、覚えてるか?私の友人の戸部秀一(とべしゅういち)』

『戸部秀一って、父さんが研究者だったときからの友人の秀一さんのこと?』

父さんはゆっくり首をたてに頷いた。
父さんは学園の理事長になる前にアメリカで有名な研究所の生物、遺伝子の研究をしていた。
そこで一緒になったのが戸部秀一さんだ。研究所で同じ数少ない日本人ということと年端も近いということから意気投合した、父さんの親友だ。
今はイギリスに移住して引き続き大学の研究室で生物教授をしているということだ。

俺が最後に会ったのは中学2年生のときで、秀一さんが日本に一時帰国したときに秀一さんが家に父さんを訪ねてきて挨拶して顔を少し合わせたくらいしか記憶に無いけど、穏やかな、ニコニコとしていて髪は茶髪で少しボサボサとしていて父さんと年端変わらないってことだったけど少しフケているように見えた。
なんかほっこりとした父性溢れる人だな、って印象があったのを覚えている。

『秀一の研究所が爆発したんだ。薬品の調合ミスらしい。その爆発に巻き込まれた秀一だけど奇跡的に命をとりとめた。ただ全治1年の大怪我で治ったとしても健常者だったときのように普通に生活できないそうだ。秀一も私同様に施設から養子縁組した子供がいてそれが優那君なんだが、この体では未成年の優那君を面倒みることはできない、と言われ私が優那君を引き取ることにしたんだ。』

『そ、そ、そ……そっか、た、大変なんだね……あの子……』

わりと重い話だった。
でも、よくよく考えれば養子で引き取られるってそれ相応の理由はあるはずで、かくいう俺も、4歳の時に施設からこの桜木龍児に引き取られた。俺は生まれてすぐに施設に捨てられたらしいけど施設暮らしは不自由なかったし辛いとかそういうのなかった、

でもやっぱり龍児に引き取ってもらってからは一変して生活が変わって、確かにめちゃくちゃに変な人間なんだけど、血の繋がっていない自分を本当の家族のよう受け入れてくれて心から感謝している。


『で、次は私から学に質問だ。その髪と制服はどうした。我が子といえ生活指導が入るぞ。』

父さんが俺をキッと睨んだ。俺は情けなくビクッとしてしまう。


『あの……実は……』

俺はことの経緯を父さんにすべて話した。
どんなにいいことをしても、皆このゲゲゲの鬼○郎、水○しげる作画初代猫娘のシャーっと戦闘体制に入る直前の瞳孔が開いたような目とギザギザの獣みたいな歯、そして低いこの声でなにしても怖がられいっそのことグレてもう怖い象徴になってやろうとしたこと。

でも結局、不良ってなんだ?ってなってしまってること。



『ごめんなさい、父さん。明日には髪も制服も戻すよ……』

俺は父さんに謝った。父さんは『若気の至りか……』と呟くと窓辺に干してあるスーツのハンガーを手に取ってワイシャツに袖を通した。

『学、悩むことがあったら、力になれるか分からないが私になんでも話ておくれ。私は理事長である前に、学。私は君の父親なんだ。』

父さんは服を着ながらそう言ってくれた。なんか、せっかく俺を本当の父親のように受け入れてくれた人に迷惑かけてしまったな……。
 うん、明日には髪の毛も黒に戻して制服もきちんとしよう。俺は反省して理事長室を出ようと扉を開けると偶然理事長室にお茶を持って入ってこようとした事務員の七緒さんと鉢合わせする。


『あらあらがっくん、どうしたんです?その髪とか』

七緒透(ななおとおる)さん。父さんとよく一緒にいる学園の保険の先生でもあり事務員も兼任している。よく家にご飯を作りに来てくれたり掃除や庭の手入れを手伝ってくれたり、俺の小さい頃からまるで母親のように接してくれた。大きな銀の縁の丸いメガネとソバカス、おっとりとしたタレ目に
栗色のポニーテール。

小豆色の上下のジャージにピンクのエプロンをつけて、きっとお母さんってこういう感じなんだろうなって七緒さんには思う。


男なんだけどね。


『明日には……直します。ごめんなさい。

俺は脇をぬって廊下に出た。



残された透と龍児。龍児はスーツに着替え終えると足を組んで理事長席に着いた。


『顔が怖いと言われて、やけくそになってグレてやろうとしたけど結局なりきれなかったって話だよ』

龍児はフーッとため息をついた。

『顔が怖い……ですか……。体の大きさも獣のような顔つきもすべてはあの研究のせいであって生まれてきたがっくんにはなんの罪もないのに。貴方が育てると聞いたときは内心私、心配していたんです。でも、龍児さんが言うとおりがっくんはあんなに立派にそしてとっても優しく思いやりある子に育って…あの子には人間として幸せになってほしいのに…………』

透はカチャンと音を立てて茶器を龍児の前に置く。龍児は再び深いため息をついてから話し出した。

『七緒、聞いてくれ。秀一のところに(キメラの失敗作)が襲撃しにきた。』

七緒はそれを聞くとハッしてあからさまに動揺してガチャンと持ってきたカップを床に落としてしまう。
床にカップが割れて破片が散らばった。

『キメラの失敗作……まさか!』

『生きていたんだ。彼らは、彼らは成功作の遺伝子を求めて秀一と、キメラの唯一の成功作、優那君を襲ったんだ。間一髪、先に感づいた秀一が優那君を安全な場所に避難させていたから優那君は難を逃れたが、優那君を庇うために秀一は大怪我を負った。日本に急遽優那君を避難させたが、いつやつらが優那君や、それどころか学の存在に気づいてしまったら……俺は学に真実を打ち明けなければいけないのかもしれない』

『そんな……うう……!』

七緒は思わず泣き崩れてしまった。

『罪もない子供達がどうして……!だから私は新人類計画なんて反対だったんです!事実を知っているのに…なにもできないなんて!』

『透!』

龍児は泣き崩れる七緒をバッと抱き締めた。

『学は、そして優那君は俺が絶対守る。大事な俺たちの息子達だ。彼らは人間として幸せになるんだ。俺が絶対、不幸になんかさせない。』

『そうですね、泣いてしまってごめんなさい龍児さん。私達大人がしっかりしなくてはいけないですものね。あの子達を守ってあげれるのは私達だけですもんね。』

七緒はゆっくりと龍児の背中に腕をまわすのであった。







そんな事が理事長室で起きているなんて俺は知らずに昼食を済ませ午後の授業もきちんと受けてあっという間に下校時間。
部活をしていない俺は帰る準備をして家路に着く途中ブリーチを大量に買った薬局で黒染めを購入し帰宅。

父さんはいつも20時近くに帰ってくる。夕飯は基本俺が基本担当だけど七緒さんが作ってくれることもあるけど今日は二人とも帰ってくるの遅くなりそうだから今晩は俺が作ろうと思う。

俺が住んでるのは桜木学園から徒歩15分の場所にある。途中には商店街もあって生活するにはとても便利場所に住んでいるマンションがある。
ここの商店街のおじいさんとおばあさん達は俺の姿を見ても怖がらない。
それにいつもニコニコと笑って普通に話してくれてサングラスやマスクをしないで買い物に行けるのはこの商店街だけである。

お肉屋さんで今晩のカレーに使う肉を買ったらサービスでおばちゃんからあげたてのコロッケをもらった。あそこのコロッケ美味しいんだよね、小さい幸せ、嬉しい。

片手に買い物袋と通学カバンを一緒に持ち片手に揚げてのホクホクした甘いソースのかかったコロッケを食べながら帰宅した。
玄関で靴からスリッパにはきかえる時に俺はその時、増えている揃えられたくつがあることにその時点では気づかなかったにであった。


まずリビングのテーブルに買ってきたナイロン袋を置いて俺は自分の部屋にまず向かいじゃらじゃらつけていたアクセサリーを外して制服から私服に着替えた。
ジーンズとチェックの上着白いTシャツ、いつもそういう感じのGUとかしまむらで安く量産されているものを着ている。
制服をきちんとハンガーにかけてクローゼットにしまう。もちろんファブリーズをたくさん振りかけてね。
匂うの嫌だし。さらにエプロンと三角巾をしたら準備完了、俺はリビングに向かいナイロン袋を手にしてそのままリビングと繋がっているキッチンに立った。
料理を作る前に手洗いをしたのちにアルコール消毒をしっかりしてからカレー作りにとりかかった。

家庭料理全般はそこそこプロの味とはいかないまでもそれなりに美味しくは作れる。
こだわってじっくり作るならわりと何でも、チャーシューも作れるし……引き合いにチャーシュー持ってくるのどうなの?って思われるかもしれないけど高校1年の男子にしてはチャーシュー作る男子ってすごくない?

ってところを知ってもらいたくてですね、とにかく何が言いたいのって
俺は料理が得意だと言いたいんですよ。

でもやっぱり学校とかで忙しいときはカレーとかシチューとか手っ取り早くできるものに頼って切った具材をルーを入れてで煮込めばを完成のようなものばかりな日々が多い。

買ってきた野菜を洗い切り始める。包丁さばきもトントンとわりとリズミカルに使いこなせる方でにんじんやじゃがいもの皮もピーラーではなく包丁でわりと薄く剥ける。


今日はカレーと昨日の残ったヒジキの煮物とワカメの味噌汁で今晩はいいかな……うーん手抜きで副菜を用意していないけどやっぱり用意すべきかな?


『サラダとかデザート用意した方がいいかな?』

俺はボソッと呟いた。

『僕デザート食べたい!パンケーキがいいな!生クリームたっぷりのやつ。』

『でもカレーライスにパンケーキって……なかなかヘビーじゃない?せめてゼリーとかフルーツとか……』

『僕パンケーキが好きなんだもん。』

『いやいや太るよ……ん?』

俺は……一体誰と会話してるんだ?俺はまるで壊れたロボットのようにギギギと声のする方向に振り替えった。


『学ってお料理上手なんだね!なんか美味しそうな匂いするから何かなー?って来たら、しかもマメだね~皆きれいな賽の目切り。』

振り返ると隣には誰もおらずハッと隣を見ればいつそこにやってきたか分からない。気配すら全く気づかなかった桜木優那、かくいう今日から俺の弟になったという稀に見ない美少年がピッタリ俺の腰に抱きつき俺の切った材料を興味深く見ていた。


『キャーーーーー!』


俺はびっくりしすぎて叫んでしりもちをついてしまった。ぎゃーでもうわーでもない、俺は
キャーと叫んだんだ。

『耳元で叫ばないでよ、それに包丁も持ってるのに危ないなーもうっ』

優那は呑気にそういった。

優那の格好はダボダボの俺が買ったジャイアンツの応援グッズユニフォーム。

195センチの俺用の大きさ、普通の大人が着ても緩いしダボダボなのに、身長も体重も俺より半分しかない優那が着たらなんていうか……彼シャツ?っていうの?
いや、同じ男同士で彼シャツって表現はおかしいんだけど、
まるでワンピースのようで、よりによってズボンを履いていない。

着ているのは俺のジャイアンツコレクションの一つの応援ユニフォームと素足にモコモコのピンクのウサギのスリッパだけ…多分。
だって、ユニフォームの下がどうなってるかなんて捲らない限り分かんないし。


だからといって捲って中が履いてるかどうかなんて確認するつもりもないし。


『な、なんで!?なんでここに?!ていうか俺のユニフォーム……』

『弟だもん、同じ家に住んで当然じゃん。それにまだ荷物届いてなくて着替え届くまでしばらく君の服借りるねお兄ちゃん🖤』

ニッコリと優那は笑った。そ、そっか弟だもんね、そりゃ同じ家に住むよね。

『あは、あははは……デスヨネー』

俺は動揺しながらユラユラと立ち上がる。なんかいろいろ突っ込むこといっぱいあるような気もするんだけど、こんな可愛い人、こんな間近にして、なんて話していいか分からない。次元が、住む次元が違い過ぎる。
16年間影でできるだけめだたないように生きていた俺。こんなキラキラな美少年眩しすぎる。


『あの……怖くないんですか?』

『え?』

『いや……なんか、よく…俺はじめてあった人に、人相悪すぎて怖がられてばかりだから……その……』


最後らへんからゴニョゴニョと自分でも何言ってるかわかんなくなった。
俺はとにかく気をまぎらわせようと中断した食材を切るのを再開した。

『……っ!』

俺は相当緊張してるんだろう、包丁の先で人差し指を小さく切って怪我をしてしまった。プッチリと小さく血が溜まる。いつもはこんなヘマしないんだけどな……

『怪我しちゃったの?』

ヒョコっとまた俺の隣にきて優那は俺を見上げて聞いてきた。195センチの俺に対しておそらく優那は150センチ前後といったぐらい。小さい身長でグイッと俺を見上げてくる。

『だ、大丈夫……その……ちょっと切っただけだから……舐めときゃ治るから……』

長い睫毛に覆われているまん丸の青い澄んだ優那の瞳がずっと俺を見上げてる。
…気まずいよ…と思ってた瞬間だ。

パクっ

『へあ?!ええええ!?』

それもまたなんの前触れも無く突然だった。優那が近づいたと思ったらいきなりパクっと怪我をした指をくわえられた。

『ん……////ん…///…』

ななななな

何してるのこの人!優那はチュパチュパと怪我をした俺の指を舐める。しかもなんかエロい!優那の口のなかは暖かくて、柔らかくて、舌が俺の血を拭ってなめとっているのがわかる。

『うわーーーー!/////』

俺は思わず咥えられた指を引き抜いた。俺は恥ずかしさやらなんやらで顔を真っ赤にした。

『ふーん……そう……学。君って……どおりで美味しそうな匂いしてた訳だ』

優那はペロっと唇に僅かについた俺の血を舌舐めずりをして舐めた。一瞬目が細くなってなんか獲物を狙う獣の目になったようにも見えたけど、俺の図体と割りに合わないチキンな心臓がバクバクして正直優那の言ってること頭に入んない。

『ま、いいや。学、カレーライス出来るの楽しみにしてるね』


優那はニッコリ笑うと俺から離れリビングに向かうとソファーにワザワザ体育座りで座ってテレビをつけるのであった。





いろんな気持ちがぐるぐるまだ整理つかないままではあったが、父さんもお腹をすかせて帰ってくるし、夕飯はちゃんと作らなきゃと思ってカレーと味噌汁、そして優那だけにパンケーキを焼いた。

『あのー……夕飯出来たんですけど……』

俺は恐る恐る遠くからわざと距離をとって優那に呼び掛けた。

『わーーーい!お腹ペコペコー!僕運ぶの手伝う!』

優那はリビングからパタパタと駆け寄ってきた。思わず天真爛漫な眩い天使のような姿だったのでその神々しさに圧されて目を細める。

『学、ご飯よそっていい?』

『あ、うん……どのくらい食べれるか分かんないから好きなだけよそっていいよ…父さんの分はとっておいたし…』

『本当!わーーい!』

優那はそういうと炊飯器からどんぶり3杯分くらいの白米を来客用の大皿に盛り付けてなみなみにカレーをかける。
俺も大盛りを食べるけど、優那のは大盛りを越えている。

リビングに料理が並ぶと俺は部屋にいって食べようとしたけど優那に一緒に食べようよ!と強引にリビングのテーブル、優那の向かい側に座らされた。

『いっただっきまーーーーす!』

大爆盛りに盛り付けられたカレーライスを優那はパクパク食べていく。あんなにてんこ盛りだったカレーライスがあっという間に消化されていきあの小さな体のどこに入っていくんだろうと俺は唖然と見いってしまった。

おそらくカレーライスはものの15分くらいで完食。俺はまだ半分も食べてない。
俺がまだカレーライスを食べている間に瞬く間に昨日の夕飯のヒジキの煮物と分厚いパンケーキを残さずペロリとたいらげでしまった。


『美味しかったー!学って料理の天才だね、カレーライスのお肉柔らかいままだし、パンケーキにもフワフワ~☆』

優那は満足そうにナプキンで口を拭いた。あんなに食べたのにお腹がポッコリ出るわけでもないし…痩せの大食いってこういう事を言うんだ…と思わず感心してしまった。

『えっと……コーヒー……飲む?』

無言になるのも気まずいので先に食べ終わった優那に食後のコーヒーを進めた。優那は『飲んでいーの?飲むー!』っとなんとも無邪気に笑う。……いちいちキラキラして眩しいよ……俺はコーヒーを入れてあげて角砂糖の入った瓶と牛乳、紙パックまま優那に渡す。優那は嬉しそうにコーヒーのカップを受けとると角砂糖をドボドボと沢山いれて牛乳もドボドボ入れ甘い、むしろ甘すぎてコーヒーの風味なんか吹っ飛んだものを美味しそうに飲んだ。食べっぷりも見事だったけど、飲みっぷりも見事だなぁ……俺は感心した。


『学は食べないの?』

『あ……うん。食べる。』

思わず感心して見いってしまったため、俺は食べる手が止まっていたから優那に促されると食べるのを再開した。

『ねえ、学。あ、食べ続けてでいいよ、なんていうか学って優しいね。僕の分まで用意してくれたり何だかんだでパンケーキ焼いてくれたり』

優那はテーブルに頬杖をついて俺を見てきた。声を出さなきゃ本当に女の子みたいだな……

『うん……まあ……パンケーキの材料あったからね……』

俺はうつむき答えながらカレーを食べ続ける。

『学、パンケーキ好き?』

『ん?うん……まあ…好きだよ』

なんでそんなこと聞くんだろうと思ったけど確かに昔からパンケーキは好きだった。

『ねえ、猫って好き?』

『え?……う、うん……猫は好きだよ?』

パンケーキの次は猫?俺があまりに口下手だから必死に会話してくれてるのかな?

『犬は苦手だよね?』

『え?』

『必ず吠えられるから、でしょ?』

『う、う、うん……』

『泳げないよね?』

『え!?』

『昔っから金づち』

『そ、その……』

『夢は学校の先生』


『なんで…』

『願わくば桜木学園の次世の理事長』

『ま、待って!』

俺は優那の話を止めた。なんで初対面なのに話したことも無いのに俺の事知ってるの?


『学、なんでそんなに自分の事知ってるの?みたいな顔してる』

優那は頬杖をといて背もたれに寄りかかる。

『父さんが……話したの?』

そう聞けば優那は首を横に振った。


『一番最後の桜木学園の理事長になりたいっていうのは勘だけど……あとは全部、学本人から聞いたんだよ』

俺がそんなこと自分から話したことなんてないし、別に隠してることでも無いから別にどうでも良いことばかりなのだけど…、でもなんで?…

『やっぱり覚えてないんだ。何も。』

優那はつまらなそうに口を尖らせた。

『龍児さんから口止めされてたけど、やっぱり無理だよ。本人目の前にずっと会いたかった人にやっと会えたのに。』

優那はプイッっとしたと思えば瞳が潤んだのがわかった。俺はそれを見ておもわず慌ててしまうけど、何をいっているのか本当に分からないんだ。

『ご、ごめん……その、よく分かっていなくて…』

『知ってる!』

『あ……はい…』

なんだよ…めんどくさいな…正直思ってしまった。

『学、僕たち昔…!』

優那が何か言おうとした、その時だ。


『ただいま。お、この匂いは今晩は学の作ったカレーライスかな?』

玄関の方からドアをガチャっと開ける音がして父さんの話す声が聞こえてそれに遮断されて優那の話が途切れてしまう。



『優那君に学、新たな兄弟同士でさっそく夕飯を食べていたのか!良いことだ。父さんは仲良くしてもらって嬉しいぞ!』

龍児がリビングにやって来るなり同じ食卓を囲む二人を見て嬉しそうにする。

『えっと……まあ……俺さ、髪とか染め直したりとかするから先に部屋に戻る!』

俺は横目で優那を見たら優那は俯いてずっと下を見ている。さっきなんだか泣きそうになってたし、それを思ったらとても気まずいからおもわず食べるのを中断して俺はそそくさと自分も部屋に逃げるように向かった。




『おい!学!……なんだせっかく3人で夕飯の続きとでも思ったのに』

龍児はスーツのネクタイを外して椅子にかけた。

『どうだい?優那くん、我が家の住み心地は。まだ慣れないことも沢山あると思うけど、君の新しい部屋が見つかるまでそれまでは君の家なんだ。男3人が暮らすには狭い所だが遠慮なくゆっくりしてくれ。』

眼鏡を外し眼鏡をふきをポケットからだして眼鏡のレンズを拭きながら龍児は優那にそう話す。

『ねえ龍児さん、僕、本当にここにいて大丈夫かな?』

龍児のレンズを拭く手が止まる。

『僕、皆から成功作って言われてるけど……そんなのきっと嘘だよ……僕と修一さんを襲ったキメラの失敗作同様、僕もきっとどこか欠陥があるんだって思った……学が怪我したんだ、料理作ってるとき、包丁で指を切って、最初心配したけど、学の血の匂いを嗅いだ途端僕の中に閉じ込めてるキメラが疼いた。気づいたら学の血を舐めていたそして』

俯いてた優那が顔をあげた。

『学の味、すっごく美味しいって思っちゃった』

優那の大きな目からボロっと大粒の涙が零れた。

『そして学がいる、って再認識した途端。昔僕たちは一体どういう関係だったのか言いたくて言いたくて仕方なくなったよ……少しの望みを持って学に色々聞いてみたけどさ、学の記憶からは僕はやっぱり消えていて、でもきっと学の本当の幸せを願うなら、きっと何も言わない方が良いんだよね?』

龍児は何も言えなくなり黙って眉をひそめた。


『いいよ。分かってる、龍児さんも本当は僕と学を会わせたくなかったんでしょ?だって学こそ僕なんかより限りなく成功作、全く人間と同じ体の構造、そして心も。それに対して僕は(ある意味成功作)としての僕が学に近寄ったら、学の中に眠るキメラが目覚めてしまうかもしれない、それに、一度学のキメラ暴走は目の当たりにしてるから分かる。次に覚醒したら人間に戻れなくなるかもしれないしね。知ってるよ、僕が学と同じクラスになってしまって内心良く思ってないことも、僕の新しい部屋を探してるのも、学からなるべく引き離したいからでしょ?』

優那は淡々と話すと龍児がおもわず声を大きくした。

『それは違う!優那君も学も、人間だ!』

『じゃあなんで僕を一緒に学と居させてくれなかったの?!たまたま修一さんがこうなったから頼れるのがあの研究に携わっていた龍児さんしかいなくて、僕は仕方なく龍児さんのところに行くしかなかったんだ。修一さんに育てて貰った恩義はもちろんあるよ…でも、いつも心では学を思って忘れることができなかった!』

優那もおもわず大きな声を出して反論した。

『あのときはこうするしか方法がなかったんだ……必ず、私が必ず君達を本当の人間にしてみせる!キメラ細胞に打ち勝つ、その方法を見つけて必ず君達を……』

『僕はキメラとか研究とかもうどうでもいいから学に僕を思い出して欲しいだけなんだよ!』

その言葉に龍児はおもわず黙りこんでしまう。しばらくの沈黙が続くと先に口を開けたのは優那だった。


『どうしようもないってことは分かってるのに…我が儘言ってしまってごめんなさい……一旦僕も部屋で休みます。食器はシンクにおいてていただければあとで僕が洗うので……本当にすいませんでした。』

そういい残すと優那もまた用意された部屋にパッと向かうのであった。
残された龍児は何か思いつめた表情をして優那の出ていった後のドアを見るのであった。










そんなやり取りがあったなんて部屋にいた俺は知るよしも無かった。
まず部屋に戻ると俺はTシャツを脱いで上半身裸になり首にケープをかけて机にスタンドの鏡をおく。

俺の部屋はフローリングの6畳ほどの大きさ。
あるのはベットと机とタンス。自分で言うのもあれだけど綺麗好きな方で散らかってるのが嫌いだからわりとマメに整理整頓、掃除をする。
だからいつ部屋に誰が入ってきてもいい状態ではある。


そんな家に呼ぶほどの友達いないんだけどさ……


俺は髪を黒く染めはじめた。脱色して少しいたんでしまった髪には簡単に黒が入った。ムラなく、根元まで……わりとこまめに染める。
綺麗にそめたら黒染めについてたビニールのネットをかぶり馴染むまでそのままの格好で宿題をした。5教科すべての宿題を終えるころには時計は22時、30分以上放置したしもう洗い流していいだろうと素肌に上着を羽織りシャワーを浴びようと風呂場に向かった。
途中リビングの明かりが着いてたから覗いたら父さんが書類を広げてテーブルに顔を伏せて眠っていたから疲れているのだろうと思いわざと起こさず、そっと毛布を肩にかけて再び風呂場に向かった。

脱衣場で服を脱ぎ髪の毛を洗い鏡を見る。綺麗に黒く染まったけど、自分のつり上がった目とギザギザの歯を見たときなんでこんな顔なのだろうと毎度思う。
体も並みの日本成人男性の平均をはるかに越えて高い身長で話すときも自ずと見下ろす体制になってしまう上にこの人相の悪さ、それに加え皆は俺を見上げる体制になるから影の出来具合でもっと人相が悪くなるみたいで……
俺の将来の夢は学校の先生。友達もいないし、あんまり学校で特別いい思い出も悪い思い出もないんだけど、なんで学校の先生が夢かというとやはり父さんの影響は大きい。

それは念に数回、理事長自ら全校生徒の前で教壇にたつ特別授業があって、それは命や人に関する道徳の授業。
その時の父さんの姿が誇らしく、かっこよく、そして何よりささる言葉が俺のなかで今でも残っていて。




  命は皆等しく生を受ける、ただ生まれてきた環境や辿っていく道のりで踏み外したり、挫折したり、無い物ねだりで他者を妬んだり決して綺麗な事ばかりではないことは沢山ある。

 でもそこで休んでもいいが沈み歩みを止めることはしないでほしい。
その苦しみ君自身が導きだした答えが、新たな君達自身の可能性になるんだ。

 もし今苦しみ悩んでいるのなら、それは君達が新たに飛び立とうとしてる証である、その努力は決して裏切らない今すぐに形として結果が出るわけではないけど何年後、何十年後の君自身の糧になる。

私はそんな可能性を秘めている君達と共にあれること、本当に嬉しい。

ありがとう。






勉強だけではない、もっと大切なことを子供たちに伝えられるよう教員になりたい。父さんの姿を見てそう思ったんだ。

でも……やはり思ってしまう。

こんなナリをした俺なんかが、生徒の前に立って話すことが出来るのだろうか。俺が学校の先生という夢を持つことなんて、あっていいのだろうか。


鏡にうつった自分を見ながら自問する日々が続いて答えはまだ出ていない。
同じことをずっとぐるぐるぐるぐるいったり来たり悩んでしまっては結論が出ないまま、今にいたって。
進路のことで悩んでしまう、俺は教員免許のとれる大学に進学するか父さんの負担を減らすために就職するか。

あと2年に迫ってる自分の行き先、早く決断して今から準備しないと行けないのだけどな…


髪と体を洗い終えて軽くタオルで水分を脱ぐってから脱衣場に出ようとする。普段から湯船には浸からない、基本はシャワーで済ませてしまう、今日もそうだ。

ガタンと脱衣場に出るために扉を開けたときだ。

『わ!』

『へあ?』

そこには桜木優那が服を脱ぎバスタオル1枚体に巻いて
真っ白な素肌、鎖骨が露になって、それより俺はノーガード真っ裸で遭遇してしまう

『が、学。いたの?』

『あ、あがが……す、すいません!』


ピシャッと俺は扉を閉めた。いやいや、同じ男同士なのになんで俺をこんなに動揺してるんだろう。自分の顔が真っ赤になるのがわかった。
でも、だって、バスタオルであえて隠れてしまっているあたり本当に女子にしか見えなくて、おもわず意識してしまった。

いや、もうズバリはっきり言う。

顔が良い。

顔が良いんだよ!

俺の邪念!!

俺の薄汚れた邪念が……

俺は浴室にあるプラスチックの座椅子に扉に背を向けて座り頭を抱えてうなだれ後悔する。

『学?大丈夫?』

『ぎゃー!』

すると真後ろに優那が立って俺の肩に顎を置いて聞いてきた。優那の体温が直に肩、背中に伝わる。

『顔、真っ赤だよ?』

『あ、あの……優那…さん?近いです…お、俺すぐ浴室出るから……』

優那から返事は無かった。でも座る俺の背中にずっとピッタリくっついて離れない。
な、なに!?そんなにくっつかれちゃ俺立てないんですけど!?

『ねえ……学、覚えてない?』

『な、何をですか?』

またさっきと同じことを聞かれた。というか耳元で囁かれた。
吐息が直に耳にあたり最初に会ったときに香った甘い香りが鼻を擽る。
俺の体温がまた上がる。

『ねえ……学……学……』


え!背後でまたグスンと泣きすする音、な、な、泣いてる?俺は心配して優那さん?と声をかけみる。すると後ろからスルッと白い指が伸びてきて俺の胸を触ってきた。

『は、え!!』

『ねえ、ここ?胸の奥に僕と過ごした思い出。記憶、しまっちゃった?』

細くてシュッとした指先が俺の胸のあたりをなで回してくる。

『ちょっと、止めろって!』

図体は俺の方が数段に大きいし力も倍あるからとっさに身をよじって優那から離れたが無理な体制から捩ったせいで思わず仰向けに倒れてしまった。
頭は打たなかったけど、鈍い痛みが身体を走る。するとドシッと倒れた俺の体の上に優那がのし上がって乗ってきた。

『ちょっと……何を……』

俺はその優那の突然の奇行に状況がよく飲み込めない。すると、優那の綺麗な顔がグッと近寄って俺の両目を凝視する。あまりに近すぎて目が離せない。

『記憶がなくても、体は僕のこと覚えてるかな?』

『何言ってるの……いいからどけてよ…』

『学、おもしろい』

『もう力付くで動くよ!俺の方がパワーあるんだからさ!』

俺は無理やり動こうとした瞬間だ。優那の顔がいっそう近づき自分自身の口を優那の唇に塞がれていることに気づくには時間がかかり、まるで時間が止まったように感じた。

甘い優那の香りが、温かくて柔らかい唇が、はじめての感触が
まるで酒を盛られたように酔わせる。未成年だから飲酒したことないけど…

ゆっくりキスを解かれる、何を話せばいいか分からない。一体何が起きたんだ?

『ねえ、僕をまた学のものにしてよ……』

優那の綺麗な青い瞳が俺を細めて見た。心臓が羽上がって鼓動が、脈打つのが早くなる。気が遠くなる。熱い。何か俺のなかで這いずり回ってる感覚。

『思い出して、僕のこと……』




     ー眠っていろ、俺様の獲物だー



頭のなかで誰かの声がした。



そこから俺は次の日の朝までの記憶がないのだった。
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