58 / 385
ドューワ国編
110.あらためて、自己紹介する
しおりを挟む
三人の少女はまだ目を覚まさない。
ノムルは空間魔法から駅弁を取り出して、食べ始めた。
今日のお弁当は『玉スーシー弁当』だ。
色取り取りのネタに包まれた一口サイズの手鞠寿司、と言いたいところだが、もちろん少し違う。
半分に切られた酢漬けコンメを、様々な野菜で包んでいた。醤油はやっぱり無い。
ノムルはポイポイと口に入れて食べていく。
「もう少し、目でも味わいましょうよー。あと、ちゃんと噛まないとお腹に良くないですよ?」
「目に味覚は無いよー? お腹は大丈夫だよ」
弁当を食べ終わり、お茶を啜り終える頃には、三人の少女も目を覚ましていた。
人里から数日は掛かるグレーム森林の奥で、保存食ではない、お弁当を広げて食べている魔法使い。
危険な魔物も現れるグレーム森林の奥で、のんびり食事を楽しむ魔法使い。
それだけの力を有しているのか、それとも単なる間抜けなのか、量り切れない三人の少女は、死んだ魚のような目でその光景を眺めていた。
「あらためて、自己紹介するわね」
ノムルの食事が終わったことを確認した少女達は、大きく頭を振って思考を取り戻す。
こほんとわざとらしく咳をすると、マリーが口火を切った。
「私はマリー、見ての通り剣士ね。彼女も剣士でラーム。そして魔法使いのミレイよ」
「ラームだ、よろしく」
「ミレイよ」
長身の少女、ラームは雪乃に手を伸ばし、握手を求める。
「雪乃です」
と、反射的に手を握り返そうとした雪乃は、すぐに手の動きを止めた。触れられてしまえば、隠し切れない。
そこへ、ノムルの声が降って来る。
「もう会うこともないだろうから、よろしくしなくていいよ? 俺も君たちに興味ないし」
ぎぎぎっと錆びた音を立てて、少女達は首を上向けた。
冷え切った視線がノムルに突き刺さる。まったくダメージは与えられていないが。
雪乃はノムルがフォローしてくれたのだと感じはしたが、あまりの内容に、感謝よりも呆れが勝ってしまった。
「そ、そうだ、樹人を見なかったかい?」
「え?」
凍りついた空気を振り払うように、ラームが口を開く。
しかし雪乃の周囲は一段と凍りつき、体から一気に血の気が引いた。
ノムルも表情を消し、杖を持つ手から人差し指を浮かす。次にこの指が杖に触れれば、目の前の光景は一瞬で違うものとなるだろう。
雪乃のもらした声を聞きとめ、樹人を知らないと考えたのだろう。ラームは続けて説明する。
「幹に顔がある、歩く木なんだけどね。ミレイの杖を新調するための素材として、探しに来ていたんだよ」
「でも今日はもう進まず、野営地を確保するわよ」
「もちろんさ」
と、ラームとミレイは楽しそうに笑みを交わす。一歩後ろで、足止めの原因となってしまったマリーは、申し訳なさそうに視線を下向けていた。
雪乃はおもむろに視線を落とし、ローブの下に隠れる自分の体を透かし見る。
「ええっと、杖とは、どのくらいの大きさの物を作るのですか?」
漫画や映画によっては、教鞭ほどの細く短い杖を使う場合もある。それならば最悪でも、枝の一本を差し出せば済むかもしれない。
そう考えて、ふるりと震えた。
樹人は怪我をしても人間ほど痛みを感じないが、それでも枝を切られれば痛いだろう。それに杖になりそうな大きさの枝は、二本しかない。雪乃が腕として使っている枝だ。
緊張を覚えながら、雪乃は答えを待つ。
「そうねえ。ローブにしまえるくらいの、魔法石を埋め込んだ小振りの杖も可愛くて好きなんだけど」
と、手で大きさを示す。
その大きさならば、腕一本で済みそうだと雪乃はわずかに安堵する。しかし、
「今は魔法石を買う余裕はないから、魔法石無しの大振りな杖を作るつもりよ。歩くときに補助とする杖としても使いたいから、最低でも一メートルは欲しいわね」
続いた言葉に、雪乃は一瞬にして石化した。
小さな雪乃では、彼女が望む杖を作るためには、枝を提供するだけでは足りない。幹を使わなければ間に合わないだろう。
三人の少女は、動きを止めた雪乃を怪訝な顔で見つめる。小さな子供の顔は深く被ったフードで見えないが、体が小刻みに震えているのは分かる。
「樹人はこちらから攻撃しなければ何もしないから、そんなに怖がらなくても大丈夫よ?」
「顔を攻撃すれば、すぐにしとめられるわ」
「ああ。もし複数体に囲まれても、やつらはそれほど強くないからね。心配しなくてもいいんだよ?」
「「「もし出てきても、全部私たちが倒してあげるからね」」」
にっこりと笑った少女達は、震えている雪乃に慰めの言葉をかけて、宥めようとする。それが返って雪乃を追い込んでいることには、全く気付かない。
雪乃はふるふるふるふると、震えた。
「でもどうして樹人を? 他の素材でも良いのでは?」
何とか気を取り直した雪乃は、確認してみる。
ノムルも杖を持っているが、あれは樹人ではない。雪乃の目利きが正しければ、あれは持っていれば幸運を呼ぶとも伝えられる、幻の高級木材だ。
あの白と黒の渋いコントラストは、眺めているだけで時間の流れを忘れてしまいそうになるほどの、侘びた美しさを放っている。意識していないと、ついじっと魅入ってしまう、危険な杖だった。
「それはもちろん、一流と呼ばれる魔法使いの多くが、樹人から作った杖を使用しているからよ。魔力を持つ樹人から作った杖は、魔法との相性がいいの」
「ふうーん」
興奮するミレイの話に、面倒くさそうに鼻で返事をしたのはノムルだった。
問いかけた雪乃はといえば、やっぱりふるふるしていた。
「無理に探しに行かなくても、素材屋で売ってると思うよ? お金ないの?」
「あら、魔法使いのくせに、知らないの? 自分の手で倒して手に入れた素材を使うことで、自分に忠誠を誓う、自分だけの最高の杖を手に入れられるのよ」
ノムルの質問に、ミレイは顔をしかめる。自分よりも年上なのに基礎知識も持たないのかと、侮蔑の色が眼差しに混じった。
「いや、誰が倒しても関係ないと思うけど?」
「杖は魔法使いのパートナーとなる存在なのよ? お金で買った人間よりも、自分を倒した人間に従うに決まっているじゃない。魔法学校でも教わる常識よ? 弟子を取るのなら、その程度の知識は身に付けておきなさい」
ミレイの口調は、呆れつつも咎めるように厳しい。それに対してノムルは、わざとらしく顔をゆがめ、肩を竦めた。
ノムルは空間魔法から駅弁を取り出して、食べ始めた。
今日のお弁当は『玉スーシー弁当』だ。
色取り取りのネタに包まれた一口サイズの手鞠寿司、と言いたいところだが、もちろん少し違う。
半分に切られた酢漬けコンメを、様々な野菜で包んでいた。醤油はやっぱり無い。
ノムルはポイポイと口に入れて食べていく。
「もう少し、目でも味わいましょうよー。あと、ちゃんと噛まないとお腹に良くないですよ?」
「目に味覚は無いよー? お腹は大丈夫だよ」
弁当を食べ終わり、お茶を啜り終える頃には、三人の少女も目を覚ましていた。
人里から数日は掛かるグレーム森林の奥で、保存食ではない、お弁当を広げて食べている魔法使い。
危険な魔物も現れるグレーム森林の奥で、のんびり食事を楽しむ魔法使い。
それだけの力を有しているのか、それとも単なる間抜けなのか、量り切れない三人の少女は、死んだ魚のような目でその光景を眺めていた。
「あらためて、自己紹介するわね」
ノムルの食事が終わったことを確認した少女達は、大きく頭を振って思考を取り戻す。
こほんとわざとらしく咳をすると、マリーが口火を切った。
「私はマリー、見ての通り剣士ね。彼女も剣士でラーム。そして魔法使いのミレイよ」
「ラームだ、よろしく」
「ミレイよ」
長身の少女、ラームは雪乃に手を伸ばし、握手を求める。
「雪乃です」
と、反射的に手を握り返そうとした雪乃は、すぐに手の動きを止めた。触れられてしまえば、隠し切れない。
そこへ、ノムルの声が降って来る。
「もう会うこともないだろうから、よろしくしなくていいよ? 俺も君たちに興味ないし」
ぎぎぎっと錆びた音を立てて、少女達は首を上向けた。
冷え切った視線がノムルに突き刺さる。まったくダメージは与えられていないが。
雪乃はノムルがフォローしてくれたのだと感じはしたが、あまりの内容に、感謝よりも呆れが勝ってしまった。
「そ、そうだ、樹人を見なかったかい?」
「え?」
凍りついた空気を振り払うように、ラームが口を開く。
しかし雪乃の周囲は一段と凍りつき、体から一気に血の気が引いた。
ノムルも表情を消し、杖を持つ手から人差し指を浮かす。次にこの指が杖に触れれば、目の前の光景は一瞬で違うものとなるだろう。
雪乃のもらした声を聞きとめ、樹人を知らないと考えたのだろう。ラームは続けて説明する。
「幹に顔がある、歩く木なんだけどね。ミレイの杖を新調するための素材として、探しに来ていたんだよ」
「でも今日はもう進まず、野営地を確保するわよ」
「もちろんさ」
と、ラームとミレイは楽しそうに笑みを交わす。一歩後ろで、足止めの原因となってしまったマリーは、申し訳なさそうに視線を下向けていた。
雪乃はおもむろに視線を落とし、ローブの下に隠れる自分の体を透かし見る。
「ええっと、杖とは、どのくらいの大きさの物を作るのですか?」
漫画や映画によっては、教鞭ほどの細く短い杖を使う場合もある。それならば最悪でも、枝の一本を差し出せば済むかもしれない。
そう考えて、ふるりと震えた。
樹人は怪我をしても人間ほど痛みを感じないが、それでも枝を切られれば痛いだろう。それに杖になりそうな大きさの枝は、二本しかない。雪乃が腕として使っている枝だ。
緊張を覚えながら、雪乃は答えを待つ。
「そうねえ。ローブにしまえるくらいの、魔法石を埋め込んだ小振りの杖も可愛くて好きなんだけど」
と、手で大きさを示す。
その大きさならば、腕一本で済みそうだと雪乃はわずかに安堵する。しかし、
「今は魔法石を買う余裕はないから、魔法石無しの大振りな杖を作るつもりよ。歩くときに補助とする杖としても使いたいから、最低でも一メートルは欲しいわね」
続いた言葉に、雪乃は一瞬にして石化した。
小さな雪乃では、彼女が望む杖を作るためには、枝を提供するだけでは足りない。幹を使わなければ間に合わないだろう。
三人の少女は、動きを止めた雪乃を怪訝な顔で見つめる。小さな子供の顔は深く被ったフードで見えないが、体が小刻みに震えているのは分かる。
「樹人はこちらから攻撃しなければ何もしないから、そんなに怖がらなくても大丈夫よ?」
「顔を攻撃すれば、すぐにしとめられるわ」
「ああ。もし複数体に囲まれても、やつらはそれほど強くないからね。心配しなくてもいいんだよ?」
「「「もし出てきても、全部私たちが倒してあげるからね」」」
にっこりと笑った少女達は、震えている雪乃に慰めの言葉をかけて、宥めようとする。それが返って雪乃を追い込んでいることには、全く気付かない。
雪乃はふるふるふるふると、震えた。
「でもどうして樹人を? 他の素材でも良いのでは?」
何とか気を取り直した雪乃は、確認してみる。
ノムルも杖を持っているが、あれは樹人ではない。雪乃の目利きが正しければ、あれは持っていれば幸運を呼ぶとも伝えられる、幻の高級木材だ。
あの白と黒の渋いコントラストは、眺めているだけで時間の流れを忘れてしまいそうになるほどの、侘びた美しさを放っている。意識していないと、ついじっと魅入ってしまう、危険な杖だった。
「それはもちろん、一流と呼ばれる魔法使いの多くが、樹人から作った杖を使用しているからよ。魔力を持つ樹人から作った杖は、魔法との相性がいいの」
「ふうーん」
興奮するミレイの話に、面倒くさそうに鼻で返事をしたのはノムルだった。
問いかけた雪乃はといえば、やっぱりふるふるしていた。
「無理に探しに行かなくても、素材屋で売ってると思うよ? お金ないの?」
「あら、魔法使いのくせに、知らないの? 自分の手で倒して手に入れた素材を使うことで、自分に忠誠を誓う、自分だけの最高の杖を手に入れられるのよ」
ノムルの質問に、ミレイは顔をしかめる。自分よりも年上なのに基礎知識も持たないのかと、侮蔑の色が眼差しに混じった。
「いや、誰が倒しても関係ないと思うけど?」
「杖は魔法使いのパートナーとなる存在なのよ? お金で買った人間よりも、自分を倒した人間に従うに決まっているじゃない。魔法学校でも教わる常識よ? 弟子を取るのなら、その程度の知識は身に付けておきなさい」
ミレイの口調は、呆れつつも咎めるように厳しい。それに対してノムルは、わざとらしく顔をゆがめ、肩を竦めた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる