『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ドューワ国編

110.あらためて、自己紹介する

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 三人の少女はまだ目を覚まさない。
 ノムルは空間魔法から駅弁を取り出して、食べ始めた。
 今日のお弁当は『玉スーシー弁当』だ。
 色取り取りのネタに包まれた一口サイズの手鞠寿司、と言いたいところだが、もちろん少し違う。
 半分に切られた酢漬けコンメを、様々な野菜で包んでいた。醤油はやっぱり無い。
 ノムルはポイポイと口に入れて食べていく。

「もう少し、目でも味わいましょうよー。あと、ちゃんと噛まないとお腹に良くないですよ?」
「目に味覚は無いよー? お腹は大丈夫だよ」

 弁当を食べ終わり、お茶を啜り終える頃には、三人の少女も目を覚ましていた。
 人里から数日は掛かるグレーム森林の奥で、保存食ではない、お弁当を広げて食べている魔法使い。
 危険な魔物も現れるグレーム森林の奥で、のんびり食事を楽しむ魔法使い。
 それだけの力を有しているのか、それとも単なる間抜けなのか、量り切れない三人の少女は、死んだ魚のような目でその光景を眺めていた。

「あらためて、自己紹介するわね」

 ノムルの食事が終わったことを確認した少女達は、大きく頭を振って思考を取り戻す。
 こほんとわざとらしく咳をすると、マリーが口火を切った。
 
「私はマリー、見ての通り剣士ね。彼女も剣士でラーム。そして魔法使いのミレイよ」
「ラームだ、よろしく」
「ミレイよ」

 長身の少女、ラームは雪乃に手を伸ばし、握手を求める。

「雪乃です」

 と、反射的に手を握り返そうとした雪乃は、すぐに手の動きを止めた。触れられてしまえば、隠し切れない。
 そこへ、ノムルの声が降って来る。

「もう会うこともないだろうから、よろしくしなくていいよ? 俺も君たちに興味ないし」

 ぎぎぎっと錆びた音を立てて、少女達は首を上向けた。
 冷え切った視線がノムルに突き刺さる。まったくダメージは与えられていないが。
 雪乃はノムルがフォローしてくれたのだと感じはしたが、あまりの内容に、感謝よりも呆れが勝ってしまった。
 
「そ、そうだ、樹人を見なかったかい?」
「え?」

 凍りついた空気を振り払うように、ラームが口を開く。
 しかし雪乃の周囲は一段と凍りつき、体から一気に血の気が引いた。
 ノムルも表情を消し、杖を持つ手から人差し指を浮かす。次にこの指が杖に触れれば、目の前の光景は一瞬で違うものとなるだろう。
 雪乃のもらした声を聞きとめ、樹人を知らないと考えたのだろう。ラームは続けて説明する。

「幹に顔がある、歩く木なんだけどね。ミレイの杖を新調するための素材として、探しに来ていたんだよ」
「でも今日はもう進まず、野営地を確保するわよ」
「もちろんさ」

 と、ラームとミレイは楽しそうに笑みを交わす。一歩後ろで、足止めの原因となってしまったマリーは、申し訳なさそうに視線を下向けていた。
 雪乃はおもむろに視線を落とし、ローブの下に隠れる自分の体を透かし見る。

「ええっと、杖とは、どのくらいの大きさの物を作るのですか?」

 漫画や映画によっては、教鞭ほどの細く短い杖を使う場合もある。それならば最悪でも、枝の一本を差し出せば済むかもしれない。
 そう考えて、ふるりと震えた。
 樹人は怪我をしても人間ほど痛みを感じないが、それでも枝を切られれば痛いだろう。それに杖になりそうな大きさの枝は、二本しかない。雪乃が腕として使っている枝だ。
 緊張を覚えながら、雪乃は答えを待つ。

「そうねえ。ローブにしまえるくらいの、魔法石を埋め込んだ小振りの杖も可愛くて好きなんだけど」

 と、手で大きさを示す。
 その大きさならば、腕一本で済みそうだと雪乃はわずかに安堵する。しかし、

「今は魔法石を買う余裕はないから、魔法石無しの大振りな杖を作るつもりよ。歩くときに補助とする杖としても使いたいから、最低でも一メートルは欲しいわね」

 続いた言葉に、雪乃は一瞬にして石化した。
 小さな雪乃では、彼女が望む杖を作るためには、枝を提供するだけでは足りない。幹を使わなければ間に合わないだろう。
 三人の少女は、動きを止めた雪乃を怪訝な顔で見つめる。小さな子供の顔は深く被ったフードで見えないが、体が小刻みに震えているのは分かる。

「樹人はこちらから攻撃しなければ何もしないから、そんなに怖がらなくても大丈夫よ?」
「顔を攻撃すれば、すぐにしとめられるわ」
「ああ。もし複数体に囲まれても、やつらはそれほど強くないからね。心配しなくてもいいんだよ?」
「「「もし出てきても、全部私たちが倒してあげるからね」」」

 にっこりと笑った少女達は、震えている雪乃に慰めの言葉をかけて、宥めようとする。それが返って雪乃を追い込んでいることには、全く気付かない。
 雪乃はふるふるふるふると、震えた。

「でもどうして樹人を? 他の素材でも良いのでは?」

 何とか気を取り直した雪乃は、確認してみる。
 ノムルも杖を持っているが、あれは樹人ではない。雪乃の目利きが正しければ、あれは持っていれば幸運を呼ぶとも伝えられる、幻の高級木材だ。
 あの白と黒の渋いコントラストは、眺めているだけで時間の流れを忘れてしまいそうになるほどの、侘びた美しさを放っている。意識していないと、ついじっと魅入ってしまう、危険な杖だった。

「それはもちろん、一流と呼ばれる魔法使いの多くが、樹人から作った杖を使用しているからよ。魔力を持つ樹人から作った杖は、魔法との相性がいいの」
「ふうーん」

 興奮するミレイの話に、面倒くさそうに鼻で返事をしたのはノムルだった。
 問いかけた雪乃はといえば、やっぱりふるふるしていた。

「無理に探しに行かなくても、素材屋で売ってると思うよ? お金ないの?」
「あら、魔法使いのくせに、知らないの? 自分の手で倒して手に入れた素材を使うことで、自分に忠誠を誓う、自分だけの最高の杖を手に入れられるのよ」

 ノムルの質問に、ミレイは顔をしかめる。自分よりも年上なのに基礎知識も持たないのかと、侮蔑の色が眼差しに混じった。

「いや、誰が倒しても関係ないと思うけど?」
「杖は魔法使いのパートナーとなる存在なのよ? お金で買った人間よりも、自分を倒した人間に従うに決まっているじゃない。魔法学校でも教わる常識よ? 弟子を取るのなら、その程度の知識は身に付けておきなさい」

 ミレイの口調は、呆れつつも咎めるように厳しい。それに対してノムルは、わざとらしく顔をゆがめ、肩を竦めた。
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