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ドューワ国編
123.ある日とつぜん眠りに就き
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「それで、眠り病というのは、どういった病気なのでしょう?」
関心を持って尋ねた雪乃を見て、ロックは表情をほころばせる。
「眠り病はドューワ国に古くから存在する病なのですが、原因や治療方法はわかっておりません。ある日とつぜん眠りに就き、そのまま目覚めなくなるのです」
前触れもなく発症し、そして半年ほどで衰弱死してしまうという、なんとも恐ろしい病だった。
マーク王子殿下がいつ発症したのかは、公表されていない。しかしすでに何年も、王子の姿は公の場に現れていない。
眠り病を発症しているのならば、すでに生きてはいないはずなのだが、アイス国に行くとこの奇病の進行を抑えることができるという。
そのため、マーク王子はすでにアイス国で療養しているのではないかとの噂もあるそうだ。
「お二人は政略的な理由で婚約を結ばれたのですが、その仲の良さは国中に知れ渡っているほどでした。ですから今回の輿入れを、きっとマーク王子殿下もお喜びでしょう」
リリアンヌ王女との婚約に関しては、解消するという話も出ていたそうだが、リリアンヌ王女のほうが、これを拒否した。
そして今回、命を落とす前に迎え入れたいとの申し出が有り、冬が来る前にアイス国へ輿入れすることになった。というのが、表向きの話であるという。
物語のような恋愛話だと、雪乃は吐息をもらす。
「それってつまり、眠りっぱなしの王子様を、アイス国まで連れて行けってこと? えー? なんかめんどそー」
雰囲気ぶち壊しである。
雪乃は視線をそらし、ふるふる震えた。ロックもまぶたを伏せ、ふるふる震えていた。
そんな部屋に、空気を読まない男二号が飛び込んできた。
ばんっと壁に掛けていた絵画が揺れるほどの勢いで扉が開き、三人は静かにそちらに顔を向ける。
「ええーい! 私の話の途中で勝手に退席するとは、なんと無作法な魔法使いだ! そのようなことでは、殿下の護衛は任せられませんぞ!」
顔を真っ赤に染めて、怒っているようだ。
三人は見なかったことにして、顔を正面に戻す。
「これってつまり、馬車二台は寒さ除けをしないといけないんでしょう? 俺だって疲れるよー」
しな垂れかかってくるノムルの頬を、雪乃は枝で押し返す。
「護衛依頼が出ていますのは、リリアンヌ王女です。マーク王子殿下のほうは、ドューワ国の魔法使いたちが対処するでしょう」
「じゃあ問題ないね」
「って、私を無視するな!」
話を進めていくノムルとロックに、ドットは大声で叫んだ。
「ドットさん、素が出てます」
雪乃はさり気無く、気付かせてあげた。……つもりだった。
違う意味で顔を真っ赤にさせたドットは、扉の向こうでしょげ込んで、きのこを生やしている。
そんなこんなのすったもんだの末、ユキノとノムルはお城の前にいたのだった。
「ドットさん、一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
緊張を含んだ雪乃の声に、すでに有能な執事に戻っている執事ドットは、恭しく答えた。
「あのバラは、無農薬でしょうか?」
「……。後で庭師に確認しておきましょう」
「ありがとうございます」
頷いて城へ入ろうとした雪乃だが、一歩踏み込むより先に尻込みする。
どこもかしこも豪華だ。壷を落とさないようにとか、彫刻を倒さないようにとか、そんなことはどうでも良くなってくるレベルだった。
壁も天井も、見事な彫刻が施され、絵画や宝石がはめ込まれている。つまずいて手を突いただけで、アウトな気がするほどだ。
そんな場所に、ドットもノムルもずかずか入っていく。ためらう雪乃のほうがおかしいかのように、振り向いて首を傾げさえした。
雪乃は意を決して、城の中へと足を踏み入れる。
あれはただのレプリカだ。気にしたら負けだと思い込み、ようやく平常心を取り戻した。
「ユキノちゃん、さっきの質問の意味は?」
隣を歩くノムルが問いかけてきた。
「農薬を使っていると、食べれませんから」
「食べる気なの? いや、食べさせるって聞いたほうが良いのか。……俺がバラを?」
「バラジャムとかあるなーっと思っただけです。女性は喜びますね。ただ味は……まあ、うん」
「不味いんだね?」
雪乃はそうっと視線を逸らした。
例え砂糖を加えようと、バラはバラだ。花びらを食べて美味しいと思うなら美味しいのだろうが、それほど美味しいものではない。
基本的には紅茶に入れるなどして、香りを楽しむものである。
パンに塗りたいならば、リンゴジャムと混ぜれば美味しくいただける。味はリンゴだが、ほんのりバラの香りが楽しめる。
「動物は食べたものの香りをまといますから、香りの強い食事を避けてバラを食べれば、体からバラの香りを発することができるかと」
「それ、俺がやったら変じゃない?」
「……。淑女も吃驚デスネ」
どうでも良い会話を交わしながら、二人は長い廊下を歩いていく。ついでに長い階段も上っていく。
「……っ! ユキノちゃん……」
なぜかノムルが口元を手で覆い、ぷるぷると身悶えているが、気にせず雪乃は階段を上っていく。
一段、一段、二つ上の段に両枝を突き、えいしょっと、短い根っこを次の段へと乗せる。それから枝をもう一つ上の段に移動させ、ふんにゅっと、短い根っこを次の段へ……。
いつもなら、これでも遅れること無くひょこひょこと上っていくのだが、今回は立派な絨毯が邪魔をした。
ローブとの摩擦により、裾が引っ張られて上手く根を持ち上げられない。まるで泥沼に嵌ってしまったかのように、歩きにくかった。
「ユキノちゃん、頑張って! ほら、もう少しだよ! おとーさんのところまでおいでー」
「……」
先に階段を上ったノムルは、膝を落として両手を広げ、はしゃいでいる。
ふるふると震えそうになるのを耐え、変態はスルーして雪乃は上っていく。
「うにゃっ?!」
「ユキノちゃん?!」
ローブの裾に根を取られ、バランスを崩した雪乃だが、階段から滑り落ちることは何とか耐えた。
くっと葉を食いしばって顔を上げると、再び階段を上っていく。
気付けば階段の下にも上にも、大勢の侍女さんや執事さんや貴族さんや鼠さんや騎士さんやその他諸々が集まって、手に汗を握っていた。
小さな魔法使いは、一生懸命、階段を上っていく。そして――
「頑張ったねえ。偉いよー、ユキノちゃん」
何とか上り終え、疲れてまともに動けない雪乃を、ノムルおとーさんが抱きしめて、何度も頭を撫でている。
場内に、拍手喝さいが鳴り響いた。
なんとも長閑な国である。
関心を持って尋ねた雪乃を見て、ロックは表情をほころばせる。
「眠り病はドューワ国に古くから存在する病なのですが、原因や治療方法はわかっておりません。ある日とつぜん眠りに就き、そのまま目覚めなくなるのです」
前触れもなく発症し、そして半年ほどで衰弱死してしまうという、なんとも恐ろしい病だった。
マーク王子殿下がいつ発症したのかは、公表されていない。しかしすでに何年も、王子の姿は公の場に現れていない。
眠り病を発症しているのならば、すでに生きてはいないはずなのだが、アイス国に行くとこの奇病の進行を抑えることができるという。
そのため、マーク王子はすでにアイス国で療養しているのではないかとの噂もあるそうだ。
「お二人は政略的な理由で婚約を結ばれたのですが、その仲の良さは国中に知れ渡っているほどでした。ですから今回の輿入れを、きっとマーク王子殿下もお喜びでしょう」
リリアンヌ王女との婚約に関しては、解消するという話も出ていたそうだが、リリアンヌ王女のほうが、これを拒否した。
そして今回、命を落とす前に迎え入れたいとの申し出が有り、冬が来る前にアイス国へ輿入れすることになった。というのが、表向きの話であるという。
物語のような恋愛話だと、雪乃は吐息をもらす。
「それってつまり、眠りっぱなしの王子様を、アイス国まで連れて行けってこと? えー? なんかめんどそー」
雰囲気ぶち壊しである。
雪乃は視線をそらし、ふるふる震えた。ロックもまぶたを伏せ、ふるふる震えていた。
そんな部屋に、空気を読まない男二号が飛び込んできた。
ばんっと壁に掛けていた絵画が揺れるほどの勢いで扉が開き、三人は静かにそちらに顔を向ける。
「ええーい! 私の話の途中で勝手に退席するとは、なんと無作法な魔法使いだ! そのようなことでは、殿下の護衛は任せられませんぞ!」
顔を真っ赤に染めて、怒っているようだ。
三人は見なかったことにして、顔を正面に戻す。
「これってつまり、馬車二台は寒さ除けをしないといけないんでしょう? 俺だって疲れるよー」
しな垂れかかってくるノムルの頬を、雪乃は枝で押し返す。
「護衛依頼が出ていますのは、リリアンヌ王女です。マーク王子殿下のほうは、ドューワ国の魔法使いたちが対処するでしょう」
「じゃあ問題ないね」
「って、私を無視するな!」
話を進めていくノムルとロックに、ドットは大声で叫んだ。
「ドットさん、素が出てます」
雪乃はさり気無く、気付かせてあげた。……つもりだった。
違う意味で顔を真っ赤にさせたドットは、扉の向こうでしょげ込んで、きのこを生やしている。
そんなこんなのすったもんだの末、ユキノとノムルはお城の前にいたのだった。
「ドットさん、一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
緊張を含んだ雪乃の声に、すでに有能な執事に戻っている執事ドットは、恭しく答えた。
「あのバラは、無農薬でしょうか?」
「……。後で庭師に確認しておきましょう」
「ありがとうございます」
頷いて城へ入ろうとした雪乃だが、一歩踏み込むより先に尻込みする。
どこもかしこも豪華だ。壷を落とさないようにとか、彫刻を倒さないようにとか、そんなことはどうでも良くなってくるレベルだった。
壁も天井も、見事な彫刻が施され、絵画や宝石がはめ込まれている。つまずいて手を突いただけで、アウトな気がするほどだ。
そんな場所に、ドットもノムルもずかずか入っていく。ためらう雪乃のほうがおかしいかのように、振り向いて首を傾げさえした。
雪乃は意を決して、城の中へと足を踏み入れる。
あれはただのレプリカだ。気にしたら負けだと思い込み、ようやく平常心を取り戻した。
「ユキノちゃん、さっきの質問の意味は?」
隣を歩くノムルが問いかけてきた。
「農薬を使っていると、食べれませんから」
「食べる気なの? いや、食べさせるって聞いたほうが良いのか。……俺がバラを?」
「バラジャムとかあるなーっと思っただけです。女性は喜びますね。ただ味は……まあ、うん」
「不味いんだね?」
雪乃はそうっと視線を逸らした。
例え砂糖を加えようと、バラはバラだ。花びらを食べて美味しいと思うなら美味しいのだろうが、それほど美味しいものではない。
基本的には紅茶に入れるなどして、香りを楽しむものである。
パンに塗りたいならば、リンゴジャムと混ぜれば美味しくいただける。味はリンゴだが、ほんのりバラの香りが楽しめる。
「動物は食べたものの香りをまといますから、香りの強い食事を避けてバラを食べれば、体からバラの香りを発することができるかと」
「それ、俺がやったら変じゃない?」
「……。淑女も吃驚デスネ」
どうでも良い会話を交わしながら、二人は長い廊下を歩いていく。ついでに長い階段も上っていく。
「……っ! ユキノちゃん……」
なぜかノムルが口元を手で覆い、ぷるぷると身悶えているが、気にせず雪乃は階段を上っていく。
一段、一段、二つ上の段に両枝を突き、えいしょっと、短い根っこを次の段へと乗せる。それから枝をもう一つ上の段に移動させ、ふんにゅっと、短い根っこを次の段へ……。
いつもなら、これでも遅れること無くひょこひょこと上っていくのだが、今回は立派な絨毯が邪魔をした。
ローブとの摩擦により、裾が引っ張られて上手く根を持ち上げられない。まるで泥沼に嵌ってしまったかのように、歩きにくかった。
「ユキノちゃん、頑張って! ほら、もう少しだよ! おとーさんのところまでおいでー」
「……」
先に階段を上ったノムルは、膝を落として両手を広げ、はしゃいでいる。
ふるふると震えそうになるのを耐え、変態はスルーして雪乃は上っていく。
「うにゃっ?!」
「ユキノちゃん?!」
ローブの裾に根を取られ、バランスを崩した雪乃だが、階段から滑り落ちることは何とか耐えた。
くっと葉を食いしばって顔を上げると、再び階段を上っていく。
気付けば階段の下にも上にも、大勢の侍女さんや執事さんや貴族さんや鼠さんや騎士さんやその他諸々が集まって、手に汗を握っていた。
小さな魔法使いは、一生懸命、階段を上っていく。そして――
「頑張ったねえ。偉いよー、ユキノちゃん」
何とか上り終え、疲れてまともに動けない雪乃を、ノムルおとーさんが抱きしめて、何度も頭を撫でている。
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