『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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北国編

130.パピパラさん?

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 二人の関係を軽く考えていた雪乃は、反省した。
 視界を閉じて、薬草図鑑をめくる。しかし、眠り病のレシピは存在しなかった。
 次に雪乃は、地図を開く。
 眠り病はドューワ国にしか存在しない病だと聞いている。それならばその薬も、ドューワ国に自生している植物から作れる可能性が高いのではないかと思ったのだが、かの国で未採取の薬草はもうなかった。

「そもそも、どうしてドューワ国だけなのでしょう? 遺伝病? いえ、鎖国をしていない上に、他国への行き来も多い。それならば、他の国で発病することもあるはずです」

 雪乃は原因から考え始める。

「やはりその土地独自のもの、食、菌……パピパラさん?」

 可能性をリストアップしていくが、ドューワ国を出てしまったことが悔やまれる。
 現場にいれば、情報を仕入れることも可能だが、離れてしまっては簡単な情報さえ入手し辛い。
 せめて最初に顔を合わせた時点で相談してくれればと、口惜しく思う。しかし、過ぎたことだ。
 仕方ないと切り替えて、思考を戻す。
 一人でブツブツと呟いていた雪乃は、顔を上げる。

「眠り病は、ドューワ国の一部の地域で発症しているのでしょうか? それとも、国全体で?」

 雪乃から発せられた質問に、リリアンヌ王女は涙に濡らした顔を、何とかマーク王子の氷から離した。

「国中で報告されていますが、最も多いのはスノホワです。それからスノホワ近隣、グレーム森林付近での報告が続きます」
「……」

 しっかりと調べていたリリアンヌ王女に感心すると共に、雪乃は原因となる物体が絞られたことに、喜びよりも戸惑いを覚えた。

「もう一つ確認させてください。ブレメでの発生率は、高いですか?」
「比較的高いですが、スノホワに比べると、二割程になります」

 もしもパピパラさんが原因となる菌などを媒介していたならば、最もパピパラさんが多くいるブレメの町で、発生率が上がるはずである。
 ブレメの町がグレーム森林に隣接していることも考えれば、トップ争いに名乗りを上げても良いはずだ。
 雪乃は薬草図鑑をめくる。
 調べるべき品目は、一つ。

「おおう」

 しっかり詳細まで目を通した雪乃から、変な声がもれ出たのは許してほしい。
 思ったとおりの結果だが、気持ちは複雑である。

「何か分かったのー?」

 雪乃はゆっくりと幹を横に捻り、顔を上向ける。
 いつもどおり、マイペースに茶菓子を頬張る無精ひげのおっさん。

「原因は分かりました」
「本当ですの?!」

 リリアンヌ王女は白藍色の瞳を大きく開いた。
 まだ目尻に残る涙がキラキラと輝き、美少女ぶりが五割り増しになっていて、なんだかまぶしい。
 雪乃は手で日よけを作りそうになったが、何とか抑える。

「原因は、ランゴです」
「「「は?」」」

 気の抜けた声が、発せられた。
 リリアンヌ王女とノムルはともかく、無言を貫いていた侍女のキャシーまで声を上げていた。

「えっと、どういうこと? 俺も食べたんだけど?」

 説明を求めるノムルに、リリアンヌ王女とキャシーも、同意を示して雪乃を見つめる。

「ランゴには、安眠作用があるのです。普通に食べてもそれほど効果は無く、一度に多めに食べても、少し眠くなる程度です。ただし、人によっては毎日のように食べていると、許容量を超えた時点で薬効が一気に出て、眠り続けてしまうようです」

 一度に大量に食べても問題は無く、人によっては一生食べ続けても症状が出ないため、原因として気付かれにくかったのだろう。
 スノホワの発生件数が多いのは、名産として栽培し、多く食べられているから。次いでグレーム森林周辺が多いのは、野生種が生えているため、冒険者はもちろん、近隣の人々も採取して食べているからだろう。

「……なんということでしょう。たしかにマークはランゴが好きで、毎朝食べていました」

 裏が取れたようです。
 しかし長年に渡って名物として扱われていた食品が、実は死に至る病の原因だったとは、発表されたら大騒ぎになるだろう。
 これからドューワ国に圧し掛かる苦労を思い、雪乃は心の中で合掌した。

「しかしこれ、何でドューワにいた時に言わなかったの? 最初に会ったときに言えば、ユキノちゃんだって対応しやすかったんじゃないの?」

 雪乃が気になりつつも過ぎたこととスルーしたことを、ノムルがリリアンヌ王女に投げつけた。

「初めはそのつもりでした。けれどユキノ様のお姿を見て、思いとどまりました」

 ぽてんっと、雪乃は幹を傾げる。
 その仕草に目尻を下げたリリアンヌ王女は、ドューワ国で告げることの危険性を指摘した。

「眠り病の解決は、ドューワ国でも優先度の高い政策の一つとなっているのです。もしもユキノ様が眠り病の治療方法をご存知であった場合、ドューワ国はユキノ様を引き止めるために、様々な手段を講じるでしょう」
「「あ」」

 つまり、ドューワ国の城でこの話が出て、今の流れになっていたら、雪乃は城に拘束されてしまった可能性があるわけだ。
 さすがに一国の城となれば、素性を調べられるだろう。
 雪乃はふるふると震えた。
 下手をすれば、樹人と露見していたかもしれない。そして……と、ユキノは隣に視線を向ける。
 ドューワ国が吹っ飛んでいたかもしれない。

「お気遣い、心の底から深く感謝します」
「御礼を言われるようなことではありませんわ」

 深々と幹を曲げた雪乃に、リリアンヌ王女は優しくほほ笑む。
 彼女はきっと、ドューワ国を滅亡の危機から救ったことは気付いてないだろう。心の平穏のためには、知らない方が良いだろうが。

「それよりもユキノ様、この病を治す方法はございますでしょうか?」

 早々に原因をつかんだのだ。期待も高まったことだろう。
 リリアンヌ王女は、じっと雪乃に熱い眼差しを向ける。
 美少女に見つめられて、同じ女とはいえ、雪乃は少し紅葉する。しかし本音を言うと、少し困っている。

「一応、あるのですが」

 雪乃が歯切れも悪く言うと、期待の眼差しが一層熱を帯びた。もう発火しそうな勢いだ。燃え上がってマーク王子が解凍されかねない。
 身を引いた雪乃は、視線を彷徨わせる。

「教えてくださいませ。どのような方法であろうと、成し遂げてみせます!」

 愛する人を回復させる展望が見えた恋する乙女は、たとえ火の中でも飛び込んでいきそうな勢いだ。
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