『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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北国編

131.マークを救えるのなら

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「えっと、鏡の泉に湧く清酒に、赤ランゴの実を漬けたものを飲ませると良いそうです」

 薬草図鑑に書かれていた解毒方法を口にしたが、雪乃は鏡の泉を知らなかった。そして赤ランゴのほうも、簡単に用意できるものではない。
 そのため、実際にはどう作れば良いのか、説明できなかったのだ。
 中途半端な知識を披露してしまったことに、罪悪感が生まれる。
 しかし、リリアンヌ王女は口元に人差し指を当て、すでに材料の調達方法を考え始めていた。

「鏡の泉……。ツクヨ国にある泉の一つですね。確か真実の姿を映し出すとか」
「ひいっ! 姫様、まさかご自分で行くなどと、仰らないでくださいませ!」

 顔を真っ青にしたキャシーが、小さく悲鳴を上げて、リリアンヌ王女の腕にしがみ付いた。

「もちろん行きますわ。それでマークを救えるのなら」
「なりません! ツクヨ国は騎士達でさえ、帰ってこれなくなることも多い、危険な国ですよ?!」
「それでも行くわ」

 雪乃はノムルを見る。
 ツクヨ国は、雪乃もノムルも必要としている、マンジュ草が唯一生息する場所である。当然、今後向かう予定であった。
 騎士でも帰ってこれないほど危険な地域とは認識していなかった雪乃は、ふるふると震える。

「大丈夫だよ、ユキノちゃん。ノムルおとーさんが守ってあげるから」

 瞬間的に、雪乃の思考が停止した。お蔭でふるふるは収まった。
 真顔になって、隣に座っている人に聞いてみる。

「どうせ行くのですから、鏡の泉の清酒も取ってこれませんか?」
「うーん。どうだろうね? あの国は滞在できる日数が限られているから、取りにいける余裕があるかどうか」

 二人の会話を聞いていたキャシーは、身を乗り出してノムルに詰め寄る。その下には氷漬けのマーク王子が横たわっているわけだが、もはや机でしかないようだ。

「どうか、取ってきてくださいませ。姫様を向かわせるわけには行きません!」
「キャシー、無理を言ってはいけません。それにこれは、私とマークへの、愛の試練です」
「姫様?!」

 リリアンヌ王女とキャシーが言い争いを始めた。
 それは放っておいて、雪乃とノムルも話し合いを続ける。

「では余裕があれば、その御酒も汲んでくるということなら可能でしょうか?」
「それならまあ、良いかな」

 話がまとまったところで、

「それで構いません!」

 と、キャシーが鼻息荒く詰め寄ってきた。

「姫様、お二人が戻ってくるまでは、城でお待ちください!」
「いいえ、私も行かなければ。幼いユキノ様にお任せして、自分だけ安全な場所にいるなど、できません!」

 キャシーは必死の形相でリリアンヌ王女を止めようとしている。対するリリアンヌ王女も、折れようとしない。
 侍女も大変である。
 しかしこのままリリアンヌ王女が勝ってしまうと、雪乃とノムルとしても、困ったことになりそうだ。
 同行を申し出られてしまったら、雪乃は正体を隠し続けなければならない。さらにツクヨ国でも同行となると、こちらの目的が果たせなくなる恐れがある。
 そこで雪乃は、キャシーの援護射撃をすることにした。

「あのう、リリアンヌ王女殿下には、赤ランゴのほうをお願いしたいのですが」

 計算どおり、リリアンヌ王女とキャシーは口論を止め、雪乃に顔を向けた。

「そういえば、赤ランゴとはいったいどの様なものなのでしょう? 長くドューワ国におりましたけれど、存じ上げませんわ」

 と、リリアンヌ王女は小首を傾げる。 
 雪乃は深く息を吐き出して、気持ちを落ち着ける。

「赤ランゴは、ランゴの実に、毎日一滴ずつ血を垂らして染めて作ります」
「ひいっ?!」

 思ったとおり、キャシーは悲鳴を上げた。リリアンヌ王女も、顔から血の気が引いている。
 ノムルでさえ眉をひそめているのだから、やはり異常な製造方法なのだろう。
 ごくりと咽を鳴らしたリリアンヌは、青ざめながらも雪乃を見つめる。

「毎日、と仰いますと、一度や二度ではないということですわね?」
「正確な日数は分かりませんが、必要な量に達すると、ランゴの実が赤く変色します」

 どんな実なんだ、ランゴよ?! と、雪乃は心の中でつっこみつつ、説明した。ある意味ファンタジーな植物である。
 隣でノムルが、

「魔力量? いや、生命力か?」

 とか何とか呟いていた。

「分かりました。それでは私が、赤ランゴを作ります。幸いランゴの実は、お土産にと頂いてきましたので」

 にっこりとほほ笑むリリアンヌ王女だが、キャシーはもう、ランゴの実以上に青くなっている。

「なりません、姫様! それなら私の血を」
「いいえ。それこそなりません。マークの口に入れるです。私以外の者の血は、使えません」

 愛だ。リリアンヌ様の愛は、底知れぬ深さを持っているようだ。机にしてるけど。

「ノムルさん、必ず汲んで帰りましょうね」
「まあ、ユキノちゃんらしいけど、お人好しも程ほどにしないと駄目だよ?」

 ノムルのほうを向いた雪乃は、ぽてんと幹を傾げる。
 困ったように眉尻を下げて笑いながら、ノムルは雪乃の頭をぽんぽんと撫でた。



 リリアンヌ王女の馬車から、元の従者用の馬車に戻った雪乃は、窓の外の景色を眺めていた。
 いつの間にか、外は白く染まりつつある。窓も結露で曇っていた。ここから先は宿泊する施設はなく、馬車の中で眠ることになるらしい。
 馬上の騎士達はいつの間にか、しっかり着込んでいる。吐く息は白く、鼻や頬は冷えて赤くなっていた。
 雪乃はノムルのお蔭で、寒さを感じず快適に過ごしている。
 ふと後ろを向くと、なぜか騎士達が雪乃たちの乗る馬車に、ぴったりとくっ付いていた。二列に並んでいたはずの馬達は、なぜか押し合うようにひしめき合っている。
 雪乃に気付いた騎士は、にっこりとほほ笑んだ。

「この馬車に乗せていただいて、助かりました」

 同乗していた侍女たちが、揃って頷く。

「いつもなら、あるだけ着込んで、皆で固まって暖を取っても、凍えるような寒さだったのですが、今回は山の下よりも温かくて」

 にこにこと笑いかけながら、ノムルと雪乃に、お茶とお菓子を進める。
 どうやらノムルの魔法で、馬車全体が温められいたようだ。
 地球のような暖房設備はない上に、馬車の中で薪を燃やすわけにもいかない。衣服と互いの体温で、耐えなければならないらしい。
 王族の乗る馬車は、魔法使いによって温められるが、それも通常は複数人で交互に温めるため、従者たちの馬車にまで魔法をかける余裕はないのだ。
 今回はリリアンヌ王女の乗車する馬車と、ノムルと雪乃が乗っている馬車に、魔法が掛けられている。
 もちろん、どちらも掛けたのはノムルだが。
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