79 / 385
北国編
131.マークを救えるのなら
しおりを挟む
「えっと、鏡の泉に湧く清酒に、赤ランゴの実を漬けたものを飲ませると良いそうです」
薬草図鑑に書かれていた解毒方法を口にしたが、雪乃は鏡の泉を知らなかった。そして赤ランゴのほうも、簡単に用意できるものではない。
そのため、実際にはどう作れば良いのか、説明できなかったのだ。
中途半端な知識を披露してしまったことに、罪悪感が生まれる。
しかし、リリアンヌ王女は口元に人差し指を当て、すでに材料の調達方法を考え始めていた。
「鏡の泉……。ツクヨ国にある泉の一つですね。確か真実の姿を映し出すとか」
「ひいっ! 姫様、まさかご自分で行くなどと、仰らないでくださいませ!」
顔を真っ青にしたキャシーが、小さく悲鳴を上げて、リリアンヌ王女の腕にしがみ付いた。
「もちろん行きますわ。それでマークを救えるのなら」
「なりません! ツクヨ国は騎士達でさえ、帰ってこれなくなることも多い、危険な国ですよ?!」
「それでも行くわ」
雪乃はノムルを見る。
ツクヨ国は、雪乃もノムルも必要としている、マンジュ草が唯一生息する場所である。当然、今後向かう予定であった。
騎士でも帰ってこれないほど危険な地域とは認識していなかった雪乃は、ふるふると震える。
「大丈夫だよ、ユキノちゃん。ノムルおとーさんが守ってあげるから」
瞬間的に、雪乃の思考が停止した。お蔭でふるふるは収まった。
真顔になって、隣に座っている人に聞いてみる。
「どうせ行くのですから、鏡の泉の清酒も取ってこれませんか?」
「うーん。どうだろうね? あの国は滞在できる日数が限られているから、取りにいける余裕があるかどうか」
二人の会話を聞いていたキャシーは、身を乗り出してノムルに詰め寄る。その下には氷漬けのマーク王子が横たわっているわけだが、もはや机でしかないようだ。
「どうか、取ってきてくださいませ。姫様を向かわせるわけには行きません!」
「キャシー、無理を言ってはいけません。それにこれは、私とマークへの、愛の試練です」
「姫様?!」
リリアンヌ王女とキャシーが言い争いを始めた。
それは放っておいて、雪乃とノムルも話し合いを続ける。
「では余裕があれば、その御酒も汲んでくるということなら可能でしょうか?」
「それならまあ、良いかな」
話がまとまったところで、
「それで構いません!」
と、キャシーが鼻息荒く詰め寄ってきた。
「姫様、お二人が戻ってくるまでは、城でお待ちください!」
「いいえ、私も行かなければ。幼いユキノ様にお任せして、自分だけ安全な場所にいるなど、できません!」
キャシーは必死の形相でリリアンヌ王女を止めようとしている。対するリリアンヌ王女も、折れようとしない。
侍女も大変である。
しかしこのままリリアンヌ王女が勝ってしまうと、雪乃とノムルとしても、困ったことになりそうだ。
同行を申し出られてしまったら、雪乃は正体を隠し続けなければならない。さらにツクヨ国でも同行となると、こちらの目的が果たせなくなる恐れがある。
そこで雪乃は、キャシーの援護射撃をすることにした。
「あのう、リリアンヌ王女殿下には、赤ランゴのほうをお願いしたいのですが」
計算どおり、リリアンヌ王女とキャシーは口論を止め、雪乃に顔を向けた。
「そういえば、赤ランゴとはいったいどの様なものなのでしょう? 長くドューワ国におりましたけれど、存じ上げませんわ」
と、リリアンヌ王女は小首を傾げる。
雪乃は深く息を吐き出して、気持ちを落ち着ける。
「赤ランゴは、ランゴの実に、毎日一滴ずつ血を垂らして染めて作ります」
「ひいっ?!」
思ったとおり、キャシーは悲鳴を上げた。リリアンヌ王女も、顔から血の気が引いている。
ノムルでさえ眉をひそめているのだから、やはり異常な製造方法なのだろう。
ごくりと咽を鳴らしたリリアンヌは、青ざめながらも雪乃を見つめる。
「毎日、と仰いますと、一度や二度ではないということですわね?」
「正確な日数は分かりませんが、必要な量に達すると、ランゴの実が赤く変色します」
どんな実なんだ、ランゴよ?! と、雪乃は心の中でつっこみつつ、説明した。ある意味ファンタジーな植物である。
隣でノムルが、
「魔力量? いや、生命力か?」
とか何とか呟いていた。
「分かりました。それでは私が、赤ランゴを作ります。幸いランゴの実は、お土産にと頂いてきましたので」
にっこりとほほ笑むリリアンヌ王女だが、キャシーはもう、ランゴの実以上に青くなっている。
「なりません、姫様! それなら私の血を」
「いいえ。それこそなりません。マークの口に入れるです。私以外の者の血は、使えません」
愛だ。リリアンヌ様の愛は、底知れぬ深さを持っているようだ。机にしてるけど。
「ノムルさん、必ず汲んで帰りましょうね」
「まあ、ユキノちゃんらしいけど、お人好しも程ほどにしないと駄目だよ?」
ノムルのほうを向いた雪乃は、ぽてんと幹を傾げる。
困ったように眉尻を下げて笑いながら、ノムルは雪乃の頭をぽんぽんと撫でた。
リリアンヌ王女の馬車から、元の従者用の馬車に戻った雪乃は、窓の外の景色を眺めていた。
いつの間にか、外は白く染まりつつある。窓も結露で曇っていた。ここから先は宿泊する施設はなく、馬車の中で眠ることになるらしい。
馬上の騎士達はいつの間にか、しっかり着込んでいる。吐く息は白く、鼻や頬は冷えて赤くなっていた。
雪乃はノムルのお蔭で、寒さを感じず快適に過ごしている。
ふと後ろを向くと、なぜか騎士達が雪乃たちの乗る馬車に、ぴったりとくっ付いていた。二列に並んでいたはずの馬達は、なぜか押し合うようにひしめき合っている。
雪乃に気付いた騎士は、にっこりとほほ笑んだ。
「この馬車に乗せていただいて、助かりました」
同乗していた侍女たちが、揃って頷く。
「いつもなら、あるだけ着込んで、皆で固まって暖を取っても、凍えるような寒さだったのですが、今回は山の下よりも温かくて」
にこにこと笑いかけながら、ノムルと雪乃に、お茶とお菓子を進める。
どうやらノムルの魔法で、馬車全体が温められいたようだ。
地球のような暖房設備はない上に、馬車の中で薪を燃やすわけにもいかない。衣服と互いの体温で、耐えなければならないらしい。
王族の乗る馬車は、魔法使いによって温められるが、それも通常は複数人で交互に温めるため、従者たちの馬車にまで魔法をかける余裕はないのだ。
今回はリリアンヌ王女の乗車する馬車と、ノムルと雪乃が乗っている馬車に、魔法が掛けられている。
もちろん、どちらも掛けたのはノムルだが。
薬草図鑑に書かれていた解毒方法を口にしたが、雪乃は鏡の泉を知らなかった。そして赤ランゴのほうも、簡単に用意できるものではない。
そのため、実際にはどう作れば良いのか、説明できなかったのだ。
中途半端な知識を披露してしまったことに、罪悪感が生まれる。
しかし、リリアンヌ王女は口元に人差し指を当て、すでに材料の調達方法を考え始めていた。
「鏡の泉……。ツクヨ国にある泉の一つですね。確か真実の姿を映し出すとか」
「ひいっ! 姫様、まさかご自分で行くなどと、仰らないでくださいませ!」
顔を真っ青にしたキャシーが、小さく悲鳴を上げて、リリアンヌ王女の腕にしがみ付いた。
「もちろん行きますわ。それでマークを救えるのなら」
「なりません! ツクヨ国は騎士達でさえ、帰ってこれなくなることも多い、危険な国ですよ?!」
「それでも行くわ」
雪乃はノムルを見る。
ツクヨ国は、雪乃もノムルも必要としている、マンジュ草が唯一生息する場所である。当然、今後向かう予定であった。
騎士でも帰ってこれないほど危険な地域とは認識していなかった雪乃は、ふるふると震える。
「大丈夫だよ、ユキノちゃん。ノムルおとーさんが守ってあげるから」
瞬間的に、雪乃の思考が停止した。お蔭でふるふるは収まった。
真顔になって、隣に座っている人に聞いてみる。
「どうせ行くのですから、鏡の泉の清酒も取ってこれませんか?」
「うーん。どうだろうね? あの国は滞在できる日数が限られているから、取りにいける余裕があるかどうか」
二人の会話を聞いていたキャシーは、身を乗り出してノムルに詰め寄る。その下には氷漬けのマーク王子が横たわっているわけだが、もはや机でしかないようだ。
「どうか、取ってきてくださいませ。姫様を向かわせるわけには行きません!」
「キャシー、無理を言ってはいけません。それにこれは、私とマークへの、愛の試練です」
「姫様?!」
リリアンヌ王女とキャシーが言い争いを始めた。
それは放っておいて、雪乃とノムルも話し合いを続ける。
「では余裕があれば、その御酒も汲んでくるということなら可能でしょうか?」
「それならまあ、良いかな」
話がまとまったところで、
「それで構いません!」
と、キャシーが鼻息荒く詰め寄ってきた。
「姫様、お二人が戻ってくるまでは、城でお待ちください!」
「いいえ、私も行かなければ。幼いユキノ様にお任せして、自分だけ安全な場所にいるなど、できません!」
キャシーは必死の形相でリリアンヌ王女を止めようとしている。対するリリアンヌ王女も、折れようとしない。
侍女も大変である。
しかしこのままリリアンヌ王女が勝ってしまうと、雪乃とノムルとしても、困ったことになりそうだ。
同行を申し出られてしまったら、雪乃は正体を隠し続けなければならない。さらにツクヨ国でも同行となると、こちらの目的が果たせなくなる恐れがある。
そこで雪乃は、キャシーの援護射撃をすることにした。
「あのう、リリアンヌ王女殿下には、赤ランゴのほうをお願いしたいのですが」
計算どおり、リリアンヌ王女とキャシーは口論を止め、雪乃に顔を向けた。
「そういえば、赤ランゴとはいったいどの様なものなのでしょう? 長くドューワ国におりましたけれど、存じ上げませんわ」
と、リリアンヌ王女は小首を傾げる。
雪乃は深く息を吐き出して、気持ちを落ち着ける。
「赤ランゴは、ランゴの実に、毎日一滴ずつ血を垂らして染めて作ります」
「ひいっ?!」
思ったとおり、キャシーは悲鳴を上げた。リリアンヌ王女も、顔から血の気が引いている。
ノムルでさえ眉をひそめているのだから、やはり異常な製造方法なのだろう。
ごくりと咽を鳴らしたリリアンヌは、青ざめながらも雪乃を見つめる。
「毎日、と仰いますと、一度や二度ではないということですわね?」
「正確な日数は分かりませんが、必要な量に達すると、ランゴの実が赤く変色します」
どんな実なんだ、ランゴよ?! と、雪乃は心の中でつっこみつつ、説明した。ある意味ファンタジーな植物である。
隣でノムルが、
「魔力量? いや、生命力か?」
とか何とか呟いていた。
「分かりました。それでは私が、赤ランゴを作ります。幸いランゴの実は、お土産にと頂いてきましたので」
にっこりとほほ笑むリリアンヌ王女だが、キャシーはもう、ランゴの実以上に青くなっている。
「なりません、姫様! それなら私の血を」
「いいえ。それこそなりません。マークの口に入れるです。私以外の者の血は、使えません」
愛だ。リリアンヌ様の愛は、底知れぬ深さを持っているようだ。机にしてるけど。
「ノムルさん、必ず汲んで帰りましょうね」
「まあ、ユキノちゃんらしいけど、お人好しも程ほどにしないと駄目だよ?」
ノムルのほうを向いた雪乃は、ぽてんと幹を傾げる。
困ったように眉尻を下げて笑いながら、ノムルは雪乃の頭をぽんぽんと撫でた。
リリアンヌ王女の馬車から、元の従者用の馬車に戻った雪乃は、窓の外の景色を眺めていた。
いつの間にか、外は白く染まりつつある。窓も結露で曇っていた。ここから先は宿泊する施設はなく、馬車の中で眠ることになるらしい。
馬上の騎士達はいつの間にか、しっかり着込んでいる。吐く息は白く、鼻や頬は冷えて赤くなっていた。
雪乃はノムルのお蔭で、寒さを感じず快適に過ごしている。
ふと後ろを向くと、なぜか騎士達が雪乃たちの乗る馬車に、ぴったりとくっ付いていた。二列に並んでいたはずの馬達は、なぜか押し合うようにひしめき合っている。
雪乃に気付いた騎士は、にっこりとほほ笑んだ。
「この馬車に乗せていただいて、助かりました」
同乗していた侍女たちが、揃って頷く。
「いつもなら、あるだけ着込んで、皆で固まって暖を取っても、凍えるような寒さだったのですが、今回は山の下よりも温かくて」
にこにこと笑いかけながら、ノムルと雪乃に、お茶とお菓子を進める。
どうやらノムルの魔法で、馬車全体が温められいたようだ。
地球のような暖房設備はない上に、馬車の中で薪を燃やすわけにもいかない。衣服と互いの体温で、耐えなければならないらしい。
王族の乗る馬車は、魔法使いによって温められるが、それも通常は複数人で交互に温めるため、従者たちの馬車にまで魔法をかける余裕はないのだ。
今回はリリアンヌ王女の乗車する馬車と、ノムルと雪乃が乗っている馬車に、魔法が掛けられている。
もちろん、どちらも掛けたのはノムルだが。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる