『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ラジン国編

183.まさかこんな結果に

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「いやいや、何でそう思えるのさ?! ばればれだったよ?」
「なんとっ?!」

 本気で驚いている雪乃に、ノムルもディランも苦笑するよりない。
 がく然として落ち込む雪乃を慰めながら、ノムルはディランを睨む。ディランもまた、目で言葉を返す。

『どうしてくれるんだよ? この状況』
『いえ、まさかこんな結果になるとは』
『うちのユキノちゃんが落ち込んでるだろ?!』
『いえいえ、まだノムル様の子供ではありません』
『俺の子だって言ってるだろう?』
『お考え直しください!』

 困惑にうろたえるような視線が、どんどん白熱していった。ついには火花や吹雪が飛び交う。

「だから、何が気に入らないんだっての?!」
「ですから、まずはその子供の正体を教えてください。人間でもない者が、ノムル様の養子になるなど、魔法使いたちが暴動を起こしかねません」
「人間でも認めてなかっただろう?!」

 やはり目だけでは収まらなかったようで、口げんかに発展した。

「だったら全員で掛かって来い! 俺が勝ったら認めろ!」
「そんなことをしたら、世界が滅びます! 御自身のお力を御自覚ください!」

 言い争いは平行線のまま、どこまでも続くようだ。というより、

「世界の危機?」

 聞き捨てならない台詞に、雪乃も復活を余儀なくされた。

「ま、待ってください、ノムルさん! 暴走は駄目です!」
「おとーさん……」
「……。落ち着いてください、おとーさん」

 充分に余裕はあったようだ。
 こほんと咳払いをして、雪乃はディランに向き合う。ノムルに任していたら、世界が滅んでしまう。

「まず、私が人間ではないと思った、理由をお聞かせください。ついでに、人間でないなら何だと思っていらっしゃるのかも」

 姿勢を正した雪乃に対するように、ディランも座り直す。

「人間ではないと気付いたのは、昨日、君が飛び蹴りしてきたからだ。あれは人間の足ではなかった。おそらく、一般的な動物でもない」
「「……」」

 雪乃もノムルも返答につまる。誤魔化しようがない。

「作戦タイムを要求します!」

 右手を上げて、雪乃はディランに訴える。
 呆れ眼のディランだが、「どうぞ」とばかりに片手を差し出した。その目はどこか達観してしまっているようにさえ見える。
 ソファから下りて部屋の隅に移動した雪乃とノムルは、防音魔法で盗み聞きを防いでから、ひそひそと作戦会議を始める。

「正体を明かしても大丈夫なのでしょうか?」
「いや、危険だと思うよ? 俺は絶対に反対」

 雪乃とノムルは首だけ回し、背中越しにディランの様子を窺う。胡乱な目で見られた。

「ディランさんは、ノムルさんを妄信しているように思います」
「それは否定しないねー」
「つまり、ノムルさんの功績だと思わせれば、話し合いも上手くいくのでは?」
「ん? 俺がユキノちゃんを見つけたってこと? それは今の状況と変わらないんじゃない? というか、魔法ギルドに取られかねないから……」

 想像してしまったようで、ノムルが雪乃にしがみ付いてきた。
 雪乃は枝を突っ張り、無精ひげを遠ざける。

「そうではなく、私の正体を……」

 ということで、作戦会議は終了した。
 ソファに戻ってきたノムルと雪乃を、ディランは冷めた眼差しで迎える。
 ごほんっとわざとらしく咳払いをしたノムルは、じいっとディランを見据えた。

「ユキノちゃんの正体を明かす代わりに、条件がある」
「なんでしょう?」

 ディランは冷静に答える。

「一つ、決して他言しないこと。魔法ギルドの人間にもだ」

 ぴくりと、ディランの眉が跳ねた。
 口元を手で覆い、眼球をさ迷わせてしきりに考え込む。

「魔法ギルド内でも? いやしかし、ノムル様の秘密を俺だけが知っている?!」

 ぶつぶつと呟いているが、丸聞こえである。しかめっ面になったり、にやけたり、表情筋が忙しそうだ。
 その様子を観察していたノムルと雪乃の顔も、悪役っぽく緩む。

「二つ、俺とユキノちゃんの養子縁組を成立させること」
「それは……っ! 正体が分かったところで、賛成できるとは限りません。それに、俺だけの一存では」
「今、邪魔しているのはお前だろう? 下っ端がお前に逆らえるわけない」
「そ、それは……」

 ディランの目が泳いで逃げ出そうとしているが、逃げ場はない。

「それにさあ、俺は何度も言ったよね? ユキノちゃんと『名実共に』親子になりたいって」

 ノムルの言い回しに、ディランは怪訝な顔を向ける。

「書類のほうは『名』だろう?」
「っ?!」

 衝撃にディランの目が見開き、ノムルと雪乃を交互に映した。

「お待ちください。それはつまり、ユキノ様はノムル様の実のお子であると?」
「ああ」
「ではお相手はどなたなのですか?!」

 血走った目を剥き出して、ディランは机に手を突いて詰め寄る。
 ノムルは焦ることなく、ゆっくりと間を取る。ティーカップを持ち上げて、お茶を一口すすってから、視線をディランに戻した。

「相手はいない」
「はっ?!」

 訳が分からないと、ディランの顔が叫んでいる。

「ユキノちゃんは俺が作り出した、ゴーレムだ。つまり、ユキノちゃんは本当に、俺だけの娘ってことだ」

 静かに成り行きを見守っていた雪乃だが、おもむろにノムルを見上げた。『だけ』に力を込めすぎである。
 視線に気付いたノムルが、へらりと笑う。
 雪乃はすぐに視線を逸らした。ノムルが捨てられた子犬のような顔をしているが、気にしたら負けだ。

「まさか、ゴーレムとは。これほど精巧なものを造るとは、さすがです、ノムル様!」

 目をきらきら輝かせて、ディランは賛辞を述べる。
 しかしすぐに首を傾げた。

「ですがそれならば、隠すことはないのでは? 魔法ギルドの者達は、ノムル様の偉業を称え、沸き立ちましょう」

 ディランはとろんと蕩けるような、熱い眼差しをノムルに向ける。
 予想以上の好反応に、雪乃は正直どん引いた。

「おかしいです。これはやはり、怪しい宗教? 教祖様? ……まさかの男色?!」
「ユキノちゃん、その考えは全部取り消してね? 特に最後のやつ」
「え?」

 ぽてんと幹を傾げる雪乃を、ノムルは珍しく白い目で見つめる。

「お前のせいで、ユキノちゃんに変な誤解をされかけたじゃないかああっ!」

 突然、怒りだし、ノムルはディランを吹き飛ばした。
 吹き飛ばされても、ディランは笑顔だ。

「まぞ?」
「……そんな言葉、どこで憶えたのさ?」

 ノムルはしくしくと言いながら、両手で顔を覆う。
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