『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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コダイ国編

184.流れに身を任せるのも

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「いいからユキノちゃんと俺の養子縁組を、さっさと整えろ! というか、書類を操作して、実子として登録しろ」

 なにやら要求が悪化しているようだ。

「はい! 承知いたしました、ノムル様!」

 承知されたようだ。
 いまいち魔法ギルドの内情についていけない雪乃だが、一件落着したようなので、とりあえず一息つく。
 ぴー助は丸まってよく眠っていた。
 驚くことに、昼過ぎには書類一式を整えたディランが、ノムルの部屋を訪れた。
 ディランの権力に驚くべきか、どれだけ邪魔をしていたのかとツッコミを入れるべきかと雪乃は逡巡したが、

「ユキノちゃん、これで本当のおとーさんだよ? 嬉しい?」
「……」

 べたべたとくっ付いてくる魔法使いを枝で押しやりながら、雪乃はディランをそのままにしておいたほうが良かったのでは? と、自分の言動を省みたのだった。

「流れに身を任せるのも、良し悪しですね」
「何か言ったー?」
「お気になさらず」

 雪乃は根も突っ張って、擦り寄る魔法使いの無精ひげから必死に体を離す。

「ふんぬー! 負けません!」




「ノムル様、本当にもう行ってしまわれるのですか?」

 涙を浮かべた魔法使いの集団が、ロビーを埋め尽くしていた。
 どこにいたのかというほどの人数だが、それよりも天井や奥の廊下で、うねったり走り回ったりしている魔植物に、雪乃は視線を向けてしまう。
 魔法ギルドに来たときは、静かで清潔感あふれる病院のような場所だという印象だったが、今では得体の知れない内装になっていた。
 異世界から来た雪乃には、このほうが魔法ギルドっぽいと感じるが、職場にしている人はこれで良かったのだろうかと、少し罪悪感が無くもない。

 漬け込み期間を終えた樽を回収したノムルと雪乃は、早々に魔法ギルドを発ち、薬を必要とするノムルの知人の元に向かう。
 予定通り一樽は土の中に残し、更に熟成させている。

「やることは終わったからねー。あ、データはちゃんと取って送ってねー」
「「「はいっ!」」」

 一斉に勢い良く返事をする魔法使い達に見送られて、雪乃とノムルは転送装置が設置された小部屋に入る。

「さてと、コダイ国国境」

 宣言と同時にノムルの杖が床を突く。描かれていた魔法陣が輝きを放ち、雪乃たちは光に包まれた。
 光が収束しても、部屋の景色は変わらない。転送装置が設置された空間は、どこも真っ白な壁に覆われているようだ。
 一つだけある扉を開けて、外へと出る。そこに魔法ギルドのロビーはなく、青空の広がる外の世界へと繋がっていた。

 車代わりの絨毯が飛び、国境には薄く輝く結界が見える。
 雪乃とノムルは、ラジン国の西方に位置するコダイ国へと入った。
 国境の町は賑やかで、道の両端に露店が並んでいる。
 シートを広げた上に魔法石や鉱物が並んでいたり、それを使った魔法道具を販売している店もあった。もちろん、食べ物を扱う露店もある。

「賑やかですね」

 雪乃はきょろきょろと見ながら歩く。
 ラジン国に入国する前の町も、魔法関係の店が多かった。
 しかしそこでは、きちんとした店舗で販売されていたので、他の街とあまり変わらないように見えた。
 これでノムルとお別れかと思い込んでいたこともあってか、受け取る印象が違う。

「ラジン国は、非魔法使いは差別対象だからねえ。でも魔法道具を欲しがる非魔法使いは多い。そういうやつらは、国境の町で購入するのさ。特にこのコダイ国は、魔法石の原料となる魔石や鉱石が多く産出される。だからラジン国側から買いに出てくる魔法使いもいて、無駄に栄えている」
「なるほど」

 頷いた雪乃は、露店で販売されている魔石を見る。紫や赤、マーブル模様や金属質なものなど、様々だ。

「ちなみに国境近くで販売されている物は、大抵ぼったくり価格だから、気を付けてねー」
「……」

 オレンジ色のサンストーンに似た石に枝を伸ばそうとした雪乃は、固まった。そうっと、枝を引っ込める。
 店主や他の客も、なんとも言えぬ空気で固まっていた。

「おい、ケチ付ける気か?」

 正気に戻った店主が、ノムルを睨みつける。

「いいや? 運送費とか、ここなら売れ易いことを考えれば、当然のことだろう? 安く買いたければ、別の所に行けばいい。俺たちはこれからコダイ国を横断する予定だから、ここで下手に買わないように、うちの娘に教えてただけだよー?」

 と、ノムルはへらりと笑う。

「そう、俺の娘。可愛いでしょー? 俺の娘なんだよー?」

 自分の言葉にはっとして改めて口にしたノムルは、軟体動物か、新手の魔物と化した。
 その様子を見て、店主は怒りを放り捨てた。

「こんなに小さいのに、魔法も使えるんだよー? おとーさんとお揃いのローブを着たがるしさー。うちの娘ってばさー」
「はいはーい、置いていきますよー?」

 いくつか虚言が混じっていたが、一々気にしていては限が無いと、雪乃は店を離れていく。

「ちょっとユキノちゃん?! おとーさんはユキノちゃんの可愛さをきちんと説明しようと」
「不要です。いい迷惑です。商売の邪魔をしてはいけません」
「ええー?」

 去って行く魔法使いの親子を呆然と見送ると、店主と客たちはぎこちなく動き始めた。

「どこかで双子石を買おうねー」
「なんですか? それは」

 へらへら笑っているノムルに、雪乃はぽてんと幹を傾げる。
 ノムルの顔やら声やらがおかしくなっていることは、気にしてはいけない。養子縁組が成立してから、ノムルの頭のねじが数本、どこかへ飛んでいったらしい。

「双子石に魔力を込めて指輪を作るとね、家族になれるんだよー?」
「……」

 それは結婚指輪ではなかろうかと、雪乃はどん引いた。

「却下します」
「ええー? 何でー?」
「色々と、勘違いしている気がします」
「ええー?」

 ノムルは不満そうだが、雪乃にも受け入れられるものと、受け入れられないものがあるのだ。
 馬車乗り場に向かっていく二人の耳に、色々なものが倒れる、中々賑やかな音が届く。

「このガキが。主人の命令が聞けないっていうのか?!」

 耳に入ったがなり声に、雪乃は幹を回す。
 髭面のガタイの良い男が視界に入った。日に焼けた色黒の肌は、服の上からも筋肉質でムキムキだと分かる。
 人込みの隙間から男の足元が見えると、雪乃は視線を厳しくした。
 男の足元には、雪乃よりも少し大きい程度の、少女が蹲っている。その細く小さな背中に、男の大きな足が乗っていた。
 考えるより先に、雪乃の体が動く。
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