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コダイ国編
195.子供を愛せない人間は
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ノムルは困ったように苦笑を浮かべた。
「俺、そこまで無責任じゃないよ?」
幹を捻って視線を外した雪乃は、考える。
子供が出来れば、誰でも親になれるわけではない。子供を愛せない親は存在する。
では子供を愛せない人間は、罪か? 答えは否ではないだろうか。
子供を愛せずに、子供を傷つけ続けるならば、罪だろう。
だが自分が子供を愛せぬと気付いて、子供をつくらぬという決断をしたノムルは、どうだろう。
「たしかに、ノムルさんは悪くありませんね」
雪乃はそう結論付けた。
愛せないならば、傷つけない方法を選べば良い。その答えの一つとして、子供をつくらないという方法は有りだろう。
ノムルがそこまで考えているのかは疑問だが。
「分かってくれたかい? おとーさんが愛しているのは、ユキノちゃんだけだよー?」
やはり考えていないのかもしれない。
抱きついてきたノムルのあごを、雪乃は枝を突っ張って防いだ。
「まー、そんなわけだから、他を当たってよ。事前に説明すれば、協力してくれる人間もいるんじゃないの?」
雪乃は釈然としないが、話はまとまっていく。
「大人の世界は、私には難しいかもしれません」
「大丈夫だよ? ユキノちゃんはずっと、おとーさんの娘でいれば良いんだからねー。嫁になんてやらん!」
くわっと目を見開くノムルの膝の上で、雪乃はがくりと肩を落とした。
どんな状況だろうと、彼の思考は親ばかに帰結するようだ。
「で、では、せめてあの竜種を、残していってくださいませんでしょうか?」
何とかノムルを諦めた蟻人たちだったが、今度はぴー助を要求してきた。
雪乃はぎんっとノムルを睨む。先に言っておかなければ、切り捨てられかねない。
「ぴー助を見捨てるなら、親子の縁を切ります」
「ええ? おとーさんよりピースケが大事なの?!」
不満気なノムルだが、雪乃は譲らない。
「絶対に連れて行きます」
「えー? 置いていけば良いのにー」
冗談ではなく、本気で置いていこうとしているノムルに、雪乃はふるふると肩を振るわせる。
そして、
「ノムルさんっ!」
と、叫ぶと同時に、爆発音と共に砂煙が舞った。
雪乃はきょとんと視界を丸くする。自分の魔力がノムルのように暴走したのかと、わたわたと辺りを見回した。
そんな雪乃の耳に、いつもより低いノムルの声が届く。
「へえ? 大した魔力だねー」
口端を上げて笑みを作るノムルだが、その目は鋭く獲物を捕えている。
とっさにノムルは障壁を作り出し、雪乃を守った。その障壁に、今までに感じたことのない衝撃が走ったのだ。
かなりの手練のようだと警戒を強める。
「人間の分際で、俺の攻撃を受け止めるとは!」
まだ若い少年の声が、障壁の向こうから届いた。
雪乃は瞬いて、声の主を探す。
ノムル以外にも、人の家を平気で壊す人間がいるとは思っていなかった。この世界では、こういう暴挙は珍しくはないのだろうか? と、どこかずれたことを考えていた。
「これは保険屋さんは大赤字になりそうです」
「ホケンヤ? なんのこと?」
雪乃の感想に戸惑いながらも、ノムルは杖を通して障壁に魔力を加える。
竜種でさえ傷付けられない障壁に、わずかとはいえ亀裂が生じていた。驚きはしたが、ノムルにとっては本気には程遠い魔法である。
警戒はするが、恐れる必要はない。
砂塵が舞う中、敵は攻撃を繰り返している。殴る蹴るに加えて、魔法での攻撃。痛くも痒くもないが、鬱陶しいとノムルに苛立ちが募る。
「……上、すぐに、……します」
障壁に攻撃を続ける敵は、何か言っている。打撃の衝撃音でほとんど聞き取れないが。
聞き取ろうと、雪乃は聴覚に集中する。
「母上、ご無事ですか?!」
打撃の合間に、ようやく聞き取れた。
「「ん?」」
雪乃とノムルは、顔を見合わせる。
「「ははうえ?」」
確かに、敵はそう言っている。
蟻人の子供が攻撃してきたのかとも考えたが、明らかに雪乃たちに向けて発した言葉だ。
しかしノムルは男である。父にはなれても母にはなれない。
そして雪乃は、生まれてまだ一年ほどの幼木である。とうぜん、子供などいない。
「「んん?」」
二人は首を傾げ、砂塵の向こうに目を凝らす。
「ノムルさん」
「おとーさん」
「……。おとーさん」
「なーにー?」
「とりあえず、この砂煙をどけていただいても?」
「そだねー」
ノムルが杖を指先で弾けば、風が砂塵を吹き飛ばした。
そして現れたのは、褐色の肌と緋色の瞳が印象的な少年だった。障壁に攻撃を続けながらも、緋色の瞳は雪乃をひたと見つめている。
白銀の髪は後ろ髪だけ長く、少年の激しい動きに合わせて舞い続けていた。
「母上、すぐにお助けします」
その表情は真剣そのものだ。だからこそ、雪乃とノムルは対応に困った。
「ノムルさん」
「おとーさん」
「……。おとーさん、彼について説明していただいても?」
「俺もよく分からないけど、まあ、ダークエルフだねえ」
何度かエルフと間違われているユキノだが、エルフにはまだ出会っていない。ダークエルフも、もちろん初めて見る。
「ノムルさんが何かしたわけでは?」
「え? 酷い! 濡れ衣だよ? おとーさんはダークエルフと関わったことはないよ? たぶん」
幹を捻って後ろを向いた雪乃は、ノムルを冷めた目で見つめる。
最後の一言で、嫌疑は強まった。
「あのー」
雪乃は思い切って、少年に声をかけてみた。
「――っ?! 母上!」
少年は泣き出しそうな表情になり、歯を食いしばるとさらに攻撃を強めた。
「なぜ攻撃しているのでしょうか?」
問いかけると、少年はノムルを睨みつける。
「その男から、母上をお救いするためです!」
迷いなく、少年は答えた。
雪乃はノムルを見上げる。その目には、疑いと蔑みの色が込められていた。
「俺は何もしてないって。おい、ガキ! 何濡れ衣被せてくれてんだ?!」
「事実だ! 母上を解放しろ!」
ノムルの言葉に、少年は即答する。
雪乃の視線はますます厳しくなった。
「ノムルさん、最低です」
「違う、無実だ!」
身を引いて離れようとする雪乃に、ノムルは言い募る。
しかし雪乃はもう、信じようともしない。
「おいっ! 俺を嵌めようとしているお前の母親って、どんなやつだ?!」
目を怒らせ、ノムルは少年をにらみつけた。
「俺、そこまで無責任じゃないよ?」
幹を捻って視線を外した雪乃は、考える。
子供が出来れば、誰でも親になれるわけではない。子供を愛せない親は存在する。
では子供を愛せない人間は、罪か? 答えは否ではないだろうか。
子供を愛せずに、子供を傷つけ続けるならば、罪だろう。
だが自分が子供を愛せぬと気付いて、子供をつくらぬという決断をしたノムルは、どうだろう。
「たしかに、ノムルさんは悪くありませんね」
雪乃はそう結論付けた。
愛せないならば、傷つけない方法を選べば良い。その答えの一つとして、子供をつくらないという方法は有りだろう。
ノムルがそこまで考えているのかは疑問だが。
「分かってくれたかい? おとーさんが愛しているのは、ユキノちゃんだけだよー?」
やはり考えていないのかもしれない。
抱きついてきたノムルのあごを、雪乃は枝を突っ張って防いだ。
「まー、そんなわけだから、他を当たってよ。事前に説明すれば、協力してくれる人間もいるんじゃないの?」
雪乃は釈然としないが、話はまとまっていく。
「大人の世界は、私には難しいかもしれません」
「大丈夫だよ? ユキノちゃんはずっと、おとーさんの娘でいれば良いんだからねー。嫁になんてやらん!」
くわっと目を見開くノムルの膝の上で、雪乃はがくりと肩を落とした。
どんな状況だろうと、彼の思考は親ばかに帰結するようだ。
「で、では、せめてあの竜種を、残していってくださいませんでしょうか?」
何とかノムルを諦めた蟻人たちだったが、今度はぴー助を要求してきた。
雪乃はぎんっとノムルを睨む。先に言っておかなければ、切り捨てられかねない。
「ぴー助を見捨てるなら、親子の縁を切ります」
「ええ? おとーさんよりピースケが大事なの?!」
不満気なノムルだが、雪乃は譲らない。
「絶対に連れて行きます」
「えー? 置いていけば良いのにー」
冗談ではなく、本気で置いていこうとしているノムルに、雪乃はふるふると肩を振るわせる。
そして、
「ノムルさんっ!」
と、叫ぶと同時に、爆発音と共に砂煙が舞った。
雪乃はきょとんと視界を丸くする。自分の魔力がノムルのように暴走したのかと、わたわたと辺りを見回した。
そんな雪乃の耳に、いつもより低いノムルの声が届く。
「へえ? 大した魔力だねー」
口端を上げて笑みを作るノムルだが、その目は鋭く獲物を捕えている。
とっさにノムルは障壁を作り出し、雪乃を守った。その障壁に、今までに感じたことのない衝撃が走ったのだ。
かなりの手練のようだと警戒を強める。
「人間の分際で、俺の攻撃を受け止めるとは!」
まだ若い少年の声が、障壁の向こうから届いた。
雪乃は瞬いて、声の主を探す。
ノムル以外にも、人の家を平気で壊す人間がいるとは思っていなかった。この世界では、こういう暴挙は珍しくはないのだろうか? と、どこかずれたことを考えていた。
「これは保険屋さんは大赤字になりそうです」
「ホケンヤ? なんのこと?」
雪乃の感想に戸惑いながらも、ノムルは杖を通して障壁に魔力を加える。
竜種でさえ傷付けられない障壁に、わずかとはいえ亀裂が生じていた。驚きはしたが、ノムルにとっては本気には程遠い魔法である。
警戒はするが、恐れる必要はない。
砂塵が舞う中、敵は攻撃を繰り返している。殴る蹴るに加えて、魔法での攻撃。痛くも痒くもないが、鬱陶しいとノムルに苛立ちが募る。
「……上、すぐに、……します」
障壁に攻撃を続ける敵は、何か言っている。打撃の衝撃音でほとんど聞き取れないが。
聞き取ろうと、雪乃は聴覚に集中する。
「母上、ご無事ですか?!」
打撃の合間に、ようやく聞き取れた。
「「ん?」」
雪乃とノムルは、顔を見合わせる。
「「ははうえ?」」
確かに、敵はそう言っている。
蟻人の子供が攻撃してきたのかとも考えたが、明らかに雪乃たちに向けて発した言葉だ。
しかしノムルは男である。父にはなれても母にはなれない。
そして雪乃は、生まれてまだ一年ほどの幼木である。とうぜん、子供などいない。
「「んん?」」
二人は首を傾げ、砂塵の向こうに目を凝らす。
「ノムルさん」
「おとーさん」
「……。おとーさん」
「なーにー?」
「とりあえず、この砂煙をどけていただいても?」
「そだねー」
ノムルが杖を指先で弾けば、風が砂塵を吹き飛ばした。
そして現れたのは、褐色の肌と緋色の瞳が印象的な少年だった。障壁に攻撃を続けながらも、緋色の瞳は雪乃をひたと見つめている。
白銀の髪は後ろ髪だけ長く、少年の激しい動きに合わせて舞い続けていた。
「母上、すぐにお助けします」
その表情は真剣そのものだ。だからこそ、雪乃とノムルは対応に困った。
「ノムルさん」
「おとーさん」
「……。おとーさん、彼について説明していただいても?」
「俺もよく分からないけど、まあ、ダークエルフだねえ」
何度かエルフと間違われているユキノだが、エルフにはまだ出会っていない。ダークエルフも、もちろん初めて見る。
「ノムルさんが何かしたわけでは?」
「え? 酷い! 濡れ衣だよ? おとーさんはダークエルフと関わったことはないよ? たぶん」
幹を捻って後ろを向いた雪乃は、ノムルを冷めた目で見つめる。
最後の一言で、嫌疑は強まった。
「あのー」
雪乃は思い切って、少年に声をかけてみた。
「――っ?! 母上!」
少年は泣き出しそうな表情になり、歯を食いしばるとさらに攻撃を強めた。
「なぜ攻撃しているのでしょうか?」
問いかけると、少年はノムルを睨みつける。
「その男から、母上をお救いするためです!」
迷いなく、少年は答えた。
雪乃はノムルを見上げる。その目には、疑いと蔑みの色が込められていた。
「俺は何もしてないって。おい、ガキ! 何濡れ衣被せてくれてんだ?!」
「事実だ! 母上を解放しろ!」
ノムルの言葉に、少年は即答する。
雪乃の視線はますます厳しくなった。
「ノムルさん、最低です」
「違う、無実だ!」
身を引いて離れようとする雪乃に、ノムルは言い募る。
しかし雪乃はもう、信じようともしない。
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