『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
161 / 385
ゴリン国編

213.男に襲われてたんだもん

しおりを挟む
 冒険者ギルドの本部には、腕利きの冒険者が揃っている。それも一人や二人ではない。
 討伐すべき相手である魔物――樹人が現れれば、即刻、討伐対象となるだろう。
 カイやノムルが庇えば、それだけ冒険者側の戦力も増える。
 雪乃を護りきったとしても、大きな騒動になってしまう。そうなれば雪乃の存在が、公になりかねない。
 指摘されてノムルもようやく我に返ったようだ。魔王を追い払い、唇を尖らしている。

「だってー、ユキノちゃんが男に襲われてたんだもん」

 その代わり身の早さに、雪乃は額を抑えた。
 いつの間にか日も暮れて、根も伸びてきている。

「とにかく、今夜は雪乃を静かに眠らせてあげてほしい。話は明日聞こう」
「今夜だ!」
「……。分かった」

 カイの妥協により、話はまとまった。
 雪乃はようやく寝床にありつき、根を張ったのだった。

「くうっ! 絶対に嫁にはやらんからな!」

 根を張った雪乃の脇で、カイとノムルは向かい合って腰を下ろす。

「あー、いたいた。ノムルさんも喧嘩が終わったんですね」

 正気に戻ったムダイも駆けつけたようだ。

「なんでお前まで来るんだ?!」
「いいじゃないですか。あ、これが雪乃ちゃんですか? 本当に樹人なんですね。根も張ってるや」
「ええい! 娘の裸を見るんじゃない!」
「ちょっ! 目、目、目がああアーっ?!」

 ノムルとムダイの諍いを横目に、カイは大きく息を吐き出す。
 耳を立て、鼻を動かし、周囲の様子を警戒した。幸いにもこちらの姿が見える範囲に、人はいないようだ。
 これだけ騒いでいるのに妙だと思ったが、すぐにその考えを打ち消した。

 最強にして最凶の魔法使い、動く災厄と恐れられる、ノムル・クラウ。更には最強の冒険者と呼ばれる、竜殺しのムダイ。
 この二人が揃っているのだ。いくら命知らずの冒険者といえども、無闇に近付いてくることはできないだろう。
 自分との格の違いを見せつけられるようで、カイは我知らず、拳を握り締めていた。

 そして翌朝、目が覚めた雪乃は、根元の光景にしばし言葉を失った。
 酔っ払って眠っている男が三人。

「何がどうしてこうなったのでしょう?」

 小さな樹人は昇りはじめたお日様に向かって、ぽつりと呟いたのだった。

 幸いというべきか、雪乃のローブは、ノムルの空間魔法には収容されていなかった。
 雪乃は根を引っこ抜くと、ローブを身にまとう。
 今日も昨日に引き続き、にゃんこ雪乃だ。

「雪乃、起きたのか。おはよう」

 音を立てないように気をつけたのだが、どうしても葉っぱがかさかさ鳴ってしまった。
 優れた聴覚を持つ獣人のカイは、その音で目が覚めてしまったようだ。

「おはようございます。すみません、起こしてしまいましたね」

 申し訳なさそうに言うと、カイは優しく微笑んで、雪乃の頭をぽんぽんと軽く叩く。

「いや、飲みすぎて寝過ごすところだったから、助かった」

 そう言うと、まだイビキをかいて眠っている二人の男を見る。

「一晩襲われなかったのだから、放っておいても大丈夫だろう」
「そうですね」

 二人は手をつないで、冒険者ギルドの建物へと向かった。
 森を抜けて建物の中に辿り着く頃には、すでにギルドの職員達が、仕事を始めようとしていた。
 住み込みの者もいるため、二十四時間体勢ではあるのだが、それでも夜間は緊急時しか対応していない。
 カイは受付に向かい、ナルツからの手紙が届いていないか確認する。

「カイさんとユキノさん宛には届いていないですね。ムダイさん宛てのものは、本人でなくてはお答えできません」

 雪乃とカイは、顔を見合わせた。ムダイを起こしてこなければならなかったようだ。
 森へ戻ろうかと話していると、ララクールがやってきた。

「おはようございます、ララクールさん」
「おはよう、手紙は届いただろうか?」

 不安そうに揺れるララクールの瞳の下には、隈ができていた。気になって眠れなかったようだ。
 呑気に眠っていたことに、雪乃とカイは軽い罪悪感を覚える。
 しかし後悔しても仕方がない。
 雪乃は事情を説明し、これからムダイを呼びに行こうと考えていたと伝えた。
 あごに軽く握った手の指を添えて、考えるようにしていたララクールは、雪乃とカイの脇を抜け、受付の前に進み出る。

「すみません、ララクール・ガードナー宛に、手紙は来ていないでしょうか?」

 職員は手元で何かを操作した後、席を立った。しばらくして、一通の便箋を持って戻ってきた。

「認定証はありますか?」
「いえ、ぼくは冒険者ではないので。代わりにこちらを」

 いくつかやり取りをした後、ララクールは便箋を受け取った。鳥の形に折られた便箋を、ララクールは急いで開き、中を確認する。
 その直後、

「ああ」

 と、吐息と共に、ララクールはその場に膝を突いた。
 すぐにカイが彼女の体を支えたが、ララクールは便箋を胸に抱きしめ、立ち上がろうとしない。

「ナルツ先輩です。間違いありません。ぼくのことも憶えていてくださいました。ローズマリナ様のことは、今も愛していると」

 双眸から涙がこぼれ落ちる。
 ひとしきり泣いた後、ララクールは顔を上げて立ち上がった。

「すぐにローズマリナ様にお伝えしなければ。どれほど心配なさっておられたか」

 便箋を握り締め、ララクールは駆け出した。
 カイの視線が雪乃へと向かう。その視線は、「追いかけるか?」と聞いていた。
 雪乃は逡巡すると、幹を左右に振る。

「きっと、お二人にしか分からない気持ちであふれていると思います。私たちはムダイさんを起こして、後から行きましょう」

 と、雪乃はカイに笑みを返した。
 カイも納得したように、ユキノの頭をなでる。

「だったら、ムダイ殿を起こしてくるか」
「そうですね」

 雪乃を抱き上げたカイは、森へと駆け出したのだった。


「へー。つまり、あの女の元彼は、あの騎士崩れであってたのか。初めからそう言えばいいのに」

 それがはっきりしないから、それぞれに悩んでいたのだが、ノムルにはそんな事情はどうでも良いようだ。

「じゃあ今日は、僕宛の手紙も受け取って、そのローズマリナ様のところで話をするんだね? 楽しみだな。女神様のような令嬢に会えるなんて」

 鼻の下を伸ばすムダイに呆れながら、カイは肉を頬張る。
 そう、肉を頬張っていた。
 雪乃とカイが、ノムルとムダイの元に戻ると、焚き火で大きな肉が焼かれていたのだ。朝からがっつり肉食の、男達であった。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...