『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ゴリン国編

217.三十人前を完食

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 雪乃は胸を撫で下ろし、魔植物の有効性に表情を緩めた。だがしかし、

「こっちはアズの仁(消化促進)。摂取後に食事をさせたところ、三十人前を完食。んで、アマアマの葉は舐めると吐きかけた、ゲロ甘。……薬効について書いてないな、書き直させよう。シンガの根(冷え症改善)は摂取後、氷魔法の中に三日間浸けても問題なし」

 効能がアップしすぎた薬草もあったようだ。
 一同、微妙な眼差しを、決して誰とも合わせない。
 凄い効果が出ていることは分かるのだが、薬は薬でも違う薬になっている気がする。

「とりあえず、本来の薬を試してくれるか?」
「そうですね」
「えー? せっかく作ったのにー」

 ノムルが不満を漏らしているが、ドインと雪乃は粛々と動き出す。
 執事ヒツジーにお願いして、銀の樽からデンゴラコン漬けを二枚、取り出してもらう。それからノムルの空間魔法から、マンジュ草も取り出す。
 ナイオネルの目がギンギンと輝いているが、誰も気付かない。

「まず、マンジュ草の根をすりおろしてください。毒性がありますので、決して口に入れないよう、すりおろしたあとは手も器具も、綺麗に洗ってください。排水にも気をつけてくださいね」
「分かりました」

 すりおろしたマンジュ草の根をデンゴラコン漬けに塗り、ドインの足裏を包むように湿布する。

「これを乾かないように、目安としては二時間ごとに交換してください」

 雪乃の説明に、ドインは顔を渋く歪めた。

「そんなに頻繁に交換するなんて無理だ。マンジュ草の根は毎回すりおろさなければならないんだろう? ほとんど休みなしで看病させることになる」

 その通りだと、雪乃は内心で頷く。
 治療法が表示された時に、雪乃もこの部分で顔をしかめたのだ。
 軽度の患者ならば自分で行えるかもしれないが、重度の患者は自らこの治療は行えない。
 自分の時間を犠牲にしても治療を手伝ってくれる、誰かが必要になる。

「問題ございません。私が責任を持って取り替えさせていただきます」

 執事ヒツジーは、当然のように応じる。しかしドインの顔は眉間にしわが刻まれたままだった。

「俺はお前をこんなことに縛るつもりはない。数日ならともかく」

 と、ドインは何かに気付いたように、はっと動きを止め、雪乃に向き直った。

「これは治るまでにどのくらいかかるんだ?」

 問われて雪乃は薬草図鑑をめくってみる。だが完治までの時間など書いていない。

「分かりません」

 しょぼんっと萎れた雪乃をなぐさめるように、カイが雪乃の頭をぽんぽんと撫でた。

「ユキノちゃんに当たるなよ!」

 ノムルも参戦して、雪乃を抱きしめようとする。雪乃は必死に枝を突っ張り、ノムルの頬を退けた。
 ドインとノムルのにらみ合いが続く中、口を開いたのはカイだった。

「あの人間に聞けば、何か知っているのではないか?」
「「ん?」」

 カイの視線の先では、ナイオネルが必死にもがいて口をぱくぱく動かしていた。
 ノムルは杖を弾き、ナイオネルの声を解放する。

「言い伝えによると、融筋病を完治させたエルフは三年の間、患者と共に暮らしていたそうだ。その患者が融筋病の症状を自覚したのは、エルフと暮らしだす二年ほど前。自覚症状が出るまで一年ほど掛かることを考慮すると、ちょうど発症してから治療を開始したのと、治療開始から完治までの期間は、ほぼ一致すると考えて」

 口はまだぱくぱくと動いているが、必要な情報は手に入れたので、ノムルが声を消音にした。

「俺が融筋病になって何年経ってると思う? そんなに長い時間、こんな治療はできん」
「そのようなことはございません。私が必ずや」
「やめろ」

 治療を勧めるヒツジーを、ドインは制す。

「どちらにしろ、この治療法は不完全だ。これでは治療できる人間は限られる」

 雪乃は拳を握り締めた。目の前にいるドインを救うことができないことに、他にも大勢いるだろう融筋病の患者を救うことのできないことに、悔しくて葉を食いしばる。

「そのくらいどうにかしろよ。せっかくユキノちゃんが、薬を作ってくれたんだよ?」

 文句を言うノムルのローブの裾を、雪乃はぎゅっと握り締める。振り返ったノムルに、ふるふると幹を左右に振った。
 今回は、雪乃の力不足だ。
 小さな子供の健気な姿に、大人たちは息を飲み、気まずそうに顔を逸らした。

「こっちを試してみれば良いのではないか?」

 全員が顔を向ける。
 カマーフラワー印の銀の樽を、カイが静かに指差していた。
 室内に沈黙が走る。確かに一理ある。しかし、しかしである。

「よし、そうしよう」

 ドインたちの迷いなど千切り捨て、ノムルはカマーフラワー印の銀の樽に手を伸ばす。
 雪乃はそうっと、当事者であるドインの表情を窺った。彼は静かに目を閉じていたが、

「分かった。どうせ誰かが試すことになるんだ。他の患者を実験体にするより、体力がある俺の体を提供すべきだろう。なに、ノムルと天才薬師がいるんだ、死にはしないだろうよ」

 そう言うと、不適に口角を上げる。
 ヒツジーが息を飲み、何か言おうとしたが飲み込んだ。どちらにせよ、このままではドインは衰弱していくばかりなのだ。
 そしてドインの言葉は正しいだろう。彼以上に元気な病人は、中々いない。

「マンジュ草も魔植物化したほうが良いよねー?」
「「「……」」」

 深刻な空気もなんのその。ノムルはちゃっちゃと作業を開始していた。

「いえ、マンジュ草はそのままでお願いします」

 沈痛な面持ちをしたまま、雪乃は制止をかける。

「ええー? なんで? 魔植物化したほうが効果が上がるんでしょう? 一瞬で完治するかもよ?」

 ノムルの理屈は正しい。けれど、

「マンジュ草は猛毒です。魔植物化したら毒の作用が強化されて、触れた瞬間に命を落とすとか、危険な状態になる可能性が否定できません」

 と、雪乃は考えられる危険性を指摘した。
 その瞬間、部屋の中は凍りついた。

「なあ、ヒツジー?」
「なんでしょう? ドイン様」
「今なんか、凄く危険な可能性を示唆されなかったか?」

 冒険者ギルド副会長は、強張った表情でヒツジーに問いかけた。

「ん?」

 雪乃は幹を捻って二人を見る。
 
「私も、然様に感じました」

 重々しく、ヒツジーは同意する。
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