『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ゴリン国編

218.誰でもできるのか?

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 魔力を込めた薬草の異常な効能も、マンジュ草が毒性を強める可能性も、確かに危険ではある。しかしそれよりも、問題があることに二人は気付いてしまった。

「魔植物化ってのは、誰でもできるのか?」

 ドインは嫌な汗を滴らせながら、雪乃とノムルに問うた。

「非魔法使いには無理だね。魔力の少ない魔法使いも難しいと思うよー? 結構、魔力を消費するからねー」

 ノムルの答えにドインは苦しげに眉根を寄せる。

「その方法って、すでに魔法ギルドで広まってるんだよな?」
「まあねー。ギルドの魔法使いたちに、実験させてるからねー」

 魔植物達と関わりたくなかった雪乃とノムルは、雪乃を冷遇する魔法ギルドの魔法使いたちに、任せたのだ。もちろん合意の下であり、無理強いはしていない。
 彼らは喜び勇んで協力してくれた。
 その結果、魔法ギルドは魔植物の巣窟と化してしまったのだが。

「魔植物ってのは、効能が上昇するだけか?」
「外見も変わるよ。動き出す魔植物も多いな。カマーフラワーとか」

 渋い顔をしていたドインの表情が抜け落ちた。

「待て。カマーフラワーは魔物だろう?」

 おっさん二人の問答を聞いていた雪乃は、ぽてりと幹を傾げる。
 そう言えば、最初に魔カマーフラワーを見たときに、ノムルもそんなことを言っていたなとか、魔法ギルドでも聞いたようなとか、思い出していく。

「おっさんも知らなかったようだな。カマーフラワーは花が魔力を吸収した、魔植物だったんだ。ユキノちゃんが発見したんだぞ」

 胸を張って自慢気な親ばか魔法使い。
 じとりと睨んだドインは雪乃を一瞥すると、重い口調で確認する。

「それは、魔植物化させた魔法使いに制御できるのか?」
「あ……」

 ここで雪乃も気付いた。
 あれはもし悪用されたら、洒落にならない。人間社会は大混乱だ。もし悪意のある人が毒草を魔植物化させようものならば、その被害はどうなるか。
 毒草でなくとも、騒動は必至だろう。
 雪乃は己の失態に気付き、ふるふるふると恐怖に震えた。
 そんな雪乃を、カイは抱き上げて優しく撫でる。

「まったく制御できてなかったねえ。魔法使いたちを襲ってたから。いやー、いい気味だったよ」
「「「……」」」

 危険性に気付いていないのか、それとも気付いた上でのこの反応なのか。雪乃もドインたちも、ノムルの心の内を図りかねた。

「ノムルさん」
「なーにー? って、なんでまた抱っこしてんだ?!」

 雪乃に呼ばれて振り向いたノムルは、即座にカイに噛み付いた。

「あー。おとーさん?」
「なーにー?」

 三白眼は、でれりとへの字に形を変えた。

「速やかに、魔法ギルドに魔植物化の方法を口外しないよう、通達していただけませんでしょうか? それと許可なく魔植物化しないよう、取り締まっていただくことは可能でしょうか?」

 身勝手だとは思うが、ここは権力を笠に着てでも、被害が出る前に押さえ込まなければならない。
 そう判断して無理なお願いをしてみたのだが、

「いーよー」

 へらりと相好を崩したノムルは、すぐさま手紙をしたためると、鳥に変えて送り出した。そしてわずか五秒ほどで返信が来た。
 早すぎる。
 読み書きする時間があったのかと、いや、ギルドで話し合う時間があったのかと、疑うレベルの迅速さだ。

「ちゃんとギルドの法律に組み入れさせたよー。ラジンだけじゃなく、魔法使い全員に適応されるほうね。違反者は八つ裂きの刑」
「「待ていっ!」」
「ん?」

 返書を読むノムルに対し、雪乃とドインが思わず声を荒げた。ノムルは不思議そうに小首を傾げる。

「厳罰過ぎます! それはやりすぎです!」
「あの国はどうなってるんだ? 昔とは違う意味でひどいだろ?!」

 揃って抗議する。

「えー? でもー、ユキノちゃんのお願いだもん。一人も違反者が出ないようにしないと」
「お気持ちはありがたいですけど、私は処刑反対派です。痛いのも嫌です」
「ユキノちゃんは痛くないよ?」
「知ってます! 傷付いて苦しんでいる人は見たくないという意味です。目の前じゃなくても、自分が原因で苦しむ人がいるなんて、嫌です!」

 雪乃は必死に訴える。
 被害が出て苦しむ人がいないようにお願いしたのに、これでは結局、雪乃が撒いたしまった種で、人が傷付くことになる。
 拳を握って必死に見つめる雪乃に、ノムルは深く息を吐き出した。

「分かった。ユキノちゃんは本当に甘いんだから。死傷させない刑罰に変えさせるよ」

 柔らかな笑みを浮かべるノムルに、雪乃はほっと安堵し胸をなでおろす。
 ノムルは新しく出した紙にさらさらと書き込むと、再び鳥を送った。そして三秒後に鳥が返ってきた。
 本当に、あの国はどういう仕組みなのだろうかと、雪乃に残っていた冷静な思考は、疑問符を浮かべた。

「ちゃんと直させたよー。刑罰はやらかしたことによって、一ヶ月から一生、魔植物達と入牢」

 にっこりと、ノムルは口端を上げた。
 雪乃は答えに窮する。
 処刑されることも、体に苦痛を与えられることも無い。いや、魔植物によっては攻撃してくるから、肉体的苦痛を与えられる可能性も否定できない。
 だがそれ以上に、精神をやられそうだ。

「ま、まあ、自分の行いが返ってくるわけですから、えーっと……」

 思考の停止した雪乃は、ふるふると震えた。
 魔植物をカマーフラワー程度しか知らないカイやドインたちは、雪乃の反応に少し戸惑いつつも、確かにあれと同棲は嫌だなーと、想像して軽くふるりと震えたのだった。

「ではマンジュ草はそのままで、こちらの魔デンゴラコン漬けを使用してみますね」

 ヒツジーはそう言って、危機は乗り越えたとばかりに話を切り替えた。
 雪乃も逃げるように頷いた。
 しかし最初の治療を施したのは、つい先ほどだ。少し時間を置いたほうが良いだろうということになり、その間にデンゴラコン漬けの作り方を説明することになった。

「今回、魔植物化させたのは、デンゴラコンとムッセリー草の二種類になります。他の薬草に関しましては、既製品のトモ酒を使用したため、通常の薬草となります」

 説明をしている間、ナイオネルの目がギンギンと見つめてきてちょっと怖かったが、雪乃はきちんと説明を終えた。
 そしてついに、

「で、その魔デンゴラコンと魔ムッセリー草ってのは、安全なのか?」

 という当然の質問が、ドインの口から放たれた。
 雪乃はそうっと、幹を回し、視線をそらす。

「ど、毒はありません。攻撃性も……そ、そんなには、あ、ありま、せん」
「おい、なんでそんなにためらいがちなんだ? 場所を提供するから、一度現物を見せてくれ」
「……止めたほうが、よろしいかと思います。せめて、治療後にされたほうが……」

 ドインの顔が、あからさまに困惑に歪んでいった。ヒツジーも眉根を寄せて怪訝な顔を向けてくる。
 ナイオネルは……うん、目玉が飛び出そうだった。

「そんなに焦るなよ。後でちゃんと見せやるからさ。特にムッセリー」

 満面の笑顔を輝かせるノムルを見て、ドインはそれ以上、雪乃を問い詰めることはやめた。長年の付き合いで、嫌な予感しかしなかったのだろう。
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