『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
171 / 385
魔王の遺跡編

223.変態ダークエルフ

しおりを挟む
 足を止めたカイとムダイは、ノムルを不思議そうに見つめる。

「知ってるんですか?」

 片方の眉を上げ、ムダイは尋ねた。

「……変態ダークエルフだ。あの野郎、マンドラゴラで満足したんじゃなかったのか? まだユキノちゃんを狙っていたのか?!」

 ノムルの脳裏には、アトランテ草原でであったダークエルフの姿があった。
 雪乃を「母上」と呼び襲い掛かってきた挙句、雪乃のマンドラゴラを一匹捕獲し、「母上」と呼んでいたという、訳の分からない少年である。

「ノムルさんに『変態』呼ばわりされるって、よっぽどだね」

 呆れたように述べたムダイだが、彼もノムルから変態呼ばわりされていることは棚上げしたようだ。

「しかし雪乃ちゃん、意外とすごい人たらしだね。ノムルさん以外にも、獣人とかダークエルフとか、レアキャラをコンプしそうな勢いじゃない?」

 しみじみと呟くムダイを、カイは不思議そうに見る。
 狼の耳が、ぴくりと動いた。

「こちらへ来るようだ」

 その一言を合図にするように、ノムルが復活した。

「ほおう。あのクソダークエルフ、自分からやってくるとはいい覚悟だ。きっちりお仕置きをしてやろう」

 カイの尻尾が逆立ち膨れ上がる。
 ノムルの背後には、八つ首の暗黒龍が顕現していた。

「あー、じゃあ、ここはノムルさんに任せて、僕たちは雪乃ちゃんを救出に……」

 言いかけたムダイを、ノムルはぎょろりと睨む。

「ユキノちゃんは渡さん!」
「いえいえ、奪いませんから! 本っ当、面倒くさいですね。一人にしてたら危ないでしょう? 護衛を兼ねて守ってますよ」
「手え出すなよ?」
「もちろんです」

 何とかノムルを承諾させたムダイは、カイと共に先に進もうとしたのだが、

「先に行こうにも、道は一つだぞ?」

 と、カイから冷静なツッコミを頂いた。
 凹むムダイ。しかしSランク冒険者は切り替えも早かった。

「分かった。じゃあ、僕たちは下がろう。今の状態のノムルさんの喧嘩に巻き込まれたら、さすがの僕も命の危険を感じる。君なんて流れ弾でやられかねないよ?」
「そうだな」

 ムダイの意見にカイは逆らわない。
 実力差は嫌というほど感じていた。ただ、人格的にノムルに対して敬意を払う気にはなれないが。
 カイとムダイは素早く戦線から離脱した。壁の頑強さから、少し離れて廊下を折れたところで待っていれば良いと判断し、そこから様子を窺う。
 ノムルが一人残されたところに、廊下の向こうから人影が走ってきた。肩にマンドラゴラを乗せたダークエルフ、ダルクだ。

「あのときの薄汚い人間か! 今日こそ排除する」

 ダルクは両手に暗黒の雷を発生させ、ノムルに向かって放つ。しかしそれは、ノムルに触れる前に霧散した。

「なっ?!」

 目を瞠るダルク。
 ノムルは顔を俯けたまま、ブツブツ言い続けている。

「嗚呼、本っ当、苛つく。俺のもんに手え出すんじゃねえよ」

 顔を上げたノムルは、光の消えた暗い眼をダルクに向けた。その背後には、口を開けた八つ首の暗黒龍が、早く獲物を喰わせろとばかりに蠢いている。

「なんだ、この威圧感は? 貴様いったい何者だ?!」

 ようやくどんな相手に手を出したのか気付いたダルクだったが、時すでに遅し。国会議事堂(仮)に、ダルクの悲鳴が響き渡った。

「おいおい、この程度で啼くなよ。お仕置きはまだこれからだぜ?」

 魔王……いや、大魔王ノムル様のお仕置きタイムが開始されたようだ。
 悲鳴を上げようと泣き叫ぼうと、意識を失おうと、容赦なく叩き起こされて、ノムルの鉄槌が下される。
 冷め切った眼差しを落としながら、薄っすらと笑みを浮かべているノムルの姿は、親ばかノムルとは別人であった。
 そうっと覗き見たカイが、絶句したまま固まってしまったほどに。

「やっぱり本物のノムルさんであってたんだ。雪乃ちゃんといるときは別人だからさ、ちょっと疑ってたんだよね」

 と、カイの後ろから首を出したムダイは、のほほんと感想を述べる。
 カイの視線はムダイへと移った。
 変態っぷりと突飛な言動こそ警戒していたが、どこか気の抜けたノムルの様子に、噂ほど恐ろしい人間ではないようだと見定めていたのだ。
 しかし今目の前にいる男は、噂どおりの――いや、それ以上の、最強にして最凶の魔法使いだった。

「ああなったら時間掛かるよ? 先に行こうか?」

 顔を引き攣らせているカイの肩を叩くと、ムダイは廊下へと踏み出した。

「じゃ、先ほどの打ち合わせどおり、先に行って護衛しときますから。存分に憂さ晴らししてからきてください」
「ああ。二度と俺のユキノちゃんに手を出そうなんて思えないように、しっかりしつけてやるさ」

 カイは瀕死のダルクに視線が釘付けになったまま、ムダイを追うようにノムルの脇を通り過ぎる。

「雪乃、本当にあの人と行動を共にして、大丈夫なのか?」  

 小さな樹人の子供の身を、改めて心の底から案じたカイだった。



 その頃、雪乃はどろりとしたタールのような重い液体の中に、沈みつつあった。根を引きずり込まれ、枝に重くまとわり付く。
 タールが触れるたび、悪意が流れ込んできた。

『気味が悪い』
『こっちへ来ないで!』
『出来損ないが』

 どこかで聞いたことのある声、深く、心へと沁み込んでくる声。

『化け物!』
『出て行け』
『家の恥が』

 憎しみ、蔑み、怒り、恐れ……。
 言葉に乗せて押し寄せてくる感情に、雪乃は流せないはずの涙をこぼす。

「ごめんなさい。何もしないから、ごめんなさい――」

 黒いタールは容赦なく雪乃を飲み込んでいく。

『魔王になりますか?』
「なりません」
『復讐しますか?』
「しません」
『……』

 無機質な声が、雪乃の頭に問いかける。

『なぜ?』
「どうして? だって、悪いのは私。皆を傷つけてしまったから」

 雪乃はほろほろと涙をこぼす。
 胸が潰れそうに痛んだ。

『では、あの子は悪い子かい?』

 雪乃は振り返る。
 そこには小さな女の子がいた。母親に虐げられ、父親は関心も示さない。心に深い傷を負い、布団の中で声を殺して泣く少女。

「いいえ。彼女は悪くない。でもきっと、お母さんも苦しんでいる。幸せなら、誰かを傷付けようなんて思わないもの。子供を傷付けないといけないほど、追い込まれていてしまっている」

 雪乃はぽろぽろと涙をこぼす。

「誰か、お母さんの話を聞いてあげて。女の子の涙に気付いて。誰でもいい、誰か、二人を助けてあげて――」

 視界を閉じた雪乃は、心の底から二人が救われることを願った。
 すると、雪乃を沈めようとしていたタールのような悪意が、雪乃から離れていった。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...