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ゴリン国編2
233.マンドラゴラの幻覚ってのは
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「なあ、竜殺し」
ドインはマンドラゴラに視線を向けたまま、同じ疑問を抱いているであろう男に声を掛けた。
「なんでしょう?」
「さっき、こいつ花粉は使わなかったよな?」
ノムルに自分をユキノと認識させた時、マンドラゴラに花は咲いていなかった。
「ええ。声でしたね。『わー』って」
ドインたちの視線が、ナイオネルに向かう。
「なあ、マンドラゴラの幻覚ってのは、マンドラゴラの声でも起きるのか?」
マンドラゴラは背伸びをしたり屈伸をしたりして、体を解していた。
窓を開け、換気をしようとしていたナイオネルが振り向く。その一瞬前、マンドラゴラはぱたりと倒れ、動かなくなった。
完全に確信犯である。ドインたちは呆れるしかない。
「引っこ抜く際に上げる悲鳴を聞くと、幻覚を見ることが報告されている。幻覚からもたらされるショックや異常行動で、気絶する者もいるな。中には命を落とした例もある。だが土から出ているときに発する声には、幻覚作用が現れたという例はない」
「そうか」
どうやら普段の声は問題ないが、その気になれば声での幻覚も可能なようだ。稀代の魔法使い、ノムル・クラウに一泡吹かせるほどに。
「マンドラゴラの危険度を、引き上げたほうがいいかもしれんな」
「わ?」
思わず顔を上げかけたマンドラゴラだが、すぐに慌てて下ろした。
小刻みに肩を震わす、ドインとムダイ。執事ヒツジーは、必死に耐えている。
「マンドラゴラの知能ってのは、どのくらいなんだ?」
「植物に知能などあるはずないだろ」
呆れたように、窓を開け終えたナイオネルは答えた。
ドイン、ムダイ、ヒツジーの視線は、机の上で横たわるマンドラゴラへと向かう。
「じゃあ、こいつはいったい、何なんだ?」
苦くゆがめた顔で見下ろすドイン。
「まさか、このマンドラゴラもプレイヤー? いや、数いたから違うよな?」
ムダイも小声で呟きながら首を傾げた。
「うう……、ユキノちゃん……」
じめじめおじさんは、未だにじめじめしていた。
「ご心配をお掛けしました」
復活した雪乃は、根を張ったままぺこりと幹を折る。
「気にするな。俺のほうこそ、中々助けてやれなくてすまなかった」
「いえ、相手はノムルさんですから……」
二人はずーんっと暗く沈む。
あの親ばか魔王に対抗できる人間など、この世界に存在するのだろうか? 今までは雪乃が頼めば抑えてくれていた。
だがそれは雪乃に力があるわけではなく、ノムルが雪乃の言葉を優先していたからだ。今回のように雪乃を巻き込んで暴走されると、止められる相手はいない。
その事実に気付いてしまった雪乃は、戦慄した。
もしかしたら自分はとんでもなく危険な綱渡りをしているのではないかと、ようやく気付いたようだ。
ふるりと、雪乃は震える。
「しかし、どうやって私は救出されたのでしょう? ドインさんと喧嘩でも始めたのですか?」
意識朦朧としていた雪乃は、自分がノムルから解放された時のことを憶えていなかった。
「いや、マンドラゴラが助けてくれた」
「マンドラゴラがですか?」
思わず食い気味に聞き返してしまった雪乃に、カイは何とも言えない苦笑をこぼす。
「一匹、俺にくっ付いていたマンドラゴラがいただろう? あのマンドラゴラが……」
と、カイはマンドラゴラの行動を雪乃に語った。
驚きながらもカイの話を聞き終えた雪乃は、二、三度瞬いた後、視線を斜め下へと向けた。
「もしやマンドラゴラは、世界最強の生物? 謎過ぎます」
雪乃の感想に同意を示しながらも、カイは困ったように苦笑する。
そのマンドラゴラを発生させることのできる雪乃こそが、謎に満ちた存在であることに、彼女は気付いていないようだ。
雪乃がすっかり元気になったと見たカイは、話題を変える。
「ところで雪乃、ヒイヅルに来る気はないか?」
「ヒイヅルですか?」
雪乃はぽてりと幹を傾げ、その名前を思い出す。ノムルが東の果てにあると言っていた国だ。
「カイさんは、ヒイヅルの出身なのですか?」
「ああ。獣人の住む島国だ。大陸の人間たちは、周辺の国もまとめてヒイヅル帝国と呼んでいるようだが」
カイの話によると、ヒイヅル国だけでなく、竜人が住むルグ国やエルフ領をまとめて、ヒイヅル帝国と呼ばれることが多いらしい。ときには人魚たちが住むシーマー国も入る。
ヒイヅル諸国と、大陸に住む人間たちの国の間には、国交があまりない。
海を隔てた国という地理的な問題もあるが、人間たちが人間以外を差別し、隷属させようとすることが大きな理由であった。
だが人魚たちは海の中を素早く泳ぎまわるため、奴隷狩りの人間が来ても捕まることはない。
竜人は強く、危害を加えようとする者は全て返り討ちにするため、狙う人間は滅多にいないそうだ。
ヒイヅルの更に奥地には、エルフも住んでいるが、ルグ国とヒイヅル国を潜り抜けてエルフ領に辿り着ける人間自体が、まずいないという。
そんな中、獣人は種族によっては然したる強さはなく、鍛えられた人間と力勝負になれば、負けることも多いらしい。
だから以前は子供を中心に、奴隷狩りにさらわれることも少なくなかったという。
そのような事情から、大陸で見かけるヒイヅル近隣出身の者は獣人が多く、人間にはヒイヅルの情報しか入ってこないため、近隣国もまとめてヒイヅル帝国と扱われてしまったようだ。
「ヒイヅルが鎖国し、竜人の住むルグ国を介してのみ人間たちと交易を行うようになり、子供がさらわれることはなくなった。しかし過去にさらわれた同胞たちの子孫たちが、大陸に残されている」
カイの目が細く鋭くなり、拳が握り締められる。
「もしかして、その方々を助けるために、カイさんは大陸に来たのですか?」
「最初に雪乃と会ったときはな。何人か助け出したのだが、代わりにヒュウガが捕まってしまって。同胞たちを安全な場所まで送ってから、俺とシナノでヒュウガを奪還しに戻った」
雪乃は全身怪我だらけで自力で立つことも出来ず、カイの背中でぐったりとしていたヒュウガの姿を思い出す。
人間の醜い一面を見たようで、雪乃の心にじくりと痛みが走った。
今は樹人であっても、かつては人間であったのだ。罪悪感や悲しみの感情があふれてくる。
ドインはマンドラゴラに視線を向けたまま、同じ疑問を抱いているであろう男に声を掛けた。
「なんでしょう?」
「さっき、こいつ花粉は使わなかったよな?」
ノムルに自分をユキノと認識させた時、マンドラゴラに花は咲いていなかった。
「ええ。声でしたね。『わー』って」
ドインたちの視線が、ナイオネルに向かう。
「なあ、マンドラゴラの幻覚ってのは、マンドラゴラの声でも起きるのか?」
マンドラゴラは背伸びをしたり屈伸をしたりして、体を解していた。
窓を開け、換気をしようとしていたナイオネルが振り向く。その一瞬前、マンドラゴラはぱたりと倒れ、動かなくなった。
完全に確信犯である。ドインたちは呆れるしかない。
「引っこ抜く際に上げる悲鳴を聞くと、幻覚を見ることが報告されている。幻覚からもたらされるショックや異常行動で、気絶する者もいるな。中には命を落とした例もある。だが土から出ているときに発する声には、幻覚作用が現れたという例はない」
「そうか」
どうやら普段の声は問題ないが、その気になれば声での幻覚も可能なようだ。稀代の魔法使い、ノムル・クラウに一泡吹かせるほどに。
「マンドラゴラの危険度を、引き上げたほうがいいかもしれんな」
「わ?」
思わず顔を上げかけたマンドラゴラだが、すぐに慌てて下ろした。
小刻みに肩を震わす、ドインとムダイ。執事ヒツジーは、必死に耐えている。
「マンドラゴラの知能ってのは、どのくらいなんだ?」
「植物に知能などあるはずないだろ」
呆れたように、窓を開け終えたナイオネルは答えた。
ドイン、ムダイ、ヒツジーの視線は、机の上で横たわるマンドラゴラへと向かう。
「じゃあ、こいつはいったい、何なんだ?」
苦くゆがめた顔で見下ろすドイン。
「まさか、このマンドラゴラもプレイヤー? いや、数いたから違うよな?」
ムダイも小声で呟きながら首を傾げた。
「うう……、ユキノちゃん……」
じめじめおじさんは、未だにじめじめしていた。
「ご心配をお掛けしました」
復活した雪乃は、根を張ったままぺこりと幹を折る。
「気にするな。俺のほうこそ、中々助けてやれなくてすまなかった」
「いえ、相手はノムルさんですから……」
二人はずーんっと暗く沈む。
あの親ばか魔王に対抗できる人間など、この世界に存在するのだろうか? 今までは雪乃が頼めば抑えてくれていた。
だがそれは雪乃に力があるわけではなく、ノムルが雪乃の言葉を優先していたからだ。今回のように雪乃を巻き込んで暴走されると、止められる相手はいない。
その事実に気付いてしまった雪乃は、戦慄した。
もしかしたら自分はとんでもなく危険な綱渡りをしているのではないかと、ようやく気付いたようだ。
ふるりと、雪乃は震える。
「しかし、どうやって私は救出されたのでしょう? ドインさんと喧嘩でも始めたのですか?」
意識朦朧としていた雪乃は、自分がノムルから解放された時のことを憶えていなかった。
「いや、マンドラゴラが助けてくれた」
「マンドラゴラがですか?」
思わず食い気味に聞き返してしまった雪乃に、カイは何とも言えない苦笑をこぼす。
「一匹、俺にくっ付いていたマンドラゴラがいただろう? あのマンドラゴラが……」
と、カイはマンドラゴラの行動を雪乃に語った。
驚きながらもカイの話を聞き終えた雪乃は、二、三度瞬いた後、視線を斜め下へと向けた。
「もしやマンドラゴラは、世界最強の生物? 謎過ぎます」
雪乃の感想に同意を示しながらも、カイは困ったように苦笑する。
そのマンドラゴラを発生させることのできる雪乃こそが、謎に満ちた存在であることに、彼女は気付いていないようだ。
雪乃がすっかり元気になったと見たカイは、話題を変える。
「ところで雪乃、ヒイヅルに来る気はないか?」
「ヒイヅルですか?」
雪乃はぽてりと幹を傾げ、その名前を思い出す。ノムルが東の果てにあると言っていた国だ。
「カイさんは、ヒイヅルの出身なのですか?」
「ああ。獣人の住む島国だ。大陸の人間たちは、周辺の国もまとめてヒイヅル帝国と呼んでいるようだが」
カイの話によると、ヒイヅル国だけでなく、竜人が住むルグ国やエルフ領をまとめて、ヒイヅル帝国と呼ばれることが多いらしい。ときには人魚たちが住むシーマー国も入る。
ヒイヅル諸国と、大陸に住む人間たちの国の間には、国交があまりない。
海を隔てた国という地理的な問題もあるが、人間たちが人間以外を差別し、隷属させようとすることが大きな理由であった。
だが人魚たちは海の中を素早く泳ぎまわるため、奴隷狩りの人間が来ても捕まることはない。
竜人は強く、危害を加えようとする者は全て返り討ちにするため、狙う人間は滅多にいないそうだ。
ヒイヅルの更に奥地には、エルフも住んでいるが、ルグ国とヒイヅル国を潜り抜けてエルフ領に辿り着ける人間自体が、まずいないという。
そんな中、獣人は種族によっては然したる強さはなく、鍛えられた人間と力勝負になれば、負けることも多いらしい。
だから以前は子供を中心に、奴隷狩りにさらわれることも少なくなかったという。
そのような事情から、大陸で見かけるヒイヅル近隣出身の者は獣人が多く、人間にはヒイヅルの情報しか入ってこないため、近隣国もまとめてヒイヅル帝国と扱われてしまったようだ。
「ヒイヅルが鎖国し、竜人の住むルグ国を介してのみ人間たちと交易を行うようになり、子供がさらわれることはなくなった。しかし過去にさらわれた同胞たちの子孫たちが、大陸に残されている」
カイの目が細く鋭くなり、拳が握り締められる。
「もしかして、その方々を助けるために、カイさんは大陸に来たのですか?」
「最初に雪乃と会ったときはな。何人か助け出したのだが、代わりにヒュウガが捕まってしまって。同胞たちを安全な場所まで送ってから、俺とシナノでヒュウガを奪還しに戻った」
雪乃は全身怪我だらけで自力で立つことも出来ず、カイの背中でぐったりとしていたヒュウガの姿を思い出す。
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