『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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旅路編

248.ユキノちゃんには特別に

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「遠足……。出てくる単語は小学生なのに、思考が年寄り……」

 再びムダイがぶつぶつ言い出したが、雪乃はタイムリミットだ。
 地中に根を張り、視界を閉じた。

「料理の準備ができたわ」

 ローズマリナの声が掛かり、男たちは一斉に視線を向ける。雪乃はすでに根を張ってしまった。
 ノムルは雪乃を隠そうと、杖を握る。
 そしてカイは、雪乃のダミーを作り出す。

「マンドラゴラ、ローズマリナ殿に、お前が雪乃に見えるようにするんだ」 
「わー!」

 了解とばかりにフードから飛び出したマンドラゴラは、歌うように声を響かせた。
 一瞬だけとろんっと虚ろな目をしたローズマリナは、

「ふふ。ユキノちゃんには特別に、お子様ランチを作ってみたの。気に入ってもらえると嬉しいのだけど」
「わー」

 と、すっかりマンドラゴラを雪乃と認識してしまった。
 がっちりと雪乃を障壁で守ってから、男たちは家の中へと入っていく。
 机に並んでいた料理は、見た目も味も、高級レストランに負けないほどの極上品だった。

「ナルツと結婚したら、伺ってもいいですか? こんな美味い料理、ナルツだけに食べさせるなんて、もったいないですよ」
「ムダイ様ってば、お上手ね。でもまだ結婚するかは分からないわよ?」
「まず問題ないでしょう? 相思相愛ですから」
「うふふ。ありがとうございます。そうなったら、いつでも遊びにいらして」

 ムダイは完全に胃袋を掴まれたようだ。
 雪乃のために用意されていた、にゃんこ型オムライスを中心としたお子様ランチは、予想通りというべきか、ノムルの胃袋に収まった。



 そして翌朝、目覚めた雪乃は、ムダイの魔法はどうなったのかと、すでに起きていたカイに尋ねた。

「まだ火は出せていない。魔力に触れさせてみたら、何となくは感じ取れたようだが、自分の魔力は分からないようだ」
「魔力が少ないのでしょうか?」

 雪乃が問うと、カイは首を左右に振った。

「ノムル殿が言うには、魔力の量は魔法使いの中でも上位に入るほどらしい」
「ほほう。さすがゆう」

 言いかけて、雪乃は言葉を切った。
 カイが怪訝な顔をして見つめているが、本人の許可なく言ってはいけないだろう。
 勇者ムダイは、巧くいけば剣も魔法も使える魔法剣士になれそうだ。

「練習を始めてまだ一日だ。ネーデルに着くまでに火を出せるようになれば、上出来だろう」
「そうなのですか?」

 ぽてりと雪乃が幹を傾げれば、カイは頷く。

「ああ。魔法の練習を始めてから初歩の魔法が使えるようになるまでは、才能のある者でも数日、長いともっと掛かる。ムダイ殿の場合は魔力のコントロールからだから、更に掛かるだろう」

 雪乃は自分が治癒魔法を習得したときのことを思い出す。
 ノムルに教えてもらい始めてから、雪乃が腕の傷を癒せるまでに掛かったのは、一時間と少しほどだった。
 間にノムルの食事タイムがあったことを踏まえると、一時間も掛かっていないだろう。

「ノムルさんのことばかり言えないかもしれません」
「ん?」

 とうとう雪乃は、自分もちょっと常識外れなのかもしれないと気付いたのだった。

 ぼんやり考えている雪乃に、カイがローブを着せ始める。
 現実に戻った雪乃は、袖に枝を通していく。その間に、カイがフードを被せてくれた。

「あら、起きてるのは二人だけ? 皆さんも中で寝てくれてよかったのに」

 きっちり姿を隠したところで、エプロンを付けたローズマリナが現れた。フリルがたくさん付いた、白いエプロンだ。

「俺たちは外で眠るほうが落ち着く。ムダイ殿とノムル殿は、室内のほうが良いと思うのだが」

 と、三人の視線はまだ大の字になって眠っている、魔法使いと赤い男に向かう。ついでにぴー助も白いお腹を仰向けて眠っていた。
 ずいぶん無防備だと気になるところだが、最強の種族である竜種は、野生でもこんなふうに寝るのかもしれないと、疑問を放り投げる。

「あの二人を同じ部屋に入れるのは危険すぎると思う。そもそも、女性の家に男を入れるのは問題がある」
「あら、カイ君は紳士ね」

 ふふっと笑ったローズマリナは、それ以上の無理強いはしなかった。
 馬車の旅の間に、あの二人の危険性は嫌というほど思い知らされている。

「でも雪乃ちゃんは、中で眠ったほうが良かったんじゃないの? 女の子だし、まだ幼いもの」

 しゃがみ込んで目線を合わせるローズマリナの表情は、優しげだが雪乃を心配する色が窺える。
 雪乃はそうっとカイを見上げた。それからノムルたちの様子を探る。

 ノムルやカイが、雪乃の正体が露見しないように協力してくれていることは分かっている。
 けれどローズマリナとは、まだ一緒に旅を続ける。隠し続けるのは、お互いに居心地の良いものではないだろう。

 逡巡している雪乃に、ローズマリナはにっこりと微笑む。

「さ、朝ごはんの用意ができたわ。お家に入って食べましょう」

 立ち上がったローズマリナは、ノムルとムダイに視線を向ける。

「あの二人はどうしましょう?」
「ノムルさんは、寝起きが最悪です」

 雪乃のプチ情報に、ローズマリナとカイの答えは決まった。眠る魔王を起こしてはいけない。
 家へと戻っていくローズマリナの後を、雪乃とカイは手をつないで付いていく。

「雪乃の思うようにすればいい。無闇に正体を知らせるのは危険だが、彼女はきっと、雪乃の正体を知っても受け入れてくれるだろう」

 雪乃にだけ聞こえるように、カイが小さな声で囁いた。
 家に入ると、テーブルの上にはたくさんのサンドイッチが用意されていた。

「スープを入れてくるわね。眠っている二人の分は、バスケットに入れて持っていきましょう」
「私の事はお気遣いなく」

 慌てて雪乃は止めた。

「あら、遠慮しなくて良いのよ? 美味しいスープができてるから。いっぱい食べて、大きくならないと」

 ふふっと笑うローズマリナだが、雪乃は食べ物を口にすることができないのだ。
 雪乃の胸が、つきりと痛む。

 人間であったころも、雪乃は自分のために食事を作ってもらった記憶はあまりない。
 幼かった頃にはあったのかもしれないが、弟が生まれてからは、雪乃の世話は放棄された。
 食事は母が居間や台所にいないときを突いて、残り物のおかずやご飯を少しだけ分けてもらっていた。
 それが無いときは、野草を採りにいって食べていた。
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