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旅路編
254.薄っすらと隈を作って
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翌日になり、馬車に乗り込んだ雪乃たちは、ラジンへと向かう。昼過ぎには国境の町に到着する予定だ。
昨夜までは不安げな表情をしていたムダイだったが、なぜか今朝は表情が明るい。
目の下に薄っすらと隈を作って、ニヤニヤと笑んでいるので、ちょっと怪しい雰囲気さえ漂っている。
そうしてとうとう、雪乃たちはラジン国との国境の町まで辿り着いた。
馬車はこの町で買い取ってもらう。
ラジン国では転移装置を使い、ルモン大帝国との国境まで飛ぶ。そこから先は機関車での移動になる。
もう雪乃たちの旅に、馬車は必要ないのだ。
「短い間でしたけれど、ありがとうございました」
カイに抱き上げてもらった雪乃は、食べられないように注意しながら馬の首筋を優しく撫でて、お礼を言って別れた。
その直後、
「ノムル様が乗った馬車と馬を!」
という声が怒涛の如く湧き出し、ありえない価格で馬と馬車は買われていった。
さすがはラジン国との国境の町というべきか。ノムル教信者がいたようだ。
「ま、まあ、あの様子であれば、きっとあのお馬さんも大切にしてもらえるでしょう。きっと」
祭りのような騒ぎを半目になって眺めていた雪乃は、そう言って自分を納得させた。
雪乃たちはコダイ国とラジン国の国境にある、門へと向かう。
「ムダイと狼はあっちだ」
ノムルは国境にある二つの門の内、小さな方の門を指差す。並ぶ人はおらず、閑古鳥が鳴いていた。
「私も魔法ギルドには登録していないけれど、あちらに並ばなくても良いのかしら?」
ローズマリナの言葉に、ノムルはちらりと雪乃を見る。雪乃はつないでいたローズマリナの手にもう片方の枝も添え、ひしと身を寄せた。
全身で、彼女を護ると訴えている。
「くっ。腹立たしいが、ユキノちゃんのお願いだからな。お前は俺のつれってことにしてやる」
「あら、光栄だわ」
にっこりと微笑むローズマリナに、雪乃もほっと胸を撫で下ろし、葉をきらめかせる。
ローズマリナは魔法が使えるという話だが、ラジン国は差別意識が酷いと聞く。魔法が使える雪乃も、あまり良い思い出はない。
何かあってはと、不安が拭いきれなかったのだ。
「ノムルさん、ありがとうございます」
雪乃はローズマリナから離した片枝で、ノムルの手を握った。
「いいんだよ、ユキノちゃん。お安いご用さ」
満面に笑みという名の花を咲かせて、でれる親ばか魔法使い。居合わせた魔法使いたちが凝視したり拝んだりしているが、彼が気にする様子はない。
「ノムル様だ」
「お子を生したと伺ったが、あの女性がお相手か?」
魔法使いたちの囁きあう声を耳にしたローズマリナは、耳や首まで真っ赤に染まっていく。
小さな雪乃を間に、右枝はノムルと、左枝はローズマリナとつないでいるのだ。普通に考えて、親子の図だろう。
ところで、同伴者は魔法ギルドに登録されていなくても構わないのならば、カイとムダイも、雪乃たちと共に入ることも可能なはずだ。
しかしノムルは、カイとムダイに関しては同伴者とすることを、頑なに拒否した。
雪乃が自分の同伴者にと申し出たのだが、登録してまだ日の浅い雪乃では同伴者は認められないということで、諦めざるを得なかった。
カイは獣人であることを心配していたが、魔法を披露するだけだからフードを被っていても問題ないとノムルに教えられ、ならばせっかくなので登録したいと、やる気を見せていた。
魔法ギルドに登録すると、獣人のカイもラジン国の国民として扱われるため、行動できる範囲が増えるらしい。
ノムルという絶対的存在と、治癒魔法に秀でた雪乃がいるという、これ以上に安全に登録できる好機はないだろうと、心配する雪乃に笑って門に向かった。
一方のムダイはといえば、平常を装っているが、ふとした瞬間に目がへの字になって、口元が緩んでいた。
カイと共に未登録の者が通る門に向かったムダイの背を、雪乃とローズマリナは心配しつつも、不思議そうに見送る。
「夜の内に、魔法を使えるようになったのでしょうか?」
「そうかもしれないわね。さすがはSランク冒険者といったところかしら?」
なんとなく察した様子の雪乃とローズマリナだったが、ぷっと吹き出す音が聞こえた。
顔を上げると、ノムルが笑いを堪えている。
「ノムルさん? どうかしましたか?」
「いや、なんでもないよ? さ、早くあっちにいって、見学しよう」
訝しげにノムルを見た雪乃とローズマリナは、顔を見合わせて首を傾げた。
だが考えていても仕方ないと、仲良く手をつないで三人と一匹で国境の門を潜る。
ラジン国へ入国すると、以前とは少し雰囲気が変わっていた。
魔法使いは爛々と目を輝かせ、杖を構えている。やる気満々といったところだ。
彼らの視線は、小さいほうの門へと向かっているが、ちらちらとノムルへも注がれていた。
「何が起きるのでしょう?」
「さあ? 何かしらね」
雪乃とローズマリナは、不思議そうに魔法使いたちを見物する。
「はいはーい。危ないから障壁の中にいてねー」
ノムルは杖を弾いて、透明な障壁で雪乃とローズマリナを囲む。
「まさか」
嫌な予感を覚えた雪乃が、そうこぼした直後だった。
魔法使いたちが一斉に魔法を放つ。
ある者は杖を振るい、またある者は両手を前方に差し出し、小さな門に向かって攻撃を仕掛けた。
閃光や炎が上がり、周囲は砂塵が舞い、門の様子が見えない。
だがそれだけでは終わらなかった。
忙しく指を組み替えていた者が、一拍遅れて魔法を放つ。巨大な水の塊が、門へと飛んでいった。
更に遅れて呪文を唱えていた者が杖を振るえば、多数の火の玉が飛んでいく。
集団で地面に手を付き詠唱している者たちの口角が上がると、大地がひび割れた。
雪乃とローズマリナは、あ然としてその光景を目に焼き付ける。
悲鳴を上げる余裕さえない。
「え? どういうことですか? え?」
小さな樹人の頭の中は、混乱していた。
状況が理解できない。目に映る光景は脳に入ってくるが、現実を受け入れることができなかった。
隣に立つローズマリナも、声を上げることさえ適わない。目と口を開いて、その光景をただただ流れるままに目に映していた。
「おおー。ずいぶんと派手だな」
「ぴー」
呑気な魔法使いの声が、頭上を通過する。
ぴー助もなんだか楽しそうな声を上げていたが、雪乃に気にする余裕は無い。
「え? これ、どういうことですか? 何が起こっているんですか?」
まずはともあれ、説明が欲しかった。
昨夜までは不安げな表情をしていたムダイだったが、なぜか今朝は表情が明るい。
目の下に薄っすらと隈を作って、ニヤニヤと笑んでいるので、ちょっと怪しい雰囲気さえ漂っている。
そうしてとうとう、雪乃たちはラジン国との国境の町まで辿り着いた。
馬車はこの町で買い取ってもらう。
ラジン国では転移装置を使い、ルモン大帝国との国境まで飛ぶ。そこから先は機関車での移動になる。
もう雪乃たちの旅に、馬車は必要ないのだ。
「短い間でしたけれど、ありがとうございました」
カイに抱き上げてもらった雪乃は、食べられないように注意しながら馬の首筋を優しく撫でて、お礼を言って別れた。
その直後、
「ノムル様が乗った馬車と馬を!」
という声が怒涛の如く湧き出し、ありえない価格で馬と馬車は買われていった。
さすがはラジン国との国境の町というべきか。ノムル教信者がいたようだ。
「ま、まあ、あの様子であれば、きっとあのお馬さんも大切にしてもらえるでしょう。きっと」
祭りのような騒ぎを半目になって眺めていた雪乃は、そう言って自分を納得させた。
雪乃たちはコダイ国とラジン国の国境にある、門へと向かう。
「ムダイと狼はあっちだ」
ノムルは国境にある二つの門の内、小さな方の門を指差す。並ぶ人はおらず、閑古鳥が鳴いていた。
「私も魔法ギルドには登録していないけれど、あちらに並ばなくても良いのかしら?」
ローズマリナの言葉に、ノムルはちらりと雪乃を見る。雪乃はつないでいたローズマリナの手にもう片方の枝も添え、ひしと身を寄せた。
全身で、彼女を護ると訴えている。
「くっ。腹立たしいが、ユキノちゃんのお願いだからな。お前は俺のつれってことにしてやる」
「あら、光栄だわ」
にっこりと微笑むローズマリナに、雪乃もほっと胸を撫で下ろし、葉をきらめかせる。
ローズマリナは魔法が使えるという話だが、ラジン国は差別意識が酷いと聞く。魔法が使える雪乃も、あまり良い思い出はない。
何かあってはと、不安が拭いきれなかったのだ。
「ノムルさん、ありがとうございます」
雪乃はローズマリナから離した片枝で、ノムルの手を握った。
「いいんだよ、ユキノちゃん。お安いご用さ」
満面に笑みという名の花を咲かせて、でれる親ばか魔法使い。居合わせた魔法使いたちが凝視したり拝んだりしているが、彼が気にする様子はない。
「ノムル様だ」
「お子を生したと伺ったが、あの女性がお相手か?」
魔法使いたちの囁きあう声を耳にしたローズマリナは、耳や首まで真っ赤に染まっていく。
小さな雪乃を間に、右枝はノムルと、左枝はローズマリナとつないでいるのだ。普通に考えて、親子の図だろう。
ところで、同伴者は魔法ギルドに登録されていなくても構わないのならば、カイとムダイも、雪乃たちと共に入ることも可能なはずだ。
しかしノムルは、カイとムダイに関しては同伴者とすることを、頑なに拒否した。
雪乃が自分の同伴者にと申し出たのだが、登録してまだ日の浅い雪乃では同伴者は認められないということで、諦めざるを得なかった。
カイは獣人であることを心配していたが、魔法を披露するだけだからフードを被っていても問題ないとノムルに教えられ、ならばせっかくなので登録したいと、やる気を見せていた。
魔法ギルドに登録すると、獣人のカイもラジン国の国民として扱われるため、行動できる範囲が増えるらしい。
ノムルという絶対的存在と、治癒魔法に秀でた雪乃がいるという、これ以上に安全に登録できる好機はないだろうと、心配する雪乃に笑って門に向かった。
一方のムダイはといえば、平常を装っているが、ふとした瞬間に目がへの字になって、口元が緩んでいた。
カイと共に未登録の者が通る門に向かったムダイの背を、雪乃とローズマリナは心配しつつも、不思議そうに見送る。
「夜の内に、魔法を使えるようになったのでしょうか?」
「そうかもしれないわね。さすがはSランク冒険者といったところかしら?」
なんとなく察した様子の雪乃とローズマリナだったが、ぷっと吹き出す音が聞こえた。
顔を上げると、ノムルが笑いを堪えている。
「ノムルさん? どうかしましたか?」
「いや、なんでもないよ? さ、早くあっちにいって、見学しよう」
訝しげにノムルを見た雪乃とローズマリナは、顔を見合わせて首を傾げた。
だが考えていても仕方ないと、仲良く手をつないで三人と一匹で国境の門を潜る。
ラジン国へ入国すると、以前とは少し雰囲気が変わっていた。
魔法使いは爛々と目を輝かせ、杖を構えている。やる気満々といったところだ。
彼らの視線は、小さいほうの門へと向かっているが、ちらちらとノムルへも注がれていた。
「何が起きるのでしょう?」
「さあ? 何かしらね」
雪乃とローズマリナは、不思議そうに魔法使いたちを見物する。
「はいはーい。危ないから障壁の中にいてねー」
ノムルは杖を弾いて、透明な障壁で雪乃とローズマリナを囲む。
「まさか」
嫌な予感を覚えた雪乃が、そうこぼした直後だった。
魔法使いたちが一斉に魔法を放つ。
ある者は杖を振るい、またある者は両手を前方に差し出し、小さな門に向かって攻撃を仕掛けた。
閃光や炎が上がり、周囲は砂塵が舞い、門の様子が見えない。
だがそれだけでは終わらなかった。
忙しく指を組み替えていた者が、一拍遅れて魔法を放つ。巨大な水の塊が、門へと飛んでいった。
更に遅れて呪文を唱えていた者が杖を振るえば、多数の火の玉が飛んでいく。
集団で地面に手を付き詠唱している者たちの口角が上がると、大地がひび割れた。
雪乃とローズマリナは、あ然としてその光景を目に焼き付ける。
悲鳴を上げる余裕さえない。
「え? どういうことですか? え?」
小さな樹人の頭の中は、混乱していた。
状況が理解できない。目に映る光景は脳に入ってくるが、現実を受け入れることができなかった。
隣に立つローズマリナも、声を上げることさえ適わない。目と口を開いて、その光景をただただ流れるままに目に映していた。
「おおー。ずいぶんと派手だな」
「ぴー」
呑気な魔法使いの声が、頭上を通過する。
ぴー助もなんだか楽しそうな声を上げていたが、雪乃に気にする余裕は無い。
「え? これ、どういうことですか? 何が起こっているんですか?」
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