『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
243 / 385
ヒイヅル編

295.機関車は南へと

しおりを挟む
 翼を閉じてなんとか乗り込んだぴー助だが、執事もどきからは渋い顔をされた。ネーデルに来る時は、そんな表情はされなかったのだが。
 少し気になった雪乃だが、竜種が苦手な人なのだろうと勝手に解釈し、それ以上は考えなかった。
 世の中には、犬や猫を可愛いと感じる人もいれば、苦手と感じる人もいるのだ。

 機関車は南へと下っていく。
 窓から見える景色が、人工物の多い都会から緑豊かな景色へと変わる頃には、空は赤く染まり始めていた。
 今回は途中で下りずに、植木鉢で一夜を越す。そして明日の朝には、港町ポーカンに着く予定だ。

 常設されている二台の寝台は、それぞれノムルとぴー助が使う。カイはソファで丸くなって眠った。
 予備の寝台を出すことも、ぴー助をソファで寝かすことも、ノムルが許可しなかったからだ。
 朝になってそのことを知った雪乃は、ノムルに冷たい眼差しを送った。だがすぐにカイに窘められる。

「この車輌の切符を購入したのは、ノムル殿だ。俺は同乗させてもらっただけだから、ソファを使わせてもらえただけで充分ありがたい」

 不満気に口葉を尖らせる雪乃だったが、カイ自身が納得している以上、何も言えなかった。



 車窓からは、朝陽にきらきらと輝く海が見えてくる。まだ日が昇り出したばかりの早朝だというのに、海には小さな船が幾つも浮かんでいた。
 機関車が急停車し、雪乃たちはポーカンに降り立ったのだった。

 椅子に座った状態ではよく眠れなかったのだろう。同じ機関車に乗っていたと思われる人たちが、眠そうに目を瞬かせたり、背伸びをしたりしている。
 夜間に走行するにもかかわらず、寝台が付いているのは一等車輌だけだ。貴族や豪商が使うという二等車輌ですら、二人掛けの布張り椅子が向かい合わせに並んでいるだけだった。
 
 しかし強張った体に疲労の色が見えても、人々の表情は揃って明るい。
 小さな子供たちや、つば広の帽子を被った女性たちが、甲高い声で賑々しく話している。
 その出で立ちや醸し出される雰囲気から、彼や彼女たちの目的は、仕事や里帰りといったものではなく旅行だと推察できる。

 雪乃たちは、はしゃぐ旅行者たちを尻目に駅舎を抜ける。
 駅から出れば、すぐ目の前に白い砂浜があり、その向こうには澄んだ海が広がっている。
 まだ早い時間ということもあり、砂浜に出ている人は少ない。

「デコポンホテルです。お迎えに上がりました。どうぞこちらへ」
「キヨミ民宿をご予約の方は、こちらにおいでください」
「キンカン旅館はこちらです。まだ空きもありますよー」

 砂浜にはいないが、駅のまん前には執事もどきのホテルマンから、その辺のおじさんに見える人まで、お迎えの人がたくさんいた。

「コウギョクホテルはこちらよー」
「それは林檎です!」

 若いおねーさんの引き込みに、ついつい雪乃は反応してしまった。
 我に返ったときには、『?』マークを頭に乗せた人々が、雪乃を不思議そうに見ていた。
 恥ずかしげに紅葉しながら、雪乃はすごすごとその場から逃げ出す。

「ユキノちゃん、リンゴって何?」
「御気になさらず」

 ノムルの問いかけを適当に流して、雪乃は失態を忘れようとした。
 ちなみにデコポンもキヨミもキンカンも、柑橘類だ。

 デコポンはヘタの部分が凸(でこ)っているのが特徴だ。身は萎んだような皺があり種も多いが、酸味が少なく甘くて美味しい。
 一方のキヨミは、果肉が柔らかい上に果汁が多くジューシーだ。程よい酸味と高い糖度が自慢だ。房ごとに分けるより、切り分けたほうが食べやすい。
 最後にキンカンだが、プチトマトのように小さく、皮ごと食べる。砂糖漬けや蜜煮にして食べることも多い。
 ついでに紅玉は小ぶりで酸味が強いリンゴだが、アップルパイなど菓子作りには欠かせない品種である。

 雪乃たちはホテルなどのお迎えはスルーして、港へと向かう。
 海の水は透明で、底の方までしっかりと見える。青や黄色の魚が泳ぐ姿に、雪乃は海に入りたくてうずうずしていた。
 しかし雪乃は樹人である。潜ることが難しいだけでなく、植物にとって塩分は枯れる原因になる。
 ちらちらと何度も海のほうを見ながら、カイについて歩いていく。

「遊んでいてもいいぞ? 船が決まったらすぐ戻る」

 雪乃の様子に気付いたカイが、足を止めて振り返る。

「狼の割には気が利くな。ユキノちゃん、おとーさんと遊ぼうか?」
「わー!」
「ぴー!」

 ノムルおとーさんのお誘いに返事をしたのは、雪乃ではなくマンドラゴラとぴー助だった。

「俺はお前らのおとーさんじゃない!」
「わー?」
「ぴー?」
「当たり前だろう? お前らはユキノちゃんの子供なんだから、俺の孫だ。俺のことはおじいちゃんと呼べ!」
「わー!」
「ぴー!」

 雪乃とカイは盛り上がるおじーちゃんと孫たちを、色をなくした視界の片隅に置いておく。

「とりあえず行ってくる」
「ありがとうございます」

 港へ向かうカイの後ろ姿を見送ってから、雪乃は海へと近付いていく。白い砂浜に根を取られながらも、波打ち際を目指す雪乃だったが、ずいぶん手前で根を止めた。

「どうしたの?」
「この辺りが私の限界のようです」

 海水に浸かる前に、湿った砂浜で挫折した。表面は乾いているが、少し砂をよければ海水が浸透している。
 じっとしているだけで、根が勝手に砂浜から海水を吸い上げようとしていた。

 仕方なく、雪乃は海に背を向け離れていく。きょろきょろと辺りを見回すが、岩場や防波堤のようなものはない。どこまでも白い砂浜が続いていた。
 人工物が少ないことは良いことだが、海を覗きたい雪乃には、ちょっと残念な結果となった。

「どうせお船に乗れば見られますから良いです」

 一人呟いて納得すると、カイと合流しようと歩きだした。

「ユキノちゃん、海に入りたいの?」
「泳いでいるお魚さんが見たかったのです」

 元気なく正直に答えてしまった雪乃。そんな雪乃の姿を、親ばか魔王が放っておくはずなどない。

「じゃあ、こんな感じでどう?」
「え?」

 振り返って海を目にした雪乃は、呆気に取られて固まった。
 ノムルの奇行には慣れているはずの雪乃だが、それでも驚かざるを得ない。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...