『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ヒイヅル編

325.ミケめがけて投げる

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「仕方ありません。さあ、ミケさん。これで元気を取り戻してください」

 きらりーんっと葉を煌かせた雪乃は、どんぐりに似た形と大きさの、若緑色をした実を頭からぷちっと収穫した。
 それをミケめがけて投げる。

「待て、雪乃!」

 慌ててカイが止めるが、遅かった。
 目の前に落ちた木の実に、ミケの目が向かう。ひくひくと鼻が動き、次第に表情が弛緩していく。
 ミケだけではない。ポチもまた、蕩けるような恍惚とした表情を浮かべている。

「ビゼン、すぐに発つぞ。雪乃、行くぞ」
「ん?」

 ぽてりと幹を傾げる雪乃を、カイは抱き上げると走り出した。

「お待ちください。説明を」
「いいから急いで村を出るぞ!」

 雪乃を抱き上げたまま丘を駆け下りるカイを、狼獣人たちは追いかける。半刻ほど駆け続けて、ようやくカイは足を止めた。

「ご説明ください」

 眉をひそめたビゼンが、カイに詰め寄る。

「雪乃が出したのは、モイチドタビの実だ」

 モイチドタビの実や根を猫に与えると、酔っ払ったような状態になる。日本でいうところの、マタタビのようなものである。その効果は猫獣人にも及ぶようだ。
 ちなみにマタタビは虫が寄生して凸凹になっている実が良しとされるが、この世界では生った実のままで問題ない。

「それは分かりましたが、ここまで逃げる必要はないでしょう? ミケ一人を遠ざければ済むことです」

 納得いかないと表情に出ているビゼンに対して、カイはゆるりと首を横に振った。

「樹人の作り出す薬草は、効能が数倍どころか数十倍にまで強化されているんだ」

 カイの発言に、ビゼンを始めとした狼獣人たちの顔色が悪くなり、後ろを振り返った。
 指摘された雪乃は自分が生やす薬草の効能強化っぷりに、色褪せる。

「魔植物よりも、私のほうが危険かもしれません」

 ぽつりと呟いた雪乃の頭を、カイは慰めるように撫でた。


 狼獣人たちは、そのまま森の中で待機する。置いてきてしまったノムルが追いつくのを待つためだ。
 放っておいても、あの親ばか魔法使いならば地の果てだろうと雪乃を追いかけてきそうだが、大魔王様が降臨してヒイヅル国が滅ぼされかねない。
 ビゼンたちも昨夜の騒動を目にしているため、不承不承ながら受け入れた。
 カイがマンドラゴラを置いてきてくれたので、ノムルが起きたらここまで案内してくれるよう、マンドラゴラに言伝を頼み、了承の返事をもらった。

 そして一刻ほど待った雪乃たちの元に、目覚めたノムルが飛んできた。比喩ではなく、飛んできた。
 連絡用に一匹だけ出しておいたマンドラゴラが空を見上げるので、何かと思って雪乃が顔を上げ、狼獣人たちも釣られるように空を見上げた。
 ゴマ粒ほどの小さな点は、あっと言う間に大きくなり、

「ユキノちゃーんっ!」
「のおおおおぉぉーーっ?!」

 雪乃に向かって突っ込んできた。
 気付いた時点で危険を察知していたカイが素早く雪乃を抱えて横に逃げたが、土塊やら落ち葉やら小枝やらが飛散して、飛んでくる。
 ノムルが着弾した場所には小さなクレーターが現れ、辺りは悲惨な状態になっていた。

「森林破壊です! もう少し落ち着いてって、ふみゃああぁぁーーっ?!」
「ユキノちゃん、ユキノちゃん、ユキノちゃーんっ!」

 ひどく動揺している様子のノムルは、カイごと雪乃を抱きしめると、頬擦りを強要してきた。

「な、何事ですか? って、お髭が、お髭が、逃げられ、ふんにゅううーーっ!」

 必死に枝を突っ張るが、力負けた細い枝を挟んですぐのところに、無精髭は迫っていた。
 枝に全力を込めてそれ以上の接近を防ごうと格闘する雪乃だが、無精髭との間合いは、広がるどころか葉にくっ付きそうだ。
 巻き込まれているカイも、顔が引きつっている。

「置いてきたことは謝ります。ですから、冷静になってください。おとぉーさーんっ! ふんにゅうーーっ!」

 ついに雪乃は、叫んだ。もはや形振り構ってはいられない。
 とたんに、ぴたりと無精髭は止まった。少しだけ顔を遠ざけると、雪乃をじっと見つめる。それから、でれりと溶けた。

「ユキノちゃんもおとーさんがいなくて寂しかったんだねー。大声でおとーさんを呼ぶなんて」

 叫んだのはノムルを慕ってではなく、彼から逃れるために仕方なくだ。しかし真実を述べれば再び暴走しかねない。
 雪乃はそうっと気持ちに蓋をした。

「って、なんで狼までいるんだよ? 猫といい、気持ち悪いな」

 腕の中に雪乃だけでなくカイまでいることに気付いたノムルは、嫌そうに顔をしかめた。自分から抱きついたというのに、ひどい言い草である。
 ぺいっと放り捨てられたカイだが、憤りよりも呆れと解放されたことへの安堵をにじませていた。
 それはともかく、

「猫獣人さん達が、どうかしたのですか?」

 気になったことを、雪乃は聞いてみた。
 ノムルにしては珍しく、言いよどんで顔をしかめる。

「無垢なユキノちゃんは、知らなくていいんだよ。朝っぱらから裸踊りで騒ぐような変態どもの里なんて、忘れよう」

 慈愛溢れる表情で、ノムルは雪乃に微笑んできた。知らなくて良いと言いながら、しっかり口に出している。
 どうやらモイチドタビの実によって迷惑を掛けてしまったようだと、雪乃はしょぼーんっと萎れる。

「気にすることはありません。御子様を手に入れようと策を練っていたようですから、自業自得です。これで少しは反省するでしょう」

 吐き捨てるように、ビゼンが言った。

「どういうことだ?」

 すぐにノムルが反応する。だがビゼンはちらりと一瞥しただけで、答えない。

「どういうことでしょう?」

 今度は雪乃が問うてみる。

「猫族の長であるポチは、孫のミケとクロに命じて、御子様を籠絡しようと企んでいたのです」

 ビゼンはすんなりと答えた。
 視線を逸らした雪乃は、考えるようにふむうっと唸る。

「クロさんというのは?」
「ポチの孫娘にございます」
「毛の色は?」
「白色でございます」
「なるほど」

 気にするべきところが相変わらずずれている雪乃だが、本人は気にしない。
 外見と名前は不一致とするのが猫族の風習なのだと、雪乃は一人納得していた。
 実際はそんな風習はなく、名前どおりの姿をした猫族もいるのだが、彼女が知ることはなかった。
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