『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ヒイヅル編

343.小さな光の玉が

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 思わぬ衝撃告白に、雪乃は面食らって固まった。
 樹人の王が異世界と繋がる力を持つということは、雪乃がこの世界に連れてこられたのは、樹人の王の誕生が原因だったと考えられる。

「もしや、ムダイさんは私が巻き込んでしまったのでしょうか? 今度お会いしたら、謝っておきましょう」
 
 そんなことを考えていた雪乃の視界に、小さな光の玉が映る。弱々しい光はゆっくりと飛んできて、雪乃の枝に止まった。
 雪乃は自分に止まった光の玉を、じいっと見つめる。ピンポン玉ほどの大きさをした、薄っすらとした光は、吹けば消えてしまいそうだ。
 光の玉は一生懸命に、雪乃の枝に体を押し付けている。

「なんでしょう?」

 何がしたいのだろうかと、雪乃は幹を傾げた。

「精霊ですね。先代のお母様が失われ、先々代のお母様からも力をもらえず、弱っているのです」

 どうやら樹人の御子である雪乃を見つけて、力を分けてもらおうと近付いてきたようだ。

「どうすれば力を分けて上げられるのでしょうか?」

 顔を上げてラスエルに問いかけると、困ったように眉尻を下げる。

「一度体内に取り込み、開花と共に生まれなおさせることで元気になります。しかし今のお母様は幼木。精霊を癒すことはできないでしょう。獣人たちの元に行き、魔力をもらえば少しは延命できるかもしれませんが」

 与えられた答えに、雪乃は葉を萎らせる。
 そんな話をしている間も、精霊は必死に雪乃の体に入り込もうとしていた。
 雪乃は精霊に小枝をかざすと、

「気休めかもしれませんが、少しでも元気になってください」

 と、精霊に魔力を注いだ。
 その直後、ラスエルが目を見開く。 
 精霊は青白い光を取り戻し、大きさもテニスボールくらいに大きくなった。

「おお!」

 驚きの声を上げる雪乃だが、それ以上にラスエルのほうが驚いている。目を丸くして、雪乃と精霊を何度も見比べた。

「お母様はまだ幼木なのに、魔力を扱えるのですか?」

 どうやら幼木は魔力を扱えない状態が普通らしい。

「ええーっと、そうみたいです」

 戸惑いながら答える雪乃に、ラスエルは嬉しげに微笑んだ。

「当代のお母様は、多くの精霊をお生みになるかもしれませんね」

 一人きりだったラスエルにとって、弟妹が増えることは楽しみで仕方ないようだ。
 雪乃は子供を生むことになるのだという話題に、恥ずかしさでほんのり紅葉した。

「し、しかし、精霊さんを見たのは初めてです」

 話題を変えようと、雪乃は無理矢理に舵を切る。
 小首を傾げたラスエルは、

「精霊たちが弱っているから見えなかったのでしょうか? それとも、この森だから見えたのでしょうか?」

 と、不思議そうに辺りを見回す。
 雪乃もまた、釣られるように森を見渡した。

「先々代のお母様を慕って、精霊たちが集まっていますから。精霊たちは、この森から獣人の里へ通って、獣人たちに魔力をもらっているようです」

 獣人たちとノムルの会話を思い出した雪乃は納得する。
 大陸に比べてヒイヅル国のほうが魔法を使いやすいというのは、魔力を魔法に変換してくれる精霊たちが多くいたからのようだ。精霊たちのためにも、雪乃は早く樹人の王にならなければならないのだろう。

「この森で、全ての薬草が揃うのでしょうか?」

 ラスエルはわずかに眉を寄せると、首をゆるりと左右に振る。

「いいえ。どうしても根付かない植物があったので」

 叱られた子供のように、ラスエルは身を縮めて小声で答える。全ての薬草を揃えていなかったことを恥じているのだろうか。
 けれど返って来た雪乃の声は、明るかった。

「なるほど。つまり私の旅は、無駄ではなかったということですね」

 この森に来て、もやもやと胸につかえていたものが取れたようで、雪乃の表情は緩んでいた。
 ラスエルは意外そうに目を丸くして、雪乃を見つめている。

「ありがとうございます。集めていてくださって、助かりました」

 朗らかに葉をきらめかせる樹人の子供に、ラスエルも相好を崩す。

「お母様のお役に立てたのなら、嬉しいです」

 幼子のように、無邪気に笑う。


 ラスエルは先々代の洞の中で寝起きしていた。家具らしきものはなく、調理器具などもなかった。
 朝は共に日向ぼっこをしてから、森を散策する。
 樹人から生まれたエルフもまた、光合成ができるらしい。ただ光合成で得たエネルギーだけでは足りず、木の実や草の実を少し食べることもあるそうだ。

 薬草図鑑は次々と埋まっていく。
 エルフ領で見つけられなかった植物は、アイス国やツクヨ国といった極寒の地や、シーマー国やルグ国で見つけた熱帯気候にのみ自生する植物など、本当に極一部だけだった。
 マンドラゴラやプランタ・タルタリカ・バロメッツといった、動く薬草も見当たらなかったが。

 いったいこの一年間の旅はなんだったのだろうかと、雪乃は喜ぶ反面、現実逃避したくなっていた。

「さて、これで最後ですね」

 雪乃は最後の一株となる、マオーケウキナを前に仁王立ちになる。
 草丈の高いマオーケウキナの茎には、数センチ間隔で翡翠色をした四枚の葉が、十字架のように四方に向かって生えていた。

 にこにことラスエルが見守る中、雪乃はマオーケウキナを引っこ抜く。爽やかな芳香が広がると、初夏の暑さを清涼な風が冷やしていった。
 マオーケウキナがきらきらと輝き光の粒子となると、雪乃の体の中に吸収される。最後の粒子が幹へと消えたとたん、光の粒子が雪乃の体からあふれだし、小さな樹人は輝きだした。

「おおー?!」

 驚嘆の声を雪乃が上げた直後、ひらひらと揺れながら降りてくる、白いカードが視界に入った。
 半目になりながら受け取った雪乃は、一応、内容を確認する。

『おめでとうございます。薬草をコンプリートしました。進化が可能です。
   →魔王になる
    根を張る 』

 どんな状況でも、運営はぶれないようだ。
 憤りなのか、困惑なのか、呆れなのか、雪乃はふるふると震える。

(そこまで私を魔王にしたいのでしょうか?)

 光の粒子に包まれながら、雪乃は死んだ魚のような目で、どこともなく遠くを眺めた。
 ここまで旅を続け、色々な人に出会ってきた。すでにこの世界には、かつていた世界以上に愛着がある。魔王になってこの世界に危害を加えるなど、到底受け入れられるものではない。
 しかし根を張るというのも、すぐに選択することは躊躇われた。
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