炎の魔獣召喚士

平岡春太

文字の大きさ
172 / 208
第九章 サバイバル

 第三話 エンドラド

しおりを挟む
 フラムが再びヴァイトを身構える中、叢から何かが飛び出して来て、勢い良くフラムの横を通り過ぎて行った。
 訝しげなフラムとパルの視線だけが後を追った。

「今のって……」
「人のようだったでヤンス」
「それも子供だったような」

 直ぐにそれを追って、地響きが近付いて来る。
 更に木々を薙ぎ倒す音も近付いてくる。

「今度は何?」

 戻った視線の先に影が見えたかと思うと、木々を薙ぎ倒しながら迫り来るそれは、見た事もない巨大な魔獣だった。
 魔獣は怒り心頭の表情で、猛然と向かって来る。

「さっきの子供はあれに追われていたわけ?」
「フラム、こっちもまずいでヤンスよ」
「こういう時は決まってるでしょう」
「逃げるでヤンス!」

 背を向けて一目散に逃げ出した。
 入り組んだ木々の間を逃げ廻り、フラム達の姿を見失った魔獣が、辺りを見渡し、臭いを嗅いだりして森の奥へと走り去って行く。
 それを確認するようにして、叢の中からフラムとパルが頭を出した。

「あ~、びっくりした」

 ほっとした言葉を口にするが、フラムとパル以外にも重なるようにして同じ言葉を口にするものがもう一人いた。
 訝しげな顔を横に向けると、同じ様に訝しげな少年の顔が向かい合った。

「あーっ!!」

 思わず上げた驚きの声も重なり、慌てて少年が逃げ出そうとするも、フラムがその首根っこを捕まえて止める。

「ちょっと待って。あんたには訊きたい事があんのよ。煮たり喰ったりはしないから、大人しくして」
「外界では人間が人間を食べるのか?」

 少年の顔が少し青ざめ、更に暴れる。

「フラムが変な事言うからでヤンス」
「ゴメン、ゴメン、今のは単なる例え話だから。何も危害は加えないから、とにかく大人しくしてって」
「本当に?」

 訝しがってはいるものの、とりあえず頷くフラムの顔を見て、暴れるのは止めてくれた。

「やっと止まってくれた。それにしても、こっちではダルメキアの事を外界って言うのね。そもそもこの世界の住人じゃないってよく分かるわね」
「何となく、感じで分かるんだ」
「それより、言葉が通じてるでヤンス」
「ベスティオが喋ってる!?」
「ベスティオ? 魔獣の種類かしら。それとも魔獣そのものの事かしら。どちらにしろ、こっちでも喋る魔獣って珍しいんだ」

 吹き出しそうなフラムの顔がパルに向く。

「オイラはどうせ珍獣でヤンスよ」

 パルはむくれてそっぽを向く。

「ほら拗ねない、拗ねない。いつもの事でしょうに。でも、本当に話が通じてるみたいね。他の人も話せるの?」

 少年は首を横に振る。

「喋れる人もいるし、喋れない人もいる。俺は小さい頃から父ちゃんに外界の言葉を教わったから。父ちゃんはその昔、外界から来た人間に言葉を教わったって聞いた」
「へえ~、そうなんだ。それにしても、先生が言っていた通り、本当に魔界にも人間が居るんだ……」
「この世界の名前はエンドラドだ。魔界ではない」
「エンドラド? 名前もあるんだ。人が居るなら当然か。名前と言えば、自己紹介がまだだったわね。私はフラム。で、こっちが━━」
「パルでヤンス」

 まだむくれたままのパルに、フラムは呆れる。

「俺はトゥルムだ」
「そう、トゥルムって言うんだ。じゃあトゥルム、一つ訊くけど、ここから北って分かる?」
「訊きたい事ってそんな事か?」
「時間があればもっと色々な事を訊きたい所だけど、今は先を急ぐから」
「北か。確か方向の事だったな。でも、どこが北かは俺には分からない」
「そうよね。方向の概念がこちらと違うでしょうから。困ったわね……あっ、そうだ! ここから一番近い私達の世界を繋ぐ出入り口って分からない?」
「フラム……」
「それなら分かるぞ」
「そう、それならそこまで案内して欲しいんだけど」
「フラム……」
「さっきから何なのよ」

 肩にとまって頬を突っつくパルに、トゥルムと話していたフラムのムッとした顔を向ける。

「こっちは大事な話をしてるのに、いつまでむくれてんのよ」
「そうでないでヤンス。後ろでヤンスよ」
「後ろ?」

 後ろを振り返ると、さっきの得体の知れない魔獣が、怒り心頭の表情で今にも襲って来ようとしていた。
 横に向き直ると、トゥルムの姿はなく、既に少し前を走っていた。

「ちょっと待って!」

 慌てて走り出すフラムを、再び魔獣が追い掛ける。

「何で早く言わないのよ!」
「言おうとしたのに聞かなかったでヤンスよ!」
「何でこうなるのよ!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...