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第四章
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たった今何が起こったのか。状況判断ができずに私は立ち尽くしていた。
その日も私は午前中から診療所に出掛けていた。
子どもたちにお昼を食べさせ、小さい子にはミルクをあげて、お昼寝させるまでが私の仕事。
診療所を出て、本日のスイーツを買い込み(今日はクリームたっぷりのクレープ。労働の後のスイーツ最高)馬車道で待つトムの所へと向かっていた。
食べ歩きははしたないかなと思いながら頬張った時、目の前に急に人が立ちふさがりその人に正面からぶつかってしまった。
「ぶふっ!」
何とも情けない呻き声とともに顔面からぶつかり、気がつけば相手の胸元には私が食べようとしていたクレープが張り付いて、すぐに足元にべちゃりと落ちた。
ぶつかった相手も無言でクリームのついたシャツと足元に落ちたクレープ、そして私の顔を見下ろしている。
「す、すすす、すいません」
弾みで持っていたトムへのお土産のクレープも落とした私は真っ青になって付いたクリームをハンカチで拭う。
睨み付けるようにこちらを見る男性は、少し年上にもフォルトナー先生くらいにも見える。
カントリー歌手か西部劇のならず者みたいな黒い長髪はグレイ混じりで、頬から下に短めの黒髭を生やしている。
長い前髪が目に覆い被さっていて、ちょっとアフガン・ハウンドを思わせる。
これは、もしかして……おらおらどう落とし前をつけてくれるんだ?みたいな展開になるのでは。私は男の人の胸についたクリームを一生懸命落とそうとした。
「いや、いい…それより」
男性はぶっきらぼうにそう言い、シャツについたクリームを拭おうとする私の手を遮って、自分のジャケットのうちからハンカチを取り出し私の鼻と口に当てた。
彼がそのハンカチを無言でこちらへ向けると、そこにはクリームが付いていた。
「あ……」
クリームが付いた顔を見せていたと気付き、顔から火が出そうになった。
「す、すいません!ハンカチ、ハンカチ洗って返します。明日、洗って持ってきます。それから洋服は弁償します」
男の人の手からハンカチを引ったくり、思いっきり謝った。
顔についたクリームを初対面の男性に拭ってもらうとか、まるで幼児だ。
かなり背が高いその人は直立不動のまま、私の顔を凝視し続けている。
「いや、大した服ではないし、気にしなくていい。それに今日のうちにはここを離れるので、明日はもう……」
「じゃあ、ここで待っててください。すぐに戻ってきます」
私は男性を置いて近くの雑貨屋へ滑り込んだ。
急いだつもりだったが、それでも二十分近くかかって戻ってくると、男性は私が言ったとおりその場で待っていてくれた。
「すいません、お待たせして」
はあはあ言いながら私が駆け寄ると、男性に今買ってきた紙袋を差し出した。
「これは?」
紙袋を見て男性が訊ねる。
「ハンカチです。手持ちがなかったのであまりいいものは買えませんでしたが、洗ってお返しする時間がないみたいなので。もらってください。その代わり、これはいただいていきます」
私の顔のクリームを拭ったハンカチを見せる。
「いや、そこまでは」
「受け取ってください。服も汚してしまったし」
「ルーティアス様」
その時、男性の後ろから近づいてくる人物がいて、彼に声をかけた。
「……そろそろ」
「あ、ああすまない。すぐに行く……悪いがお嬢さん……人を待たせているので行かなくては」
後ろに立った人物はルーティアスと呼ばれた目の前の人の影になってはっきり見えたなかった。
「本当にすいませんでした。お洋服、なるべく早く洗濯してください。少ないですがこれも」
男性の手に自分が持っていたありったけのお金を握らせると、ペコリとお辞儀をして踵を返して、トムが待っている馬車道へと急いだ。
角の所で立ち止まって振り替えると、男性も仲間と共に立ち去るところだった。
その人とは偶然の出会いだと思っていた。そして二度と会うことはないと思っていたが、実はそうではなかったとわかったのは暫く後になってからだった。
その日も私は午前中から診療所に出掛けていた。
子どもたちにお昼を食べさせ、小さい子にはミルクをあげて、お昼寝させるまでが私の仕事。
診療所を出て、本日のスイーツを買い込み(今日はクリームたっぷりのクレープ。労働の後のスイーツ最高)馬車道で待つトムの所へと向かっていた。
食べ歩きははしたないかなと思いながら頬張った時、目の前に急に人が立ちふさがりその人に正面からぶつかってしまった。
「ぶふっ!」
何とも情けない呻き声とともに顔面からぶつかり、気がつけば相手の胸元には私が食べようとしていたクレープが張り付いて、すぐに足元にべちゃりと落ちた。
ぶつかった相手も無言でクリームのついたシャツと足元に落ちたクレープ、そして私の顔を見下ろしている。
「す、すすす、すいません」
弾みで持っていたトムへのお土産のクレープも落とした私は真っ青になって付いたクリームをハンカチで拭う。
睨み付けるようにこちらを見る男性は、少し年上にもフォルトナー先生くらいにも見える。
カントリー歌手か西部劇のならず者みたいな黒い長髪はグレイ混じりで、頬から下に短めの黒髭を生やしている。
長い前髪が目に覆い被さっていて、ちょっとアフガン・ハウンドを思わせる。
これは、もしかして……おらおらどう落とし前をつけてくれるんだ?みたいな展開になるのでは。私は男の人の胸についたクリームを一生懸命落とそうとした。
「いや、いい…それより」
男性はぶっきらぼうにそう言い、シャツについたクリームを拭おうとする私の手を遮って、自分のジャケットのうちからハンカチを取り出し私の鼻と口に当てた。
彼がそのハンカチを無言でこちらへ向けると、そこにはクリームが付いていた。
「あ……」
クリームが付いた顔を見せていたと気付き、顔から火が出そうになった。
「す、すいません!ハンカチ、ハンカチ洗って返します。明日、洗って持ってきます。それから洋服は弁償します」
男の人の手からハンカチを引ったくり、思いっきり謝った。
顔についたクリームを初対面の男性に拭ってもらうとか、まるで幼児だ。
かなり背が高いその人は直立不動のまま、私の顔を凝視し続けている。
「いや、大した服ではないし、気にしなくていい。それに今日のうちにはここを離れるので、明日はもう……」
「じゃあ、ここで待っててください。すぐに戻ってきます」
私は男性を置いて近くの雑貨屋へ滑り込んだ。
急いだつもりだったが、それでも二十分近くかかって戻ってくると、男性は私が言ったとおりその場で待っていてくれた。
「すいません、お待たせして」
はあはあ言いながら私が駆け寄ると、男性に今買ってきた紙袋を差し出した。
「これは?」
紙袋を見て男性が訊ねる。
「ハンカチです。手持ちがなかったのであまりいいものは買えませんでしたが、洗ってお返しする時間がないみたいなので。もらってください。その代わり、これはいただいていきます」
私の顔のクリームを拭ったハンカチを見せる。
「いや、そこまでは」
「受け取ってください。服も汚してしまったし」
「ルーティアス様」
その時、男性の後ろから近づいてくる人物がいて、彼に声をかけた。
「……そろそろ」
「あ、ああすまない。すぐに行く……悪いがお嬢さん……人を待たせているので行かなくては」
後ろに立った人物はルーティアスと呼ばれた目の前の人の影になってはっきり見えたなかった。
「本当にすいませんでした。お洋服、なるべく早く洗濯してください。少ないですがこれも」
男性の手に自分が持っていたありったけのお金を握らせると、ペコリとお辞儀をして踵を返して、トムが待っている馬車道へと急いだ。
角の所で立ち止まって振り替えると、男性も仲間と共に立ち去るところだった。
その人とは偶然の出会いだと思っていた。そして二度と会うことはないと思っていたが、実はそうではなかったとわかったのは暫く後になってからだった。
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