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第四章
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時系列に並べてみれば、それはまず結婚式の前に書かれたもの。
二番目に古いのは結婚式の翌日、再び戦場へ戻る朝に書かれたもの。
そしてベルトラン砦に着いてすぐのもの。
四通目はそれから一ヶ月後。
五通目はさらに間隔が空いて倒れる少し前に届いたものだった。
結婚式前に届いた手紙は、お見合いの釣書のように彼のプロフィールが書かれていた。
結婚相手となる自分がどういう人物かが客観的に書かれていた。
名前、生年月日、身長、体重。病歴まで。まるでカルテだ。
それから好きな本、好きな食べ物に好きなお酒。架空小説より旅行記などが好きなようだ。
遠征などに出ると食べ物の好みをいっていられないため、基本何でも食べるられるが、甘いものは苦手。お酒はうわばみらしくかなりの量を飲む。
好きな本は書斎を見ればわかった。
料理は邸の料理人の話によれば出された物は何でも文句をおっしゃらず食べていたということだ。デザートも残さず食べていたということだったが、実は甘いものは我慢して食べていたことがわかった。
残さず食べるというのは作った人に対する気遣いだったのかもしれない。
それから日々の彼の日課についても書かれていた。
朝早く起きて剣術の稽古をしてから軽く汗を流して朝食。
平時は王都にある軍本部に出勤し事務処理などを行い、時々部下と鍛練している。
夜会があるときは警護をするが、ない日は夕方には帰宅し侯爵としての仕事を行う。
判を押したような日常だった。
二通目、結婚式の翌日に書かれたものは、たった一日で戦場へ戻ることを謝る書き出しだった。
そして、どうやら二人はまだ本当の意味で夫婦にはなっていないことがわかった。
手紙にはクリスティアーヌを怖がらせたことを謝り、先に互いのことをよく知ってからもう一度話し合おうと書かれていた。
ということは、クリスティアーヌはまだ生娘だと言うことだ。
どんな風に怖がったのだろう。初めてで初夜についての知識もなく、ただ怯えていたのだろうか。
執事のダレクさんと侍女長のマリアンナさんに留守の間のことを任せており、優秀なので何かあれば二人が助けてくれるので頼るように、また月々の手当てとしてお金を渡すので好きに遣うようにとあった。
その金額に目を丸くした。
一万ダル。買い食いのお陰でこちらの世界の貨幣の使い方にずいぶん慣れてきた今だからわかる。
それがどんなにびっくりな金額か。
ドーナツひとつが一ダルだ。一万ダルはドーナツが一万個買える。
一ダル百円とすれば一万ダルは百万円。つまり月のお小遣いが百万円ということだ。
もちろんこれは例のお茶会の衣装とは別にだ。
公式行事に参加するための経費は別に交際費がある。
そして三通目。砦に無事着いたことを知らせる短い手紙だった。
そして四通目は侯爵家での暮らしは慣れたか、不自由はないかと訊ねる内容で、五通目はまだ少し帰ることができないとか、雪が深くなってきたこと。風邪など引かぬようにといった内容だった。
クリスティアーヌから手紙の返事がないことを責める言葉はどこにもなかった。
彼女の様子についてはダレクさんから報告を受けていたのかもしれない。
全ての手紙を読み終え、ルイスレーン様がクリスティアーヌを気にかけてくれていることが、よくわかった。
でもそこにあるのは男女の愛情ではなく、思いがけず自分の庇護下に入った年端もいかない小娘に対する思いやり。
恐らく邸に雇い入れている使用人に対しても彼は同じ気遣いを見せるだろう。
当たり前だ。二人の馴れ初めは一目惚れとかそんなのではないのだから。
兎に角、ルイスレーン様はクリスティアーヌとの結婚を心底嫌がってはいないみたいだ。
少なくともクリスティアーヌがここで不自由なく暮らせるようにと心を砕いてくれている。
先に届いていた分と一番最近届いた分の手紙を読み終え、彼のことを色々想像する。
フォルトナー先生の話では滅多に表情が変わらないらしい。
背も高く肖像画の前侯爵に似ている。
軍人なのだから体を鍛えているだろう。
実は筋骨隆々なのか、それとも細マッチョ?できればボディビルダー並の体格は好きではない。
声はどんな風?テノール?バリトン?それとも以外にかん高い?
手紙にはいつ戻ってこれるかといったことは書かれていない。
交際ゼロ日で結婚したのでお互いのことは殆ど知らない。
過去のクリスティアーヌと今のクリスティアーヌ。
見かけは同じでも中身は違う。
ルイスレーン様は今の私をどう思うだろうか。
二番目に古いのは結婚式の翌日、再び戦場へ戻る朝に書かれたもの。
そしてベルトラン砦に着いてすぐのもの。
四通目はそれから一ヶ月後。
五通目はさらに間隔が空いて倒れる少し前に届いたものだった。
結婚式前に届いた手紙は、お見合いの釣書のように彼のプロフィールが書かれていた。
結婚相手となる自分がどういう人物かが客観的に書かれていた。
名前、生年月日、身長、体重。病歴まで。まるでカルテだ。
それから好きな本、好きな食べ物に好きなお酒。架空小説より旅行記などが好きなようだ。
遠征などに出ると食べ物の好みをいっていられないため、基本何でも食べるられるが、甘いものは苦手。お酒はうわばみらしくかなりの量を飲む。
好きな本は書斎を見ればわかった。
料理は邸の料理人の話によれば出された物は何でも文句をおっしゃらず食べていたということだ。デザートも残さず食べていたということだったが、実は甘いものは我慢して食べていたことがわかった。
残さず食べるというのは作った人に対する気遣いだったのかもしれない。
それから日々の彼の日課についても書かれていた。
朝早く起きて剣術の稽古をしてから軽く汗を流して朝食。
平時は王都にある軍本部に出勤し事務処理などを行い、時々部下と鍛練している。
夜会があるときは警護をするが、ない日は夕方には帰宅し侯爵としての仕事を行う。
判を押したような日常だった。
二通目、結婚式の翌日に書かれたものは、たった一日で戦場へ戻ることを謝る書き出しだった。
そして、どうやら二人はまだ本当の意味で夫婦にはなっていないことがわかった。
手紙にはクリスティアーヌを怖がらせたことを謝り、先に互いのことをよく知ってからもう一度話し合おうと書かれていた。
ということは、クリスティアーヌはまだ生娘だと言うことだ。
どんな風に怖がったのだろう。初めてで初夜についての知識もなく、ただ怯えていたのだろうか。
執事のダレクさんと侍女長のマリアンナさんに留守の間のことを任せており、優秀なので何かあれば二人が助けてくれるので頼るように、また月々の手当てとしてお金を渡すので好きに遣うようにとあった。
その金額に目を丸くした。
一万ダル。買い食いのお陰でこちらの世界の貨幣の使い方にずいぶん慣れてきた今だからわかる。
それがどんなにびっくりな金額か。
ドーナツひとつが一ダルだ。一万ダルはドーナツが一万個買える。
一ダル百円とすれば一万ダルは百万円。つまり月のお小遣いが百万円ということだ。
もちろんこれは例のお茶会の衣装とは別にだ。
公式行事に参加するための経費は別に交際費がある。
そして三通目。砦に無事着いたことを知らせる短い手紙だった。
そして四通目は侯爵家での暮らしは慣れたか、不自由はないかと訊ねる内容で、五通目はまだ少し帰ることができないとか、雪が深くなってきたこと。風邪など引かぬようにといった内容だった。
クリスティアーヌから手紙の返事がないことを責める言葉はどこにもなかった。
彼女の様子についてはダレクさんから報告を受けていたのかもしれない。
全ての手紙を読み終え、ルイスレーン様がクリスティアーヌを気にかけてくれていることが、よくわかった。
でもそこにあるのは男女の愛情ではなく、思いがけず自分の庇護下に入った年端もいかない小娘に対する思いやり。
恐らく邸に雇い入れている使用人に対しても彼は同じ気遣いを見せるだろう。
当たり前だ。二人の馴れ初めは一目惚れとかそんなのではないのだから。
兎に角、ルイスレーン様はクリスティアーヌとの結婚を心底嫌がってはいないみたいだ。
少なくともクリスティアーヌがここで不自由なく暮らせるようにと心を砕いてくれている。
先に届いていた分と一番最近届いた分の手紙を読み終え、彼のことを色々想像する。
フォルトナー先生の話では滅多に表情が変わらないらしい。
背も高く肖像画の前侯爵に似ている。
軍人なのだから体を鍛えているだろう。
実は筋骨隆々なのか、それとも細マッチョ?できればボディビルダー並の体格は好きではない。
声はどんな風?テノール?バリトン?それとも以外にかん高い?
手紙にはいつ戻ってこれるかといったことは書かれていない。
交際ゼロ日で結婚したのでお互いのことは殆ど知らない。
過去のクリスティアーヌと今のクリスティアーヌ。
見かけは同じでも中身は違う。
ルイスレーン様は今の私をどう思うだろうか。
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