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第五章
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色々話し合った結果、私は明日一杯で暫く休みをもらうことになった。
明日は砦に駐屯していた軍隊が帰ってくる日。
あさってには王宮のパーティーに出る。そしてその次の日は陛下のお茶会だ。
「マリアンナ、旦那様のお部屋の支度は大丈夫?」
「はい。リネン類はすべて新しいのに変え、カーテンなども洗い終えました。お掃除も毎日してお部屋の空気も入れ換えております。お部屋は全て完璧です」
「お食事の方は?」
「旦那様のお好きなものをご用意しております。お食事に合うワインも」
優秀な使用人たちのお陰でルイスレーン様の帰還を明日に迎え、準備は滞りなく進んでいた。
私ができることは殆どなく、気持ちだけ焦る。
「私に何かすることは?」
「では明日の朝、お庭の花を摘んできて下さい。クリスティアーヌ様のお好みで」
そう言われ、帰還の日の朝、庭師と一緒に花を選んだ。
仕事のできる庭師がいて庭にはいつも花がたくさん咲いている。
王都にあって庭付き邸宅を持つということはなかなかリンドバルグ侯爵家はかなり裕福みたいだ。
ドレスを作ることにいちいちびくびくしている私は前世社長令嬢のわりに小市民かも知れない。
どことなく暗い色味の落ち着いた雰囲気のルイスレーン様の部屋にあまり色とりどりの色もどうかと思い、白を中心に花を選んだ。
凱旋パレードが行われる通りに面した店などは華々しい飾り付けがされ、王都内はお祝いムード一色だ。
もともとこの戦争はカメイラ国がしかけてきたもの。その終わり方も彼の国のクーデターによる政権交代という、自滅型と言える。
武力により相手国を完膚なきまでに叩き潰したものではないが、それでもエリンバルアの勝利には違いない。
第二皇子率いる前線部隊がベルトラン砦で相手を足留めしてくれたお陰でエリンバルアの都市や村が戦火に巻き込まれることなく、非戦闘員である国民に誰一人被害がなかったことを国民の誰もが知っている。
だからこそのお祝いムード。彼らは英雄と讃えられる。
パレードは正午の鐘とともに始まる。
いつもはちょうど診療所で子どもたちの食事の世話をしている頃だ。
「今日は早めに食事を取って皆でパレードを見に行こう」
大きい子どもたちが行きたがったこともあり、ニコラス先生が提案した。
グレンダさんも旦那様が一団の中に入っていることもあり、本当は行きたいと思っていた。
「きっと大勢の人がいるだろうから、迷子には気をつけてね」
大きい子が小さい子の手を繋ぎ、大人も小さい子の手を繋いで皆で大通りまで歩いて行くと、随分手前からたくさんの人が並んでいた。
引率は大人が五人。それぞれに子どもたちを二人ずつ連れて、固まって歩いていった。
ちょうど正午の鐘が鳴り響いた。
私たちが立っているのは正門から王宮までのちょうど中間あたりだった。
だから鐘がなってもすぐには一団は見えない。
鐘が鳴って、子どもたちが数分おきに口々にまだかまだかと催促してくる。
何十回目の「もうすぐ」を言った時、大通りの向こうから歓声が徐々に近づいてきた。
そうは言ってもずいぶん距離があるのか、歓声が聞こえだしてからさらに時間がかかった。
ようやく通りの中央をこちらへ向かってやってくる一団の影が見えた。
先頭は当然総大将であるオリヴァー殿下だ。
その後ろに恐らくルイスレーン様がいる。何しろ彼は副官だ。
ルイスレーン様は私に気づくだろうか。
私は彼の顔を覚えていないが、彼は私とは違う。
グレンダさんたちの影になるように立ちながら、一団が近づいてくる方向をじっと見守った。
明日は砦に駐屯していた軍隊が帰ってくる日。
あさってには王宮のパーティーに出る。そしてその次の日は陛下のお茶会だ。
「マリアンナ、旦那様のお部屋の支度は大丈夫?」
「はい。リネン類はすべて新しいのに変え、カーテンなども洗い終えました。お掃除も毎日してお部屋の空気も入れ換えております。お部屋は全て完璧です」
「お食事の方は?」
「旦那様のお好きなものをご用意しております。お食事に合うワインも」
優秀な使用人たちのお陰でルイスレーン様の帰還を明日に迎え、準備は滞りなく進んでいた。
私ができることは殆どなく、気持ちだけ焦る。
「私に何かすることは?」
「では明日の朝、お庭の花を摘んできて下さい。クリスティアーヌ様のお好みで」
そう言われ、帰還の日の朝、庭師と一緒に花を選んだ。
仕事のできる庭師がいて庭にはいつも花がたくさん咲いている。
王都にあって庭付き邸宅を持つということはなかなかリンドバルグ侯爵家はかなり裕福みたいだ。
ドレスを作ることにいちいちびくびくしている私は前世社長令嬢のわりに小市民かも知れない。
どことなく暗い色味の落ち着いた雰囲気のルイスレーン様の部屋にあまり色とりどりの色もどうかと思い、白を中心に花を選んだ。
凱旋パレードが行われる通りに面した店などは華々しい飾り付けがされ、王都内はお祝いムード一色だ。
もともとこの戦争はカメイラ国がしかけてきたもの。その終わり方も彼の国のクーデターによる政権交代という、自滅型と言える。
武力により相手国を完膚なきまでに叩き潰したものではないが、それでもエリンバルアの勝利には違いない。
第二皇子率いる前線部隊がベルトラン砦で相手を足留めしてくれたお陰でエリンバルアの都市や村が戦火に巻き込まれることなく、非戦闘員である国民に誰一人被害がなかったことを国民の誰もが知っている。
だからこそのお祝いムード。彼らは英雄と讃えられる。
パレードは正午の鐘とともに始まる。
いつもはちょうど診療所で子どもたちの食事の世話をしている頃だ。
「今日は早めに食事を取って皆でパレードを見に行こう」
大きい子どもたちが行きたがったこともあり、ニコラス先生が提案した。
グレンダさんも旦那様が一団の中に入っていることもあり、本当は行きたいと思っていた。
「きっと大勢の人がいるだろうから、迷子には気をつけてね」
大きい子が小さい子の手を繋ぎ、大人も小さい子の手を繋いで皆で大通りまで歩いて行くと、随分手前からたくさんの人が並んでいた。
引率は大人が五人。それぞれに子どもたちを二人ずつ連れて、固まって歩いていった。
ちょうど正午の鐘が鳴り響いた。
私たちが立っているのは正門から王宮までのちょうど中間あたりだった。
だから鐘がなってもすぐには一団は見えない。
鐘が鳴って、子どもたちが数分おきに口々にまだかまだかと催促してくる。
何十回目の「もうすぐ」を言った時、大通りの向こうから歓声が徐々に近づいてきた。
そうは言ってもずいぶん距離があるのか、歓声が聞こえだしてからさらに時間がかかった。
ようやく通りの中央をこちらへ向かってやってくる一団の影が見えた。
先頭は当然総大将であるオリヴァー殿下だ。
その後ろに恐らくルイスレーン様がいる。何しろ彼は副官だ。
ルイスレーン様は私に気づくだろうか。
私は彼の顔を覚えていないが、彼は私とは違う。
グレンダさんたちの影になるように立ちながら、一団が近づいてくる方向をじっと見守った。
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