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第十章
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陛下に言われたヒギンスに遭うため商業ギルドを訪れた。
リンドバルク侯爵としてではなく、ルーティアス・ニールセンとしてギルドを訪れる。
ギルドの建物は三階建て。一階が受付兼待合所や一般的な食堂、仕事斡旋業の事務所もある。
二階が職員の事務所といくつかの会議室、三階がギルド長他幹部の部屋と特別室があり、特別会員だけが利用できるラウンジも設置されている。
ギルド員として利用出来るのは二階まで。三階を利用するには特別許可がいる。
二階から三階へと続く階段には扉が設置され、その前にはギルド職員が常に待機して利用者の確認を行っている。
「やあ、ゼイン」
「こんにちは、ニールセンさん。随分お久しぶりですね」
顔馴染みの職員に挨拶をする。
「戦争が終わるまでは色々と物騒だから、南の方を廻っていたんだ」
許可証を提示して扉を開けてもらう。
「またおもしろい話があったら教えて下さい」
背中からゼインが声をかけるのを、手を振って答えながら三階へと昇る。
階段を上がりきった所で右に行けばギルド長たちの個室。左に行けばラウンジになっている。
迷わず左に曲がり、扉を開けると短い廊下が続き、角を曲がるともうひとつ扉があった。
中に入ると部屋の中央にバーカウンターがあり、応接ソファーが四脚と低いテーブルの応接セットが何組も設置されている。
昼でも酒が飲めるとあって何人かはすでに出来上がっているが、額を突き合わせて商談する者もいる。
ここでのルールはただひとつ。揉め事を起こせば即時許可取り消し。
バーカウンターは誰も居らず、スタッフが一人カウンターの向こうにいる。スツールのひとつに腰かけ、ワインを一杯注文した。
「お久しぶりですね、ニールセン様。半年振りですか?」
「七ヶ月だ。ここはあまり変わらないな、ヒギンス」
ヒギンスと呼ばれた男は年は三十代半ばで眼鏡をかけ、長い茶髪を後ろでひとつに束ね、ひょろりとしている。
ここに入る許可を取るにはそれなりの資金と信用が必要になる。見渡してこの場にいる顔ぶれが以前にも見たことのある者たちばかりだった。
「そうでもないですよ。今日はいませんが、最近は新顔も増えました」
「そうか……」
ヒギンスがグラスに注いだワインを目の前に置く。それを手に取りひとくち口に含む。
商談ギルドだけあって、ここの酒類の品揃えは種類も質もかなりのものだった。
登録している商人たちが、自分達の扱う商品を売り込み、ここでそれを口にした他の商人が、気に入ったものを買い付けることもあるため、皆こぞって品物を置きたがる。
「何か変わったことは?」
出されたワインは中々のものだった。
「五大老に近々交代があるかもしれません」
小声で彼が囁く。
「五大老に?」
五大老とは商業ギルドのトップ五人のことで、その殆どが複数の品を扱い手広く商売をしている。穀物、野菜、薬、酒類、衣類、貴金属、家畜など複数の品物を扱い、流通させている者がなっている。ギルド長は五大老から推薦を受けた人物でなければならない。
「どういうことだ?」
五大老は特に世襲性というわけではないが、子や孫に自分の商会を譲り、五大老になるには、他の四人の承諾が必要になる。
「五大老の最長老、ヴェッティオさんがそろそろ引退する。彼には娘婿しかいなくて、その娘婿はとても五大老の器ではない。何しろもとは皮職人ですから。経営の方は実の娘の方が上手いらしいので、彼の商会は潰れることはないでしょうが、五大老となると……」
「そうだな。まず女性はムリだ。それで、彼の商会は五大老を退くのか」
「そういうもっぱらの噂です」
「後釜はもう決まっているのか?」
五大老はギルド内だけでなく王宮からも一目置かれ、新しい法案が検討される時には彼らの意見が重要視される。
また、五大老が連名で上訴したことには、王は必ず何らかの回答や対策を講じる義務がある。
「候補は二人。一人はリッテンハルク」
「ああ、あの絹織物や絨毯で有名な。いい職人を抱えているらしいな」
「そしてもう一人はモーシャス」
「モーシャス?聞いたことがあったかな」
「どうも外国出身らしいです。扱うのは魔石を使った道具類ということですが……」
ヒギンスが眉を潜める。
「ここだけの話、武器も扱うそうです。この前までの戦争でかなり儲けたみたいで、最近羽振りがいい」
「だが、戦争は終わった」
「そうなんです。それが結果どうなるか……」
「そもそも五大老ならそんな黒い噂のある人物が認められるわけがない」
「それがそうでもないんです」
「どういう意味だ?」
その時、ガヤガヤと賑やかな一団が入ってきた。
リンドバルク侯爵としてではなく、ルーティアス・ニールセンとしてギルドを訪れる。
ギルドの建物は三階建て。一階が受付兼待合所や一般的な食堂、仕事斡旋業の事務所もある。
二階が職員の事務所といくつかの会議室、三階がギルド長他幹部の部屋と特別室があり、特別会員だけが利用できるラウンジも設置されている。
ギルド員として利用出来るのは二階まで。三階を利用するには特別許可がいる。
二階から三階へと続く階段には扉が設置され、その前にはギルド職員が常に待機して利用者の確認を行っている。
「やあ、ゼイン」
「こんにちは、ニールセンさん。随分お久しぶりですね」
顔馴染みの職員に挨拶をする。
「戦争が終わるまでは色々と物騒だから、南の方を廻っていたんだ」
許可証を提示して扉を開けてもらう。
「またおもしろい話があったら教えて下さい」
背中からゼインが声をかけるのを、手を振って答えながら三階へと昇る。
階段を上がりきった所で右に行けばギルド長たちの個室。左に行けばラウンジになっている。
迷わず左に曲がり、扉を開けると短い廊下が続き、角を曲がるともうひとつ扉があった。
中に入ると部屋の中央にバーカウンターがあり、応接ソファーが四脚と低いテーブルの応接セットが何組も設置されている。
昼でも酒が飲めるとあって何人かはすでに出来上がっているが、額を突き合わせて商談する者もいる。
ここでのルールはただひとつ。揉め事を起こせば即時許可取り消し。
バーカウンターは誰も居らず、スタッフが一人カウンターの向こうにいる。スツールのひとつに腰かけ、ワインを一杯注文した。
「お久しぶりですね、ニールセン様。半年振りですか?」
「七ヶ月だ。ここはあまり変わらないな、ヒギンス」
ヒギンスと呼ばれた男は年は三十代半ばで眼鏡をかけ、長い茶髪を後ろでひとつに束ね、ひょろりとしている。
ここに入る許可を取るにはそれなりの資金と信用が必要になる。見渡してこの場にいる顔ぶれが以前にも見たことのある者たちばかりだった。
「そうでもないですよ。今日はいませんが、最近は新顔も増えました」
「そうか……」
ヒギンスがグラスに注いだワインを目の前に置く。それを手に取りひとくち口に含む。
商談ギルドだけあって、ここの酒類の品揃えは種類も質もかなりのものだった。
登録している商人たちが、自分達の扱う商品を売り込み、ここでそれを口にした他の商人が、気に入ったものを買い付けることもあるため、皆こぞって品物を置きたがる。
「何か変わったことは?」
出されたワインは中々のものだった。
「五大老に近々交代があるかもしれません」
小声で彼が囁く。
「五大老に?」
五大老とは商業ギルドのトップ五人のことで、その殆どが複数の品を扱い手広く商売をしている。穀物、野菜、薬、酒類、衣類、貴金属、家畜など複数の品物を扱い、流通させている者がなっている。ギルド長は五大老から推薦を受けた人物でなければならない。
「どういうことだ?」
五大老は特に世襲性というわけではないが、子や孫に自分の商会を譲り、五大老になるには、他の四人の承諾が必要になる。
「五大老の最長老、ヴェッティオさんがそろそろ引退する。彼には娘婿しかいなくて、その娘婿はとても五大老の器ではない。何しろもとは皮職人ですから。経営の方は実の娘の方が上手いらしいので、彼の商会は潰れることはないでしょうが、五大老となると……」
「そうだな。まず女性はムリだ。それで、彼の商会は五大老を退くのか」
「そういうもっぱらの噂です」
「後釜はもう決まっているのか?」
五大老はギルド内だけでなく王宮からも一目置かれ、新しい法案が検討される時には彼らの意見が重要視される。
また、五大老が連名で上訴したことには、王は必ず何らかの回答や対策を講じる義務がある。
「候補は二人。一人はリッテンハルク」
「ああ、あの絹織物や絨毯で有名な。いい職人を抱えているらしいな」
「そしてもう一人はモーシャス」
「モーシャス?聞いたことがあったかな」
「どうも外国出身らしいです。扱うのは魔石を使った道具類ということですが……」
ヒギンスが眉を潜める。
「ここだけの話、武器も扱うそうです。この前までの戦争でかなり儲けたみたいで、最近羽振りがいい」
「だが、戦争は終わった」
「そうなんです。それが結果どうなるか……」
「そもそも五大老ならそんな黒い噂のある人物が認められるわけがない」
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「どういう意味だ?」
その時、ガヤガヤと賑やかな一団が入ってきた。
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