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第十一章

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ようやく空が白み始める頃には、私はぐったりと心地好い疲れに身を任せ、重くなった瞼を閉じた。

叔父の暴力を思い出して恐怖に目覚めてから、ルイスレーンと色々な話をした。遅く帰って疲れている筈なのに、辛抱強く話を聞いてくれた。
おかげでずっと心にあった重しが取れた気分だ。
彼と抱き合うのは今日で四度目だったが、初めて自分の全てをさらけ出した気持ちで繋がり、これまでと比べ物にならない快感で絶頂を迎えた。
彼も同じであってくれたらいいと思いながら、続いた寝不足と体力の消耗のせいで、次に目覚めたのは昼前だった。
体はすでに拭き浄められ、下着は付けていないが真新しい夜着にくるまれている。

彼は既に起きて仕事に行っている時間だ。
ふとサイドボードに目をやると、睡眠導入剤の包みが無くなっていた。

その日はどこにも出掛けず、ニコラス先生から託された寄付金の使い道について考えた。

出来れば今度は屋外を整備したいと思っている。どこまでできるかわからないが、シーソーや何かの遊具を設置したい。
ニコラス先生の所に明日にでも持って行こうと半日かけて計画を練る。出来ればルイスレーンにも意見を聞きたいと思ったが、忙しいから無理だと諦めていると、今日はルイスレーンの帰りが早いので夕食を一緒に食べようと連絡があったとダレクが伝えに来た。

「お帰りなさいませ」

入浴と着替えを済ませて待っていると七時になる頃にルイスレーンが帰宅した。

私を見て少しは緩んだが、玄関を潜った時には難しい顔をしていた。

「待っていてくれたのか」
「はい」

近づいて手袋を外した手で私の頬を撫でる。少し前に戦争から帰還した彼を出迎えた時には不安いっぱいだった。たった数日で彼の帰宅が待ち遠しくなるなんて思ってもみなかった。

先に食堂へ行き彼が着替えを終えて入ってくる。最初の夜に席を移動させてから、今では固定席になっている。

「食事が終わったら少しお時間をいただけますか?相談したいことがあります」

「わかった。書斎で構わないか?私も話がある」

今夜のメインは鶏肉の香草焼き。ルイスレーンはワインを嗜み、私は一杯だけ頂いた。デザートはカスタードパイ。もちろん食べたのは私だけ。お茶とお酒を書斎に運んでもらうように頼み、二人で書斎に向かった。

「話とは?」

お茶とお酒が運ばれ、二人きりになるとルイスレーンが訊ねてきた。長椅子にぴたりと寄り添い座っている。話をするにはいいけど、体温を感じるくらい近くなので変に意識してしまう。

「あの…実はニコラス先生の所の保育所のことなのですが、少し前に訪問した時にいらっしゃったお客様を先生の代わりに案内したのですが、その方が大金を寄付してくれて、ニコラス先生がそのお金を保育所でどう使うか考えて欲しいと言われたのです」
「ベイル氏がそんなことを?」

私の話を聞いて彼は意外そうな顔をする。

「やっぱりおかしいですよね。私みたいなのがそんなことを頼まれるなんて」
「そうではなくて……彼は腕はいいのだが、何と言うか目上の者に媚びない人で、上司からも疎まれていた。何しろ物言いがはっきりしていて迷いがない。凡人ならできないことを何でも器用にこなす反面、上司だろうが貴族だろうが気に入らないものは気に入らないと真っ向から言う方だった。そんな彼だから、会って間もないあなたをそこまで信頼していることに驚いている」

先生を見ていて多分そんな人なんだろうなとは思っていた。腕がいくら良くても身分社会で上司や貴族の受けが悪いと出世もままならないだろう。先生が出世それを望んでいたとは考えにくいが。

「見せてみなさい」
「え……?」
「話の流れから、あなたのことだから前世で得た知識で何か思い付いたというところかな。それで私の意見が聞きたい。違うか?ならその使い道とやらを見せてみなさい」
「はい。でも前世では当たり前のこともこちらではそうでないかも知れなくて……」

私は彼に初めて書いた「企画書?」的なものを見せた。

「こんなものまで書いたのか?」

彼は私の徹底ぶりに驚いたみたいだけど、本格的に会社勤めした経験のない私の企画書もどきを彼はじっくりと読んだ。

「これは…こんな道具まで作るのか?」
「えっと、これはジャングルジムっていうの。昇ったり潜ったりして腕の力が鍛えられるの。こっちはシーソーと言って…」

彼の手元にある書類を身を乗り出して指を差して説明する。

「アイリ……」

名を呼ばれてはっと気づく。彼がまだ読んでいる途中なのに横からでしゃばり過ぎた。

「やだ、ごめんなさい。まだあなたが読んでいるのに……」

ぱっと書類から手を離して謝る。眉が寄り口元が強張っている。

「そうではない……いや、いい続けて」

「はい………」

何だか何かを我慢しているみたいに思えたが、気を取り直して残りを説明した。
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