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番外編 公開模擬試合
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それぞれの大将はマントに同じ色の羽根飾りを付けている。大将を負かすということはつまり、あの羽根を奪うことになる。ただし、大将の周りには腕の立つ護衛も大勢いて、そこへ行くまでにも多くの味方の兵がいる。そして、当然、大将も応戦して抵抗するので、制限時間内に大将を打ち負かすのはなかなか難しいらしい。
オリヴァー殿下やイヴァンジェリン様には申し訳ないが、ここは是非とも白軍に勝って欲しいところだ。
「陛下」
「うむ」
その場に陛下が立ち上がり手を上げる。すぐ近くに銅鑼が置かれ、陛下の合図でそれが打ち鳴らされると模擬試合の開始となる。
ドオオオオオオン。
耳をつんざくような音が鳴り響き、模擬試合が始まった。
ワアアアアアアー
オオオオオオー
地響きのような掛け声と大勢の足音。ぶつかり合う鋼の音が響き渡り、空気が震える。人数にして五百人の兵士たちが一斉に走り込み、互いの剣と剣をぶつけ合う。
「す、すごい……」
模擬試合と言えど本気の打ち合いの迫力に驚く。ざっと東京ドームひとつ分の広さ……もう少し広いかもしれないが、そこに赤白の鉢巻きが入り乱れる。
「どう?始めてみる模擬試合は」
イヴァンジェリン妃が顔を寄せて訊いてこられた。
それくらい近くに顔を寄せないと、ぶつかりあう鋼の音や気合いの入った叫び声などで掻き消されてしまう。
「す、すごい……迫力です」
視覚聴覚だけでなく肌に直接伝わる空気の波動。次々と赤軍、白軍の兵士たちが脱落していく。
「ふむ……今のところ互角かな」
陛下の言うとおり見た感じでは赤と白の数はまだどちらが多いとも言えないし、互いの陣地もそれぞれ最初の頃からあまり動いていない。
「奥様、こちらを……」
ギオーヴさんが横からオペラグラスのようなものを差し出してくれた。
正面向かって右が赤軍、左が白軍。私は迷わず白軍の大将の方にグラスを向けた。
台座の上に立ち、鞘に納めたままの剣をまっすぐ正面に突き立て、柄の部分を握りしめて立つルイスレーンの姿がレンズ越しに見えた。
焦りもなく冷静に戦局を見詰めている。すぐ傍にはカイルもいて、何人かの兵士が代わる代わる彼に状況を報告している。
ふとルイスレーンの視線が動き、こちらを見た気がした。口角を上げ、目を細めるその表情に思わずどきりとして、覗いていたグラスから目を離した。
「お!陣が動いたぞ」
陛下が前のめりになり、叫んだのを聞き裸眼で見ると、白軍の左翼が赤軍を押し始めた。一瞬遅れで白軍の右翼も赤軍の陣地に食い込み始め、押し出された赤軍の中央にいた兵士が本体から切り離され、あっという間に赤軍の兵士から鉢巻きが奪われていった。
「怯むな!まだ敗けではない!」
「行け!勝利は我が白軍の手に!」
ここまで聞こえる程の声でオリヴァー殿下とルイスレーンが互いの陣営の兵士を鼓舞する。
「そろそろ一時間半が経ちます」
ギオーヴさんが手元の懐中時計を見て教えてくれた。
赤軍の数と白軍の数は今は二対三で白軍が少し優勢だ。兵士の数も始まりから半分くらいになっている。
「あ!」
白軍の兵士の何人かが赤軍の陣地に切り込み、大将の目前まで行ったが、護衛に阻まれ倒れた。その後ですぐに赤軍からも何人かが大将を取り囲む護衛に迫り、同じように倒された。
「惜しい……どちらもまったくひけを取っておらんな」
陛下がイヴァンジェリン妃と私に声を掛ける。
「本当に……いつもはもう少し早く均衡が崩れるのですけどね」
「そうなんですか……」
模擬試合を見るのは初めてなので、こういうものだと思っていた。
「前回は白軍の大将はリンドバルク卿ではなかったので、公平を期すため赤軍もオリヴァー殿下ではなかったの。どちらも中将クラスが大将だったし、兵士の数も最初から今日の半分もなかったわ」
「此度はどちらも気合い十分だな。なかなか見応えのある試合だ」
そうこうしている内に赤軍の大将を護る兵士の何人かが倒され、オリヴァー殿下が鞘を抜き応戦し出した。
「臆するな!」
殿下が叫び、向かってくる白軍の兵士を叩きのめし、鉢巻きを奪い去っていく。
白軍も少し経つと護衛が何人か打ち倒され、大将であるルイスレーンも剣を鞘から抜いて戦っている。
「頑張って、ルイスレーン」
一対一の時もあれば左右から攻撃される時もある。それら全てを叩きのめしていくルイスレーンの勇姿を見て、そのかっこよさに胸が高鳴った。
「そこまで!」
ゴオオオオオンと銅鑼が打ち鳴らされ、制限時間が終了した。
ピタリと辺りが静かになり、土埃だけがもうもうと舞い上がり、やがてそれも風に流されていった。
「一目瞭然だな」
残った兵士たちがそれぞれの陣営で整列し、赤と白の比率を見る。
白軍の勝利だった。
オリヴァー殿下やイヴァンジェリン様には申し訳ないが、ここは是非とも白軍に勝って欲しいところだ。
「陛下」
「うむ」
その場に陛下が立ち上がり手を上げる。すぐ近くに銅鑼が置かれ、陛下の合図でそれが打ち鳴らされると模擬試合の開始となる。
ドオオオオオオン。
耳をつんざくような音が鳴り響き、模擬試合が始まった。
ワアアアアアアー
オオオオオオー
地響きのような掛け声と大勢の足音。ぶつかり合う鋼の音が響き渡り、空気が震える。人数にして五百人の兵士たちが一斉に走り込み、互いの剣と剣をぶつけ合う。
「す、すごい……」
模擬試合と言えど本気の打ち合いの迫力に驚く。ざっと東京ドームひとつ分の広さ……もう少し広いかもしれないが、そこに赤白の鉢巻きが入り乱れる。
「どう?始めてみる模擬試合は」
イヴァンジェリン妃が顔を寄せて訊いてこられた。
それくらい近くに顔を寄せないと、ぶつかりあう鋼の音や気合いの入った叫び声などで掻き消されてしまう。
「す、すごい……迫力です」
視覚聴覚だけでなく肌に直接伝わる空気の波動。次々と赤軍、白軍の兵士たちが脱落していく。
「ふむ……今のところ互角かな」
陛下の言うとおり見た感じでは赤と白の数はまだどちらが多いとも言えないし、互いの陣地もそれぞれ最初の頃からあまり動いていない。
「奥様、こちらを……」
ギオーヴさんが横からオペラグラスのようなものを差し出してくれた。
正面向かって右が赤軍、左が白軍。私は迷わず白軍の大将の方にグラスを向けた。
台座の上に立ち、鞘に納めたままの剣をまっすぐ正面に突き立て、柄の部分を握りしめて立つルイスレーンの姿がレンズ越しに見えた。
焦りもなく冷静に戦局を見詰めている。すぐ傍にはカイルもいて、何人かの兵士が代わる代わる彼に状況を報告している。
ふとルイスレーンの視線が動き、こちらを見た気がした。口角を上げ、目を細めるその表情に思わずどきりとして、覗いていたグラスから目を離した。
「お!陣が動いたぞ」
陛下が前のめりになり、叫んだのを聞き裸眼で見ると、白軍の左翼が赤軍を押し始めた。一瞬遅れで白軍の右翼も赤軍の陣地に食い込み始め、押し出された赤軍の中央にいた兵士が本体から切り離され、あっという間に赤軍の兵士から鉢巻きが奪われていった。
「怯むな!まだ敗けではない!」
「行け!勝利は我が白軍の手に!」
ここまで聞こえる程の声でオリヴァー殿下とルイスレーンが互いの陣営の兵士を鼓舞する。
「そろそろ一時間半が経ちます」
ギオーヴさんが手元の懐中時計を見て教えてくれた。
赤軍の数と白軍の数は今は二対三で白軍が少し優勢だ。兵士の数も始まりから半分くらいになっている。
「あ!」
白軍の兵士の何人かが赤軍の陣地に切り込み、大将の目前まで行ったが、護衛に阻まれ倒れた。その後ですぐに赤軍からも何人かが大将を取り囲む護衛に迫り、同じように倒された。
「惜しい……どちらもまったくひけを取っておらんな」
陛下がイヴァンジェリン妃と私に声を掛ける。
「本当に……いつもはもう少し早く均衡が崩れるのですけどね」
「そうなんですか……」
模擬試合を見るのは初めてなので、こういうものだと思っていた。
「前回は白軍の大将はリンドバルク卿ではなかったので、公平を期すため赤軍もオリヴァー殿下ではなかったの。どちらも中将クラスが大将だったし、兵士の数も最初から今日の半分もなかったわ」
「此度はどちらも気合い十分だな。なかなか見応えのある試合だ」
そうこうしている内に赤軍の大将を護る兵士の何人かが倒され、オリヴァー殿下が鞘を抜き応戦し出した。
「臆するな!」
殿下が叫び、向かってくる白軍の兵士を叩きのめし、鉢巻きを奪い去っていく。
白軍も少し経つと護衛が何人か打ち倒され、大将であるルイスレーンも剣を鞘から抜いて戦っている。
「頑張って、ルイスレーン」
一対一の時もあれば左右から攻撃される時もある。それら全てを叩きのめしていくルイスレーンの勇姿を見て、そのかっこよさに胸が高鳴った。
「そこまで!」
ゴオオオオオンと銅鑼が打ち鳴らされ、制限時間が終了した。
ピタリと辺りが静かになり、土埃だけがもうもうと舞い上がり、やがてそれも風に流されていった。
「一目瞭然だな」
残った兵士たちがそれぞれの陣営で整列し、赤と白の比率を見る。
白軍の勝利だった。
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