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番外編 その後の二人
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子どもが一人でなく二人だとルイスレーンがダレクとマリアンナに告げた。
「二人…」
「まあ…」
二人の視線が座っている私のお腹に行く。
「そういうこと…です」
「そういうことだから、これからスベンとベイル、それに今日来ていた産婆の女性、モアラが彼女のお産に関わる。皆も細心の注意を払ってくれ」
「ルイスレーン、そんな大袈裟な…」
「いいや、君は一人でも大変なのに二人分の命をその体で育のだ。もっと母体に負担がかかるのは目に見えている。どんなことが起こるかわからない。どんな些細な異変も見逃さないよう皆にも肝に銘じてもらうべきだ」
「旦那様の仰るとおりです。使用人全員に奥様には注意を払うよう伝えておきます」
「クリスティアーヌ様が安心してお産に挑めるよう、私達も全力を尽くします」
ルイスレーンの思いが伝わったのかダレクもマリアンナも気合十分に答え、私以上に力が入っている。
「ようやく悪阻も収まってこられたなら、まずは落ちた体重を元に戻さなければなりませんね」
マリアンナは私の体重を増やそうと今から何を食べさせようか頭の中の考えが口から洩れている。
「マリアンナ、そんなに一度には食べられないわ。悪阻が収まったからと言って胃が大きくなったわけではないのだし…」
大量の食べ物を目の前に並べられる様が思い浮かんでくる。お腹の子と三人分を食べさせられかねない。
「太りすぎるとかえってよくないと聞くわ。適正体重というのがあるそうよ。体重が増えるのは子どもが大きくなる分だけで、母親が太ったら産道が狭くなって出産が大変らしいわ」
愛理の時も実際に出産したことはないが、何かの記事で目にしたことがある。
子どものためとほしいままに食べていたら、結局は自分を苦しめることになる。
「まあ、そうなのですか…そうですね。では、量より質を重視して献立を考えます」
「子ども部屋も二人分の装備が必要でございますね。産着や何かもすべて今手配している物を急いで二つずつ用意しなければ…」
「そうだな。金に糸目はつけない。早速最高級を手配しろ」
「心得ましてございます」
「今からそんな…早過ぎでは?」
マリアンナも大袈裟だが、まだ生まれるのは五ヶ月先だ。
ルイスレーンがダレクに支持するのを聞いてそう思った。
「何を言う。子どものものはすべて侯爵家の紋章を入れた特注品だ。着る物も一着ではすまないし、日々大きくなるんだから大きさも少しずつ変えないといけない。家具もいちから造るんだから今から手配して早すぎることはない」
「え、そんなことまで? だって男か女かもわからないのに…」
「ルイスレーン様のときはご懐妊がわかってすぐに取り掛かったと当時の執事から聞いております」
「リンドバルク家の総力をかけて手配しろ」
「畏まりました」
確かに既製品をカタログやお店で買えた前世とは違う。この世界にはこの世界の。貴族社会には貴族社会の常識がある。
私の常識ではわからないことは口出すべきでないと諦めた。
第一、子どものために皆がここまで考えてくれるのだから、それを素直に喜ぶべきだ。
「皆、ありがとう」
涙もろくなったのも妊娠のせいなのか、胸がいっぱいになる。
「泣くな。母親が泣けば子どもたちが不安がる」
溢れかけた涙をルイスレーンが指で拭う。
「あの…私たちはそろそろ失礼いたします。他にも仕事が…」
私が泣き出したので、マリアンナたちもそろそろ私達を二人きりにしようと気をつかってくれる。
「そうだな。呼びつけてすまなかった」
「いいえ、長い間お仕えするのが旦那様だけでしたが、クリスティアーヌ様がお嫁に来られて、またお子様まで増えるなんて、それも一気にお二人もなんて、お仕えするのが今から楽しみですわ」
「皆、ありがとう」
心の底から嬉しさがこみ上げてきて、二人が部屋を出る前にもう一度お礼を言った。
「さて、暫く誰も来ない。ようやく二人きりだな」
そう言ってルイスレーンが私を膝の上に乗せる。
「あの、訊いてもいいですか?」
さっきの産着のことなどもそうだが、この世界や貴族社会でのことに無知すぎる私は気になっていることがあった。
「何だ?」
「双児というのはその…問題はないのでしょうか」
「問題…もしかして後継者とかのことを訊いているのか?」
ルイスレーンが私の意図を察してくれたので頷いた。
「女の子二人か、男女一人ずつならいいのですが、男の子二人となると…誰がこの家を継ぐのかとか、問題になりませんか?」
骨肉の争いにならないかと不安になる。
時代や風習によっては双児は忌み嫌われることもあるかも知れない。
「もし男二人なら、平等に教育し、どちらが継ぐか判断する。一人はリンドバルク家を、もう一人はカディルフ家を継げばいい」
「カディルフ家を?」
母の実家で既に後継の途絶えた家系。屋敷はルイスレーンが買い取り私の名義になっている。
「領地も足りなければリンドバルク家の分を分けてもいい。どうにでもなる。生まれてからのことは後で考えればいい。君は元気な子を生むことだけを考えることだ」
待ち遠しい気持ちでルイスレーンがお腹に触れる。
不安もあるが、今はただ彼の言うとおり出産まで無事に終えることだけを考えよう。
「二人…」
「まあ…」
二人の視線が座っている私のお腹に行く。
「そういうこと…です」
「そういうことだから、これからスベンとベイル、それに今日来ていた産婆の女性、モアラが彼女のお産に関わる。皆も細心の注意を払ってくれ」
「ルイスレーン、そんな大袈裟な…」
「いいや、君は一人でも大変なのに二人分の命をその体で育のだ。もっと母体に負担がかかるのは目に見えている。どんなことが起こるかわからない。どんな些細な異変も見逃さないよう皆にも肝に銘じてもらうべきだ」
「旦那様の仰るとおりです。使用人全員に奥様には注意を払うよう伝えておきます」
「クリスティアーヌ様が安心してお産に挑めるよう、私達も全力を尽くします」
ルイスレーンの思いが伝わったのかダレクもマリアンナも気合十分に答え、私以上に力が入っている。
「ようやく悪阻も収まってこられたなら、まずは落ちた体重を元に戻さなければなりませんね」
マリアンナは私の体重を増やそうと今から何を食べさせようか頭の中の考えが口から洩れている。
「マリアンナ、そんなに一度には食べられないわ。悪阻が収まったからと言って胃が大きくなったわけではないのだし…」
大量の食べ物を目の前に並べられる様が思い浮かんでくる。お腹の子と三人分を食べさせられかねない。
「太りすぎるとかえってよくないと聞くわ。適正体重というのがあるそうよ。体重が増えるのは子どもが大きくなる分だけで、母親が太ったら産道が狭くなって出産が大変らしいわ」
愛理の時も実際に出産したことはないが、何かの記事で目にしたことがある。
子どものためとほしいままに食べていたら、結局は自分を苦しめることになる。
「まあ、そうなのですか…そうですね。では、量より質を重視して献立を考えます」
「子ども部屋も二人分の装備が必要でございますね。産着や何かもすべて今手配している物を急いで二つずつ用意しなければ…」
「そうだな。金に糸目はつけない。早速最高級を手配しろ」
「心得ましてございます」
「今からそんな…早過ぎでは?」
マリアンナも大袈裟だが、まだ生まれるのは五ヶ月先だ。
ルイスレーンがダレクに支持するのを聞いてそう思った。
「何を言う。子どものものはすべて侯爵家の紋章を入れた特注品だ。着る物も一着ではすまないし、日々大きくなるんだから大きさも少しずつ変えないといけない。家具もいちから造るんだから今から手配して早すぎることはない」
「え、そんなことまで? だって男か女かもわからないのに…」
「ルイスレーン様のときはご懐妊がわかってすぐに取り掛かったと当時の執事から聞いております」
「リンドバルク家の総力をかけて手配しろ」
「畏まりました」
確かに既製品をカタログやお店で買えた前世とは違う。この世界にはこの世界の。貴族社会には貴族社会の常識がある。
私の常識ではわからないことは口出すべきでないと諦めた。
第一、子どものために皆がここまで考えてくれるのだから、それを素直に喜ぶべきだ。
「皆、ありがとう」
涙もろくなったのも妊娠のせいなのか、胸がいっぱいになる。
「泣くな。母親が泣けば子どもたちが不安がる」
溢れかけた涙をルイスレーンが指で拭う。
「あの…私たちはそろそろ失礼いたします。他にも仕事が…」
私が泣き出したので、マリアンナたちもそろそろ私達を二人きりにしようと気をつかってくれる。
「そうだな。呼びつけてすまなかった」
「いいえ、長い間お仕えするのが旦那様だけでしたが、クリスティアーヌ様がお嫁に来られて、またお子様まで増えるなんて、それも一気にお二人もなんて、お仕えするのが今から楽しみですわ」
「皆、ありがとう」
心の底から嬉しさがこみ上げてきて、二人が部屋を出る前にもう一度お礼を言った。
「さて、暫く誰も来ない。ようやく二人きりだな」
そう言ってルイスレーンが私を膝の上に乗せる。
「あの、訊いてもいいですか?」
さっきの産着のことなどもそうだが、この世界や貴族社会でのことに無知すぎる私は気になっていることがあった。
「何だ?」
「双児というのはその…問題はないのでしょうか」
「問題…もしかして後継者とかのことを訊いているのか?」
ルイスレーンが私の意図を察してくれたので頷いた。
「女の子二人か、男女一人ずつならいいのですが、男の子二人となると…誰がこの家を継ぐのかとか、問題になりませんか?」
骨肉の争いにならないかと不安になる。
時代や風習によっては双児は忌み嫌われることもあるかも知れない。
「もし男二人なら、平等に教育し、どちらが継ぐか判断する。一人はリンドバルク家を、もう一人はカディルフ家を継げばいい」
「カディルフ家を?」
母の実家で既に後継の途絶えた家系。屋敷はルイスレーンが買い取り私の名義になっている。
「領地も足りなければリンドバルク家の分を分けてもいい。どうにでもなる。生まれてからのことは後で考えればいい。君は元気な子を生むことだけを考えることだ」
待ち遠しい気持ちでルイスレーンがお腹に触れる。
不安もあるが、今はただ彼の言うとおり出産まで無事に終えることだけを考えよう。
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