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当のカーターは顔に酷い火傷を負い皮膚は焼け、熱い炎で焼かれた気管のせいで呼吸もままならず重体だ。
クリオの診断では火傷を負った皮膚から細菌が入る恐れもあり、消毒液に浸した包帯で覆ってはいるが、更に症状は悪化するということだ。
先ほどヘドリックに彼の家族を呼びに行かせたが、小屋で見た様子では何も話せないだろう。
寝台にセレニアを寝かせてクリオの診断を待つ。
「どうだ?」
廊下でベラーシュと二人で待ち、部屋からで出てきたクリオとメリッサに詰め寄った。
クリオが首都でしようとしていたのは、まさにこういった違法に出回る薬物についての研究だった。『狂乱の淑女』についても多少の知識を持ち合わせていたのは幸いした。
「すでに……かなり症状が進んでおり、このまま放置すれば、狂うか死ぬか」
だが、彼の口から発せられたのは決して楽観できるものではなかった。
「どけ!」
クリオを押し退け部屋に駆け込むと、メリッサが背後から叫んだ。
「ジーン様、あの子のためを思うならどうか御慈悲を」
部屋の中央に横たわるセレニアは、体を仰向けにし、肘を立てて苦しげに喘いでいる。
「んんん……ああ……」
片腕を上げて枕を掴み、背中を弓なりに反らすその姿に目を見張る。
顔は蒸気し、瞳は涙で潤み、口はぜいぜいと荒い息を吐く。
「先ほどからずっとああなのです……」
「なんとか……ならないのか」
「解決策は先ほどお話ししましたよね」
「他には……」
「今のところ、それ以外有用な方法はありません。あの様子では何もしなければもってひと晩……」
びくんびくんと跳ねる手足。太ももを擦り合わせ、必死で自分で何とかしようとするものの、どうすればいいかわかっていないため、無駄な努力に終わっている。
「閣下、よろしいでしょうか」
クリオが皆を一旦外へ連れ出す。
「覚悟を決めなければなりません。このまま何もせずに苦しむのを指を咥えて見ているか」
「放っておけば気が狂うか死ぬのだろう?それはあってはならない。く、薬は……解毒剤はないのか」
「あるにはありますが、首都に僅かに出回ってはおりますが、それまで彼女がもちません」
「カーター、あいつが薬を手に入れたなら、解毒剤も持っているかも知れない。探せ!」
「可能性は低いでしょう。どちらも高額ですし、彼がしようとしたことを考えればそちらを用意していたとは思えません。それに、彼が持っていましたが、入手したのは彼かどうかもわかりません。第一、家族を問い詰めても、時間的に厳しいかと……彼女の近しい身内がいれば、決めてほしいのですが、もうどなたもいらっしゃらないのですよね」
「彼女には財産を狙うふざけた親戚しかいない。誰も……彼女のことを助けようとしないだろう」
「では、我々で決めるしかないのですね」
クリオがちらりとメリッサを見る。
メリッサは彼の視線に気づいてこちらを見た。
「少なくともジーン様が婚約者としてあの子に一番近いのではないですか。ジーン様……どうか、あの子に情けをかけてやってください」
「メリッサ……何を…私に……あの子を抱けと?」
「では、このままあの子を狂い死にさせよとおっしゃるのですか?」
メリッサが堪えていた何かを爆発されるように号泣した。
「このまま、あの子が苦しみ死んでいくのを見ているだけなのですか、助ける手立てがあるのに、ジーン様にはそれが出来るのに」
「しかし、正気に戻ったときに彼女がどう思うか……」
「まずは命です、生きてさせいればいくらでも考える時間はあります。それに、この場でその資格があるのはジーン様だけです。少なくともあの子はジーン様との婚約を受け入れました。あなた以外に誰が出来ると言うのですか」
「メリッサさんの言うとおりです。閣下が出来ないと言うなら、他の者に託して、それでよろしいのですか。本当にそれで後悔されませんか」
「目が覚めて正気に戻った時、助けてくれたのがジーン様でなく他の誰かだと知って、あの子はどう思うでしょうか。ジーン様に見捨てられたと思うでしょう」
「大将……見捨てるのか……」
「私だって彼女を助けたい。だが、同時に彼女に取って大切なものを失うのだ」
「命より大切なものなどありません、情けない、この期に及んでぐだぐだと。総大将が聞いて呆れます!あなたたち、こんな情けない人間を総大将と崇めて従ってたんですか!」
メリッサの剣幕に男三人で顔を見合わせる。
そこで覚悟を決めた。彼女ならわかってくれる。
本当なら神の前できちんと誓いを立てた上で成すべきことだが、もはや時間はない。
彼女が目覚めたときのことはその時考える。
放っておけば二度と目覚めることがないのだから。
「わかった……後は頼む」
クリオの診断では火傷を負った皮膚から細菌が入る恐れもあり、消毒液に浸した包帯で覆ってはいるが、更に症状は悪化するということだ。
先ほどヘドリックに彼の家族を呼びに行かせたが、小屋で見た様子では何も話せないだろう。
寝台にセレニアを寝かせてクリオの診断を待つ。
「どうだ?」
廊下でベラーシュと二人で待ち、部屋からで出てきたクリオとメリッサに詰め寄った。
クリオが首都でしようとしていたのは、まさにこういった違法に出回る薬物についての研究だった。『狂乱の淑女』についても多少の知識を持ち合わせていたのは幸いした。
「すでに……かなり症状が進んでおり、このまま放置すれば、狂うか死ぬか」
だが、彼の口から発せられたのは決して楽観できるものではなかった。
「どけ!」
クリオを押し退け部屋に駆け込むと、メリッサが背後から叫んだ。
「ジーン様、あの子のためを思うならどうか御慈悲を」
部屋の中央に横たわるセレニアは、体を仰向けにし、肘を立てて苦しげに喘いでいる。
「んんん……ああ……」
片腕を上げて枕を掴み、背中を弓なりに反らすその姿に目を見張る。
顔は蒸気し、瞳は涙で潤み、口はぜいぜいと荒い息を吐く。
「先ほどからずっとああなのです……」
「なんとか……ならないのか」
「解決策は先ほどお話ししましたよね」
「他には……」
「今のところ、それ以外有用な方法はありません。あの様子では何もしなければもってひと晩……」
びくんびくんと跳ねる手足。太ももを擦り合わせ、必死で自分で何とかしようとするものの、どうすればいいかわかっていないため、無駄な努力に終わっている。
「閣下、よろしいでしょうか」
クリオが皆を一旦外へ連れ出す。
「覚悟を決めなければなりません。このまま何もせずに苦しむのを指を咥えて見ているか」
「放っておけば気が狂うか死ぬのだろう?それはあってはならない。く、薬は……解毒剤はないのか」
「あるにはありますが、首都に僅かに出回ってはおりますが、それまで彼女がもちません」
「カーター、あいつが薬を手に入れたなら、解毒剤も持っているかも知れない。探せ!」
「可能性は低いでしょう。どちらも高額ですし、彼がしようとしたことを考えればそちらを用意していたとは思えません。それに、彼が持っていましたが、入手したのは彼かどうかもわかりません。第一、家族を問い詰めても、時間的に厳しいかと……彼女の近しい身内がいれば、決めてほしいのですが、もうどなたもいらっしゃらないのですよね」
「彼女には財産を狙うふざけた親戚しかいない。誰も……彼女のことを助けようとしないだろう」
「では、我々で決めるしかないのですね」
クリオがちらりとメリッサを見る。
メリッサは彼の視線に気づいてこちらを見た。
「少なくともジーン様が婚約者としてあの子に一番近いのではないですか。ジーン様……どうか、あの子に情けをかけてやってください」
「メリッサ……何を…私に……あの子を抱けと?」
「では、このままあの子を狂い死にさせよとおっしゃるのですか?」
メリッサが堪えていた何かを爆発されるように号泣した。
「このまま、あの子が苦しみ死んでいくのを見ているだけなのですか、助ける手立てがあるのに、ジーン様にはそれが出来るのに」
「しかし、正気に戻ったときに彼女がどう思うか……」
「まずは命です、生きてさせいればいくらでも考える時間はあります。それに、この場でその資格があるのはジーン様だけです。少なくともあの子はジーン様との婚約を受け入れました。あなた以外に誰が出来ると言うのですか」
「メリッサさんの言うとおりです。閣下が出来ないと言うなら、他の者に託して、それでよろしいのですか。本当にそれで後悔されませんか」
「目が覚めて正気に戻った時、助けてくれたのがジーン様でなく他の誰かだと知って、あの子はどう思うでしょうか。ジーン様に見捨てられたと思うでしょう」
「大将……見捨てるのか……」
「私だって彼女を助けたい。だが、同時に彼女に取って大切なものを失うのだ」
「命より大切なものなどありません、情けない、この期に及んでぐだぐだと。総大将が聞いて呆れます!あなたたち、こんな情けない人間を総大将と崇めて従ってたんですか!」
メリッサの剣幕に男三人で顔を見合わせる。
そこで覚悟を決めた。彼女ならわかってくれる。
本当なら神の前できちんと誓いを立てた上で成すべきことだが、もはや時間はない。
彼女が目覚めたときのことはその時考える。
放っておけば二度と目覚めることがないのだから。
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