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一度屋敷に戻り私とティアナさんを送り届けると、ジーン様は仕事があるからと今度は馬に乗って護衛と共に出掛けていった。
ヴェイラート伯爵家の後始末をするためだった。
夕食の時間になってもジーン様は戻ってこず、私はティアナさんと夕食を一緒に取り、二人で談話室でお茶を頂いていた。
「やっぱり、あなたの淹れるお茶はなかなかね」
「ありがとうございます」
ティアナさんが素直に誉めてくれた。カフェでも何気に私を気遣ってくれていた。
私を邪魔者のように見ていた昨日と何だか印象と違っている。
「そんなに身構えないで。昨日は悪かったわ。まさかジーンに婚約者が居たとは思わなくて……」
「ティアナさんは……もうすぐ結婚されるのですよね」
「そうよ。陛下がお決めになった相手とね。結婚前なのにこんなところまで、何をしに来たのかって言いたいの?」
「いえ……あの……色々お忙しいのではと……」
何だか結婚を目前にした女性らしくないとは思う。彼女のことは良く知らないが、結婚と言うものにもっと夢を持ってキラキラしているものだと思っていたのに、彼女はそうではないのか。
「結婚前の女性は……もっと楽しそうにしているものとばかり……」
「あなただって、婚約したての女性にはとても見えないわ。今日のことで色々事情があるのだとはわかるけど……ジーンのことはそれほど好きじゃなかった?」
「いえ、そうでは……」
慌てて否定する私を見て、ティアナさんはふふっと笑った。
「冗談よ。ジーンはあの容姿だし身分も地位も申し分ないから、本人が何もしなくても、今日のあの女みたいなのは結構いたのよ。学園に居る頃は特にね。どうやったのか、寮の部屋に忍び込んで殆ど裸でベッドに居た女性もいたらしいわ」
「え、そんなこと……」
「はしたないことだけど、それで辺境伯夫人の地位が得られれば、儲けものでしょ。だから色仕掛けで来る女性は今でも苦手だし、そのせいで女性不信に陥ったみたいだし」
そんなことがあったとは思っても見なかった。
いつも人当たりが良く、女性に対しても丁寧な物腰で接していたように見えた。
「だから、あなたがジーンの婚約者だって聞いた時、一瞬あなたもそうなのかな、なんて思ったの。あ、今はそんな風に思ってないから」
「彼は……私が困っているのを見かねて助けてくれただけです」
「そうみたいね。でも、それだけなら婚約までしなくても、相手を力で捩じ伏せれば良かったのよ。それくらいの力はその気になればいくらでも振るえる筈よ」
「そうでしょうか……私にはわかりません。でも、それが最善の策だと彼が思ったから、そうされたのではないですか」
他にどんな方法があったのか、カーター親子を密かに捕らえてどこかへ追いやる?そんな法を犯してまでする価値もない。
結婚を渋るティアナさんを諦めさせるためでもあったとは言えず、黙っているとティアナさんはとんでもないことを口にした。
「ジーンが本気だった……とは考えないの?」
「え、いえ……そんな…」
それはないとは思う。とも言えない。言えば彼女にこれが便宜状の婚約だとばれてしまう。
「ジーンは何も言わなかった?言っておくけど、私は別にジーンとどうにかなりたいと思ってここに来たのではないわよ」
「え?それは……どういう?あ、でも……お相手のことは陛下からのお話だから断れなくて……でも……え?」
「確かに相手のロドリオを引き合わせてくれたのは陛下だけど、私が心底嫌だと思ったら、陛下も無理強いするような方ではないわ」
頭が混乱する。ティアナさんは結婚が嫌でここに来たのではない?今の様子だと、その婚約者の方と結婚することを拒絶しているわけではない?
「その……結婚がお嫌ではないと……」
「もちろん、何も不満がないならここには来ないわ。でも、相手が嫌だからとかでなくて……このまま結婚することに不安があるのよ。だから距離を置くためにここへ来たの。何しろここは辺境でしょ?逃避行には最適じゃない」
目を白黒させている私に、ティアナさんが軽くウィンクする。
「私のことはいいから、今はあなたとジーンのことよ。ジーンがここまで恋愛下手だとは思わなかったわ。情けないわね」
「面目ない。ここまで頑固だとは思わなかったよ」
後ろから声が聞こえてびっくりして振り返ると、しょんぼりとしたジーン様がいつの間にか扉を開けて立っていた。
「ジ……ジーン」
「あなたが悪いんでしょ。最初に勘違いしたのはあなたなんだから。言っておきますけど、私はあなたを従姉妹以上に思ったことはないし、これからもそうよ。あの時も、周りを安心させるために私に求婚したのはわかっているんだから」
「わかっているよ。君といると楽だったし、あの時私は女性というものに幻滅していたから、君以外の女性とうまくやっていく自信がなかった。君とならいい夫婦になれると思っていた」
「だからって、あなたと子作りなんてごめんよ。身内としてのキスはありでも、恋人としてのキスなんてとても無理。私は私を最高の恋人だと思ってくれる人でなければ結婚なんてできないわ。たとえ貴族の結婚の大半が家と家の結び付きだとしても、それくらいの夢は持っているわ」
「私も今ではそう思う。あの時の話はなかったことにしてくれ」
「そんなの、とっくに忘れたわ」
話についていけない私の頭を通り越して、ジーン様とティアナさんが互いに微笑みあった。
ヴェイラート伯爵家の後始末をするためだった。
夕食の時間になってもジーン様は戻ってこず、私はティアナさんと夕食を一緒に取り、二人で談話室でお茶を頂いていた。
「やっぱり、あなたの淹れるお茶はなかなかね」
「ありがとうございます」
ティアナさんが素直に誉めてくれた。カフェでも何気に私を気遣ってくれていた。
私を邪魔者のように見ていた昨日と何だか印象と違っている。
「そんなに身構えないで。昨日は悪かったわ。まさかジーンに婚約者が居たとは思わなくて……」
「ティアナさんは……もうすぐ結婚されるのですよね」
「そうよ。陛下がお決めになった相手とね。結婚前なのにこんなところまで、何をしに来たのかって言いたいの?」
「いえ……あの……色々お忙しいのではと……」
何だか結婚を目前にした女性らしくないとは思う。彼女のことは良く知らないが、結婚と言うものにもっと夢を持ってキラキラしているものだと思っていたのに、彼女はそうではないのか。
「結婚前の女性は……もっと楽しそうにしているものとばかり……」
「あなただって、婚約したての女性にはとても見えないわ。今日のことで色々事情があるのだとはわかるけど……ジーンのことはそれほど好きじゃなかった?」
「いえ、そうでは……」
慌てて否定する私を見て、ティアナさんはふふっと笑った。
「冗談よ。ジーンはあの容姿だし身分も地位も申し分ないから、本人が何もしなくても、今日のあの女みたいなのは結構いたのよ。学園に居る頃は特にね。どうやったのか、寮の部屋に忍び込んで殆ど裸でベッドに居た女性もいたらしいわ」
「え、そんなこと……」
「はしたないことだけど、それで辺境伯夫人の地位が得られれば、儲けものでしょ。だから色仕掛けで来る女性は今でも苦手だし、そのせいで女性不信に陥ったみたいだし」
そんなことがあったとは思っても見なかった。
いつも人当たりが良く、女性に対しても丁寧な物腰で接していたように見えた。
「だから、あなたがジーンの婚約者だって聞いた時、一瞬あなたもそうなのかな、なんて思ったの。あ、今はそんな風に思ってないから」
「彼は……私が困っているのを見かねて助けてくれただけです」
「そうみたいね。でも、それだけなら婚約までしなくても、相手を力で捩じ伏せれば良かったのよ。それくらいの力はその気になればいくらでも振るえる筈よ」
「そうでしょうか……私にはわかりません。でも、それが最善の策だと彼が思ったから、そうされたのではないですか」
他にどんな方法があったのか、カーター親子を密かに捕らえてどこかへ追いやる?そんな法を犯してまでする価値もない。
結婚を渋るティアナさんを諦めさせるためでもあったとは言えず、黙っているとティアナさんはとんでもないことを口にした。
「ジーンが本気だった……とは考えないの?」
「え、いえ……そんな…」
それはないとは思う。とも言えない。言えば彼女にこれが便宜状の婚約だとばれてしまう。
「ジーンは何も言わなかった?言っておくけど、私は別にジーンとどうにかなりたいと思ってここに来たのではないわよ」
「え?それは……どういう?あ、でも……お相手のことは陛下からのお話だから断れなくて……でも……え?」
「確かに相手のロドリオを引き合わせてくれたのは陛下だけど、私が心底嫌だと思ったら、陛下も無理強いするような方ではないわ」
頭が混乱する。ティアナさんは結婚が嫌でここに来たのではない?今の様子だと、その婚約者の方と結婚することを拒絶しているわけではない?
「その……結婚がお嫌ではないと……」
「もちろん、何も不満がないならここには来ないわ。でも、相手が嫌だからとかでなくて……このまま結婚することに不安があるのよ。だから距離を置くためにここへ来たの。何しろここは辺境でしょ?逃避行には最適じゃない」
目を白黒させている私に、ティアナさんが軽くウィンクする。
「私のことはいいから、今はあなたとジーンのことよ。ジーンがここまで恋愛下手だとは思わなかったわ。情けないわね」
「面目ない。ここまで頑固だとは思わなかったよ」
後ろから声が聞こえてびっくりして振り返ると、しょんぼりとしたジーン様がいつの間にか扉を開けて立っていた。
「ジ……ジーン」
「あなたが悪いんでしょ。最初に勘違いしたのはあなたなんだから。言っておきますけど、私はあなたを従姉妹以上に思ったことはないし、これからもそうよ。あの時も、周りを安心させるために私に求婚したのはわかっているんだから」
「わかっているよ。君といると楽だったし、あの時私は女性というものに幻滅していたから、君以外の女性とうまくやっていく自信がなかった。君とならいい夫婦になれると思っていた」
「だからって、あなたと子作りなんてごめんよ。身内としてのキスはありでも、恋人としてのキスなんてとても無理。私は私を最高の恋人だと思ってくれる人でなければ結婚なんてできないわ。たとえ貴族の結婚の大半が家と家の結び付きだとしても、それくらいの夢は持っているわ」
「私も今ではそう思う。あの時の話はなかったことにしてくれ」
「そんなの、とっくに忘れたわ」
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